約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第6章 希望

第3話 記載のない剣

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★◇◆◇◆◇◆◇


 なんだよ、みんな……
 確かにそうだけどさぁ……

 ターメリックがムスッとしていると、何かを察知したクワトロが「それにしても」と話題をもとに戻してくれた。

「まさか、ノウェムが伝説の剣に選ばれし者だったなんてね……もしかして、あの剣はノウェムを持ち主にしたくてこの店を居場所にしていたのかも」
「そ、そうだね。ぼくもそう思うよ」

 ターメリックがぎこちなく相槌を打つと、ノウェムが「よし」と膝を打って立ち上がった。
 話はもう終わったと言わんばかりの表情である。
 どうやら、すぐにでも出発したいらしい。

「それじゃ、顔も見せたし、もう行くわ。希望の剣は同じ場所にあるんだろ? 親父にバレないうちに、もらってくぜ」
「え、ええっ!? ちょっ、ちょっと待ってよノウェム!」

 そんなノウェムを、クワトロは大慌てで引き止めた。
 その必死の形相に、ノウェムは「なんだよ」と顔をしかめつつ、退室しようとしていた足を止めた。

 かなり不機嫌な顔だが、一応話は聞いてあげるようで、クワトロは嬉しそうに「あのね」と口を開いた。

「実は、ノウェムに……皆さんに見てもらいたいものがあるんです」

 見てもらいたいもの……?
 って??

 ターメリックが斜め向かいに座り直したノウェムに視線を送ると、ノウェムは困ったように首を傾げていた。
 どうやら、ノウェムにも心当たりはないらしい。

 クワトロは、そんなふたりの顔を面白そうに見やると、短パンのポケットに入れた短剣をテーブルの上に置いた。

「これは、ボクの精霊たちを呼び出すのに使う短剣なんですけど……皆さん、見覚えはありませんか?」
「見覚え……?」

 ターメリックは短剣を手に取ろうとして「あっ」と声を上げた。
 これ、見覚えがあるなんてもんじゃない!
 ほかの仲間たちも、短剣を前に目を丸くしていた。

 短剣の鞘は、茨と王冠の美しい銀細工。
 柄には大きな青い色の宝石が埋め込まれ、眩しく輝いている。
 それはまさしく、伝説の剣と同じ装飾の施された短剣であった。

 この短剣も、伝説の剣なのかな?
 でも、待てよ……
 伝説の剣は全部で7振り、羅針盤の光だって青い色のものはない。

 もしかして……
 偽物の伝説の剣、とか?
 どうなの? クィントゥム君!

 ターメリックは、クリスタン神話にいちばん詳しいクィントゥムの顔を、斜め向かいから覗き込んだ。

 何か知ってる?
 と、ターメリックが尋ねるよりも早く、クィントゥムは「こ、これは、いったい……」と口にしたかと思うと、そのまま固まってしまった。

 視線は短剣に釘付けである。
 そんなクィントゥムに、クワトロは満足気に微笑むと、まるで神話の一節を読み上げるように、説明してくれた。

「茨と王冠の美しい銀細工、柄には青く透き通ったサファイア。この短剣は『夢の剣』といいます」
「夢……?」
「そうです、クィントゥムさん。これは、伝説の剣に選ばれたものの、最終決戦前日に姿を消したミール・ミゲルの創った剣なんです」
「な、なんだって……!」

 クィントゥムの驚き様が、クワトロの話がクリスタン神話には記述されていない事柄であることを物語っている。
 夢の剣という名の短剣が、窓からの光を浴びて柄のサファイアを輝かせていた。

