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【Episode 010】 潜入
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【鬼岩城】の厚い外壁の影に、二つの人影が潜んでいた。ネロとヨハンだ。
血のように赤黒い雲が覆う夜空の下、異形の要塞は闇に沈んでいる。
「これが、噂に聞くこの【隔離世奈落】で最も危険視されてる建造物か……。まさに、鬼の住処ってところだな」
ヨハンは暗視ゴーグルをしながら、巨大な建造物を見上げて軽口を呟いた。その巨大な要塞は、威圧的に闇の中に佇んでいる。
「無駄口を叩くな。行くぞ」
ネロの言葉は短く、冷たい。その顔は、シロを奪われた怒りと焦燥で、硬くこわばっている。高周波振動刀『紅月』は、その右手の中で静かにその時を待っている。
「ハッ、相変わらず冷たいね、ネロ。まぁ、焦る気持ちは分かるが、急いでも無駄だよ。この城は、侵入者の動きに合わせて内部構造を変える。力づくで突破しようとしても、永遠に迷うだけさ」
ヨハンはそう言いながら、手元のタブレット端末に複雑なコードを打ち込み始めた。その指先が奏でる電子音が、緊張した空気の中に微かに響く。
「それを、お前がどうにかするんだろ」
「もちろんだ。この要塞の制御システムにハッキングを仕掛け、一時的に内部構造の再構築を止める。ただし、制限時間は短い。せいぜい10分といったところだ」
ネロは無言で頷いた。10分。シロを見つけ出し、奪還するにはあまりにも短い時間だ。
「よし、ここの壁には古い排気口がある。セキュリティが甘いはずだ」
ヨハンはタブレットをネロに示し、城壁の特定の一点を指差した。
「ただし、そこはセンサーが張り巡らされている。オレがハッキングで無効化するが、数秒のズレも許されない。一瞬でもセンサーに触れたら、警報が鳴り響き、全セキュリティが起動する」
「チッ、面倒だな」
ネロは舌打ちをするが、その瞳には迷いはない。
「始めるぞ、3、2、1……GO!!」
ヨハンの合図と同時に、ネロの身体は影のように動き出した。彼は、排気口の小さな穴に向かって一瞬で肉薄し、『紅月』の刃を滑り込ませる。高周波で振動する刃が金属をバターのように溶かし、小さな入り口を切り開いた。
ネロは切り開いた穴から城壁内部へと滑り込み、後方からヨハンが続く。
「さすがは死神様だ。一瞬の躊躇もない。さて、こっからが本番だ。ネロ、オレが内部マップをナビゲートする。お前はただ、目の前の障害を排除し、あの娘が連れて行かれたであろう場所――【百鬼の間】を目指せ」
ヨハンはタブレットを操作し、ネロの左目のコンタクトレンズ型デバイスに、城の内部マップと目標地点を投影した。
二人が城内に足を踏み入れた瞬間、城の重厚な沈黙が、まるで巨大な獣の息遣いのように感じられた。内部の空気は冷たく、機械油と血肉の混ざった腐臭が鼻を突く。
ネロは、ヨハンのナビゲーションに従い、暗い通路を疾走した。足音は最小限に抑えられているが、彼の焦りが、その速度を限界まで押し上げている。 ヨハンは、タブレットのマップを睨みながら指示を飛ばす。
「そこを右だ、ネロ! マップの再構築が始まるまで、残り9分20秒!」
通路を曲がった直後、前方の暗闇から、無数の機械的な足音が、床を叩く不協和音となって響き渡った。
「チッ、早速か!」
ネロは即座に『紅月』を構える。彼の視線の先に現れたのは、武装した戦闘ドローンの一群だ。センサーライトが赤く光り、彼らに照準を合わせている。
「ドローンだ! 数が多いぞ、ネロ!」
「関係ない!」
ネロは加速し、ドローンの一群へと突っ込んだ。
『紅月』の一閃が、最前列のドローンの胴体を瞬時に切り裂き、火花とオイルを撒き散らす。ネロは倒れた機体を足場に飛び上がり、空中から二体目のドローンの頭部を叩き割った。
ドローンたちは一斉に銃火を浴びせてくるが、ネロは予測不能な動きでそれをかわし続ける。通路の壁と床に、銃弾が激しく着弾する音と、金属が悲鳴を上げる『紅月』の音が響き渡る。
「ネロ、進路変更だ! この先は、重装甲の迎撃ユニットが待ち構えてる!」
ヨハンが緊急の指示を出す。
