約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第5章 勇気

第3話 父の友に会う

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★◇◆◇◆◇◆◇


「あまり目立つことはしないほうがいい。ターメリック、羅針盤は君がしまっておいてくれ」

 クィントゥムに言われて、ターメリックが懐に羅針盤をしまうその瞬間、橙色の光がとある人物を指した。
 けれども、その人物にはもう光は見えていなかったらしい。
 ターメリック一行は、まるで接客業のお手本のような笑顔に出迎えられた。

「6名様ですね。お部屋の準備ができるまで、どうぞこちらの食堂でおくつろぎください」

 彼女は、薄茶の髪を頭のてっぺんでお団子にまとめた、どんぐり眼であひる口の、どこにでもいそうな宿屋の看板娘だった。
 しかし、腕まくりをして見えている上腕は引き締まっていて、それだけで剣術か何かを嗜んでいることがわかった。
 カッコイイなぁ……!
 きっと、足腰も鍛えていて丈夫なんだろうなぁ。
 ぼくとは大違いだ。

 そんな彼女は、テキパキとターメリックたちをテーブル席に案内し、食堂内にて忙しく働き始めた。
 小さいなりに賑わっているこの宿屋には、多くの常連客が居座っているらしい。
 そんな常連客同士の会話から、宿屋の看板娘の名前はすぐにわかった。
 フィオ・マリア。
 この国では多数派のクリスタン教徒で、フィリアはもちろん「マリア」だ。

「……あ、やっぱりぼくより歳上だ、フィオさん」
「え? 何言ってんだよ、ターメリック。そんなの一目瞭然だろ」
「あら、ノウェム君。それはちょっと失礼じゃない? 確かにあの子は大人っぽく見えるけど、そういうことは言わないでおくのも大事よ」
「あ、そっか。ごめんなさい」
「うん、素直でよろしい」
「よろしい」
「クランは黙ってろ」

 ターメリックたち6人は、テーブル席で昼食を囲みながら、広い食堂で忙しく働くフィオを観察していた。
 彼女の年齢も、常連客の会話から明らかになり、ターメリックは会話すらしていないフィオのことを、すでに信頼し始めていた。
 そして、もうひとつわかったことは、フィオは時間が空いたときはリーブル城に行って清掃の手伝いをしているということだった。
 つまり、フィオは忙しい身なのである。

 ターメリックはフィオに話しかける機会を伺っていたものの、食堂の客が少なくなってきたのを見計らって、フィオはすぐにリーヴル城へと出かけてしまったのだった。
 一行は口々に残念がりながらも、目の前に出されたクラムチャウダーをモグモグと完食していった。
 美味しいなぁ……
 何が入ってるのかは、よくわからないけど、とにかく美味しい。
 ターメリックが皿に残った最後のクネクネしたマカロニをスプーンですくっていると、

「おやぁ、お兄さん。粋な髪色だねぇ」

 突然、テーブル席に中年の男性がやってきた。
 常連客たちの会話から、宿屋ノヴァンヴルの主人であり、フィオの父であるラモーだとわかった。
 フサフサの髪は焦げ茶色で、糸のように細い目をさらに細めて微笑んでいる。

 そっか、こっちでも珍しいんだ。
 最初は驚いたけど、すっかり慣れちゃったな。
 ターメリックは照れたように笑って「ありがとうございます」と答えておいた。
 ラモーは「ちょっとごめんよ」と空いている椅子を持ってきて、ターメリックの隣に腰掛けた。

「いやぁ、ついつい話しかけちまった。なんだかお兄さんを見ていると、昔の友達を思い出してねぇ」
「え、ご主人のお友達も、こんな髪色なんですか?」
「ああ、そうだよ。金色じゃなくて、黄色の髪……お兄さんのよりは、少し薄い黄色だったかな」
「へぇ……」