 仲間たちは皆、顔を見合せている。
 長年クワトロとともに過ごしていたノウェムでさえ、この話は初耳らしく、開いた口が塞がらないようだった。

 ミール・ミゲル……
 勇気の剣に選ばれし者としての使命をまっとうせず、仲間たちの前から姿を消した信者……

 彼はいったいなぜ、伝説の剣に似せた短剣を創り上げたのだろう。
 そんな仲間たちの疑問に答えるように、クワトロがポツリと呟いた。

「この短剣には、名前の通り夢が込められているんです。使命の重圧に負けて姿を消したミール・ミゲル……彼の、仲間たちとともにありたかったという夢が……」
「クリスタン神話に記載されている情報は少ないが、ミール・ミゲルは銀細工職人であったらしいね」
「わ、さすがクィントゥムさん。お詳しいんですね。そうなんです。ごくありふれた短剣に銀細工を施し、伝説の剣には使われていない青いサファイアの宝石を埋め込んだ夢の剣……そこに、ミール・ミゲルは魔法の力も込めたんです。ボクが精霊を使役……いや、精霊と友達になれるのは、この剣のおかげなんですよ」
「へぇ……」

 クワトロとクィントゥムの会話に、ターメリックは思わず感嘆の呟きを漏らしていた。

 夢の剣もすごいけど、まだまだクィントゥム君の知らない話があるっていうのもすごいよね。
 でも……ちょっと待てよ。
 どうしてそんなすごい剣がノウェム君の家にあって、クワトロ君が持ってるんだろう?

 ターメリックが頭に浮かべた疑問には、もちろんほかの仲間たちも気づいていた。
 だれもがクワトロに質問したくてウズウズしていたが、そのことに気づいているらしいクワトロは、

「すみません、皆さんが気になっていることに答える前に、説明しないといけないことがあるんです。あ、でも待てよ、この説明で皆さんの疑問に答えて差し上げることになるのかも……」
「クワトロ! いいから早く話してくれよ! 気になるじゃねぇか!」

 一度は椅子に座り直したノウェムが、痺れを切らして立ち上がった。
 父親との関係もあって、一刻も早くこの場を去りたいのだろうが、話を中途半端にもできないようでイラついているらしい。

 そんなノウェムを見ながら、クワトロは「せっかちだなぁ」と笑ってから話し始めた。

「この夢の剣、伝説の剣に似ているのは外見だけではないんです。実は……剣を抜けるのは、ごく限られた一部の人だけ、なんですよ」

 一部の人……って、どんな人だろう。
 ターメリックはそこで首を傾げていたが、クィントゥムが「なるほど、そういうことか」と呟いたので、思わず彼の顔を凝視してしまった。

 クィントゥム君、ぼくはもう君と同じ早さで物事を理解することを諦めているわけだけど……
 いくらなんでも早すぎない!?

 そんなターメリックの心の声を代弁するかのように、クワトロは小さく口を尖らせた。

「もう、クィントゥムさん。ぼく、この説明するのにけっこう練習したんですよ。あんまり先回りしないでください」
「あ、ああ、すまない。だが、心配はいらないよ。私以外の仲間は、君からの説明を求めているようだからね」

 クワトロに弁解したクィントゥムは、ターメリックの顔を見てクスッと笑った。

 ……むぅ。
 今度はターメリックが口を尖らせる番だった。

 クィントゥム君てば、ちょっと調子乗ってない?
 ……いや、わからないぼくも悪いけど。

 そんなふたりのやり取りを見て微笑んでいたクワトロは、軽く咳払いをしてから続きを話し始めた。

「夢の剣を抜くことができる一部の人たち……それはずばり、ミール・ミゲルの血を継ぐ者たちのことを言います」
「へぇ、そうな」
「まさか……!」

 ターメリックの相槌を遮るように、今まで黙っていたフィオが息を呑んだように呟いた。
 そして、説明を練習したというクワトロを慮ってか、はっと口元を手で押えたのだった。
 けれどもクワトロは「もう大丈夫ですよ」とニッコリ笑って頷くと、

「だって、そのまさか、ですからね」

 そう言って、テーブルの上に置いた夢の剣を手に取り、ゆっくりと引き抜いてみせた。

「改めまして……ボクの名前はクワトロ・ジェロニモ。クリスタン神話での逃亡者ミール・ミゲルの血を継ぎし者です。どうかボクを、皆さんの仲間に入れてください」

 小さな剣身には、ターメリックを見つめる真剣な顔のクワトロが映り込んでいた。


つづく
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