ネロはドローンを三体まとめて斬り捨てた直後、壁を蹴って方向転換し、別の通路へと飛び込んだ。
その通路の奥で、待ち構えていたかのように、巨大な人影が、重々しい足音と共に姿を現した。
「「――ようこそ、死神。お前を待っていたぜ!!」」
それは、全身を鈍色の金属装甲で覆った巨影。体躯は以前よりもさらに巨大化し、その全身には、無数の重火器と、禍々しいブレードが組み込まれていた。
それは、全身機械化手術を終え、より強力な戦闘兵器へと変貌した、ライガとフウガだった。
「「お前のお陰で、こんな姿になっちまったじゃあねぇかァアア!!」」
そう、今の姿は、昔の姿とかなりかけ離れていた。
その姿はまさに御伽噺に出てくるケンタウロスと両面宿儺を混ぜたような姿だった。
今や兄弟は完全に合体し、四足四腕二面の異形となってネロとヨハンの前に立ちはだかった。
四腕には以前よりも巨大化したチェーンソーブレードとドリルレイピアを持ち、下半身の背部装甲には多連装マルチランチャーや重機関銃が砲台のように備え付けられている。
ネロは即座に『紅月』を構える。ヨハンが背後で息を呑むのが分かった。
「おいおい……、本気かよ……!? 有り得ねぇ……コイツら完全に合体してやがる!! これじゃあ、迎撃ユニットのほうがまだマシだったよ!!」
ヨハンの声には、技術者としての驚愕と、圧倒的な脅威を前にした焦りが混じっていた。
「知るか」
ネロは短く吐き捨てる。彼の瞳には、シロを奪った敵への、純粋な殺意の炎が燃え上がっていた。
「雑魚どもと遊んでいる暇はない。お前らをまとめて塵にして、アイツを奪い戻す!」
「「ギャハハハハ! それはどうかな、死神ィ! オレたちがいる限り、テメェは一歩も進めねぇ!」」
合体した兄弟が歪んだ笑い声を浮かべた直後、下半身の背部装甲に備え付けられた多連装マルチランチャーが火を噴いた。炸裂弾が通路の天井と床に着弾し、爆炎と破片の嵐を巻き起こす。同時に、巨大な四腕を振り上げた。チェーンソーブレードとドリルレイピアが、通路の壁を削りながらネロめがけて猛然と襲いかかる。
「ネロ! マップ再構築まで残り8分45秒! 時間は待ってくれねぇぞ!」
ヨハンが緊急の警告を出す。
ネロは爆炎と刃の猛攻の中、一瞬で判断した。
彼は通路の床を蹴り、爆発の衝撃波をわずかに利用する形で横へと跳躍する。その動きは常人には視認できないほどの速さだ。 着地と同時に、ネロは『紅月』を一閃。地面を滑るように動くライガのチェーンソーブレードを、高周波振動刀で受け止め、火花を散らしながらこれを受け流す。
そして、次の瞬間には巨体の側面へと肉薄していた。
「――ッ!?」
ネロの刃が、兄弟の装甲にこれまでとは比較にならないほどの抵抗を感じる。全身機械化の恩恵か、その防御力は桁違いに向上していた。
「「オラァアアア!! もう一度ドリルで串刺しにしてやるぜ!!」」
ドリルレイピアが、ネロの胴体を目掛けて凄まじい勢いで迫る。
ネロは地面を低く滑り込み、ドリルレイピアの直撃を紙一重でかわした。ドリルは通路の床に深々と突き刺さり、要塞内に激しい振動が響き渡る。その隙を逃さず、ネロはドリルを伝って一気に巨体の懐へと飛び込んだ。
そして、一気に勝負を付けるために、頸を狙って『紅月』を振り下ろした。
「「甘いぜ、死神ィイイ!」」
兄弟の笑い声と共に、胸部装甲が開きガトリング砲が火を噴いた。
至近距離での射撃。ネロは回避の余裕がないことを瞬時に悟った。
「――チッ!」
ネロは即座に『紅月』を水平に構え、迫りくる弾丸を正面から迎え撃つ。高周波振動で武装された刃が、ガトリングの弾丸を一瞬で蒸発させるかのように弾き、火花と熱を撒き散らす。その衝撃はネロの右腕に強烈な負荷をかけ、その足元の床にヒビが入る。
その防御行動こそ、兄弟の真の狙いだった。
「「終わりだ!」」
四腕が動き出す。チェーンソーとドリルが、ネロの防御の隙を突くように、左右から、そして下から、多角的にネロの身体を挟み込もうと襲い掛かる。
「まずい! マップ再構築まで残り8分30秒!」
ヨハンの焦った声が、耳元で警鐘を鳴らす。
ネロは防御を捨てた。左手を巨体の胸部装甲、ガトリング砲の開口部へと突き刺した。
「――燃えろ……、『八獄・無間之焔』!!」