 ラモーの話を聞きながら、ターメリックは自分の父であるサフラン・ダリオのことを思い出していた。
 父さんの髪も、ぼくのよりは薄めの黄色だけど、あれは歳のせいだと思うんだよね。
 そういえば、父さんって友達とかいたのかな。
 友達や仲間を大事にしろって言ってたわりに、自分のことは何も教えてくれなかったな。
 なんでだろう。
 考え込むターメリックだったが、ラモーは気にせずに話し続けていた。

「まあ友達といったって、向こうはもう友達だとは思ってないだろうがね」
「え?」
「彼は敬虔なクリスタン教徒でね、おれは訳あって棄教してしまったんだが、それが許せなかったらしい。今でも絶縁状態なんだよ」
「な、なんですか、それ! 酷すぎます! だってそんなの、関係ないじゃないですか!」

 大切な友達だったんだよね!?
 それが棄教しただけで絶縁状態なんて……
 どうしてそうなるんだよ、酷い人だなぁ。
 ターメリックは、自分でも気づかないうちに声を荒らげていた。
 同じテーブルを囲む仲間たちも、食事の手を止めて呆気にとられている。
 けれどもラモーは「あいつには関係あったのさ」と、口元に寂しさを滲ませて続けた。

「元気でやってるかな、サフラン・ダリオは」

 ……え?
 今、なんて……

「スパイス帝国の宮殿に勤めているところまでは聞いていたんだが、そこからは何の便りも無くなってしまったからなぁ」
「……」

 ラモーの言葉に、ターメリックは息を呑んだ。
 テーブルを囲む仲間の中で、唯一ターメリックの父の名前を知っているクィントゥムが、ターメリックに強い視線を向けてくる。
 どうやら、早く自分の正体を明かせ、ということらしい。
 ターメリックは、急かされるまま口を開いた。

「あの! スパイス帝国の宮殿に勤めているサフラン・ダリオは、ぼくの父です!」

 椅子に座ったまま、膝を揃えてラモーへと向き直る。
 もちろんターメリックは、父サフランからラモーのことを聞いたことはない。
 そもそも、父に友人がいたという話自体初耳なのである。
 なので、これ以上何か話すことはできなかったが、ラモーはそんなターメリックを前に目を見張っていた。

「そうか……君は、サフランの息子なのか」
「はい。ターメリック・ジュストといいます」
「なるほど。言われてみれば、髪の色だけじゃなくて、顔かたちや雰囲気も似ているような気がするな」
「そ、そうですか……? 父に似ているって言われたの、初めてです」
「え? ああ、まあ確かに、サフランはいつも怒ったような顔をしていたから、今の君とはあまり似ていないかもしれないな……って、どっちなんだって話だなぁ!」

 ラモーは楽しそうに笑っていたが、ターメリックは小さく安堵のため息を漏らしていた。
 もしかすると「サフラン・ダリオ」違いかもしれないと思っていたのだ。
 でも良かった、絶対父さんのことだ。
 ぼくなんて、父さんの怒った顔しか見たことないんだから。
 父さん、元気かな……
 ターメリックがスパイス帝国で囚われの身となったままの父に思いを馳せていると、ラモーが「さて」と咳払いした。

「その様子だと、サフランが息子を訪ねさせたわけじゃなさそうだな。ターメリック、ここへは観光で来たのか?」

 その質問には、説明の上手なクィントゥムが今までの経緯も含めて旅の目的として話した。
 ラモーは、元クリスタン教信者として、すぐに話の内容を理解してくれた。

「なるほど、うちの娘が勇気の剣にねぇ……まぁ確かに、フィオは小さな頃から剣術を習っていて、ここらへんじゃ右に出る者はいない。皆さんのお役に立つだろう」
「わあ……! 早く会ってお話ししたいです!」

 ターメリックの期待に満ちた言葉に、仲間たちも揃って頷いた。
 しかし、ラモーは浮かない顔で、

「残念ながら……フィオが最終決戦の場にいるかどうかは、それこそ神のみぞ知る、だろうなぁ」

 と、呟いた。
 どういう意味だろう。
 また何か、ぼくだけ知らないことだったり……?
 不安になったターメリックは仲間たちの顔を見回したが、納得している表情なのはクィントゥムだけだった。


つづく
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