その掌から、昏き紫焔が迸る。通常の炎を遥かに超える高熱を帯びた紫焔は、ガトリング砲の内部機構、そして周囲の装甲を瞬時に溶融させた。
「「なにィイイイイ!?」」
巨体から、驚愕の混じった絶叫が響き渡る。内部から破壊されたガトリング砲は、派手に火花を散らしながら沈黙し、装甲の溶けた結合部から黒煙が立ち上った。動きを止めた巨体は、その四腕の攻撃を中断させた。
ネロはその瞬間を逃さなかった。左手の紫焔による破壊と同時に、右手の『紅月』を水平に薙ぎ払い、溶融した胸部装甲を深々と切り裂く。
金属を貫く凄まじい抵抗があったが、シロを奪われた怒りがネロの力を極限まで高めていた。ネロの紫焔を帯びた刃は、巨体の内部へと達し、メインリアクターと思われる中枢機構に致命的な一撃を与えた。
「「バ……バカなッ!? 俺たちが負けたのか……?」」
「「だが……、ただでは死なねぇぜ……」」
「「テメェら、纏めて……道連れだァアアアア!!」」
巨体から発せられた最後の咆哮は、凄まじい絶望と憎悪に満ちていた。
ネロは即座に危険を察知し、『紅月』を引き抜き、後方へ大きく跳躍した。
「ネロ! やべぇ! エネルギー反応が急上昇してる! 自爆する気だ!」
ヨハンが叫ぶ。タブレットに表示された巨体のエネルギーゲージは、瞬時に赤色の危険域を突き抜け、天井知らずに上昇していた。
「チッ! どこまでも面倒な奴らだ!」
ネロは舌打ちをするが、既に通路全体が爆発の熱波に包まれ、その熱で溶融し始めていた。
「逃げるぞ! ヨハン!」
ネロは背後のヨハンを振り返ることもなく叫んだ。
「言われるまでもねぇ!」
ヨハンは叫び返し、ネロの左目デバイスに緊急の脱出ルートを投影する。
「次の角を右に曲がれ! そこが最短のルートだ!」
ネロは通路の壁を蹴って一気に加速した。その数瞬後、彼らがいた場所全体が、凄まじい閃光と爆発音に包まれた。
通路の壁は高熱で歪み、床は溶解し、周囲の構造物が轟音と共に崩れ落ちていく。爆発の衝撃波は、まるで巨大な拳のようにネロたちの背中を叩いた。
「グッ……!」
ネロは衝撃に耐えながら、ヨハンの示した角を曲がる。ヨハンもまた、必死にネロの後を追うが、爆風で飛ばされた瓦礫に足を掬われそうになる。
爆発の轟音が遠のき、ネロが辿り着いた通路は、辛うじて原型を留めていた。壁には高熱による黒焦げの跡が残り、焦げたオイルと金属の臭いが充満している。ネロは立ち止まり、背後のヨハンを振り返った。
「ケホッ、ケホッ……! 畜生……、まるで火葬場じゃねぇか!」
ヨハンは顔を煤だらけにしながら、咳き込みつつもタブレットを操作し続けている。そのディスプレイは激しい振動でひび割れていたが、まだ機能していた。
「マップ再構築まで残り7分50秒! ネロ、急げ! あんなバケモノとの戦闘で時間を食いすぎた!」
「わかっている!」
ネロは即座に再び疾走した。全身に負った熱傷は既に自身の再生能力で治癒し始めているが、著しい体力消耗は否めない。しかし、その瞳に宿るシロを奪還するという決意の炎は、衰えるどころか、さらに激しく燃え上がっていた。
ヨハンのナビゲーションに従い、二人は複雑に入り組んだ通路を駆け抜ける。時には床が突然上下し、新たな通路と壁が出現するが、ヨハンはその変化を瞬時に読み取り、ネロに的確な指示を出し続けた。
「右、ネロ! そこから階段を経由して一気に3階層上がる! そこが13階だ!」
そこは、これまでの雑多な通路とは異なり、重厚な石造りの廊下だった。燭台の炎がゆらめき、暗闇の中で長大な廊下を不気味に照らしている。空気は冷たく、儀式めいた静寂が満ちていた。
廊下の奥には、ネロが目指す場所――【百鬼の間】の、巨大な黒曜石のような石造りの扉が現れた。
血のように赤黒い雲が覆う夜空の下、異形の要塞は闇に沈んでいる。
「これが、噂に聞くこの【隔離世奈落】で最も危険視されてる建造物か……。まさに、鬼の住処ってところだな」
ヨハンは暗視ゴーグルをしながら、巨大な建造物を見上げて軽口を呟いた。その巨大な要塞は、威圧的に闇の中に佇んでいる。
「無駄口を叩くな。行くぞ」
ネロの言葉は短く、冷たい。その顔は、シロを奪われた怒りと焦燥で、硬くこわばっている。高周波振動刀『紅月』は、その右手の中で静かにその時を待っている。
「ハッ、相変わらず冷たいね、ネロ。まぁ、焦る気持ちは分かるが、急いでも無駄だよ。この城は、侵入者の動きに合わせて内部構造を変える。力づくで突破しようとしても、永遠に迷うだけさ」
ヨハンはそう言いながら、手元のタブレット端末に複雑なコードを打ち込み始めた。その指先が奏でる電子音が、緊張した空気の中に微かに響く。
「それを、お前がどうにかするんだろ」
「もちろんだ。この要塞の制御システムにハッキングを仕掛け、一時的に内部構造の再構築を止める。ただし、制限時間は短い。せいぜい10分といったところだ」
ネロは無言で頷いた。10分。シロを見つけ出し、奪還するにはあまりにも短い時間だ。
「よし、ここの壁には古い排気口がある。セキュリティが甘いはずだ」
ヨハンはタブレットをネロに示し、城壁の特定の一点を指差した。
「ただし、そこはセンサーが張り巡らされている。オレがハッキングで無効化するが、数秒のズレも許されない。一瞬でもセンサーに触れたら、警報が鳴り響き、全セキュリティが起動する」
「チッ、面倒だな」
ネロは舌打ちをするが、その瞳には迷いはない。
「始めるぞ、3、2、1……GO!!」
ヨハンの合図と同時に、ネロの身体は影のように動き出した。彼は、排気口の小さな穴に向かって一瞬で肉薄し、『紅月』の刃を滑り込ませる。高周波で振動する刃が金属をバターのように溶かし、小さな入り口を切り開いた。
ネロは切り開いた穴から城壁内部へと滑り込み、後方からヨハンが続く。
「さすがは死神様だ。一瞬の躊躇もない。さて、こっからが本番だ。ネロ、オレが内部マップをナビゲートする。お前はただ、目の前の障害を排除し、あの娘が連れて行かれたであろう場所――【百鬼の間】を目指せ」
ヨハンはタブレットを操作し、ネロの左目のコンタクトレンズ型デバイスに、城の内部マップと目標地点を投影した。
二人が城内に足を踏み入れた瞬間、城の重厚な沈黙が、まるで巨大な獣の息遣いのように感じられた。内部の空気は冷たく、機械油と血肉の混ざった腐臭が鼻を突く。
ネロは、ヨハンのナビゲーションに従い、暗い通路を疾走した。足音は最小限に抑えられているが、彼の焦りが、その速度を限界まで押し上げている。 ヨハンは、タブレットのマップを睨みながら指示を飛ばす。
「そこを右だ、ネロ! マップの再構築が始まるまで、残り9分20秒!」
通路を曲がった直後、前方の暗闇から、無数の機械的な足音が、床を叩く不協和音となって響き渡った。
「チッ、早速か!」
ネロは即座に『紅月』を構える。彼の視線の先に現れたのは、武装した戦闘ドローンの一群だ。センサーライトが赤く光り、彼らに照準を合わせている。
「ドローンだ! 数が多いぞ、ネロ!」
「関係ない!」
ネロは加速し、ドローンの一群へと突っ込んだ。
『紅月』の一閃が、最前列のドローンの胴体を瞬時に切り裂き、火花とオイルを撒き散らす。ネロは倒れた機体を足場に飛び上がり、空中から二体目のドローンの頭部を叩き割った。
ドローンたちは一斉に銃火を浴びせてくるが、ネロは予測不能な動きでそれをかわし続ける。通路の壁と床に、銃弾が激しく着弾する音と、金属が悲鳴を上げる『紅月』の音が響き渡る。
「ネロ、進路変更だ! この先は、重装甲の迎撃ユニットが待ち構えてる!」
ヨハンが緊急の指示を出す。
ネロはドローンを三体まとめて斬り捨てた直後、壁を蹴って方向転換し、別の通路へと飛び込んだ。
その通路の奥で、待ち構えていたかのように、巨大な人影が、重々しい足音と共に姿を現した。
「「――ようこそ、死神。お前を待っていたぜ!!」」
それは、全身を鈍色の金属装甲で覆った巨影。体躯は以前よりもさらに巨大化し、その全身には、無数の重火器と、禍々しいブレードが組み込まれていた。
それは、全身機械化手術を終え、より強力な戦闘兵器へと変貌した、ライガとフウガだった。
「「お前のお陰で、こんな姿になっちまったじゃあねぇかァアア!!」」
そう、今の姿は、昔の姿とかなりかけ離れていた。
その姿はまさに御伽噺に出てくるケンタウロスと両面宿儺を混ぜたような姿だった。
今や兄弟は完全に合体し、四足四腕二面の異形となってネロとヨハンの前に立ちはだかった。
四腕には以前よりも巨大化したチェーンソーブレードとドリルレイピアを持ち、下半身の背部装甲には多連装マルチランチャーや重機関銃が砲台のように備え付けられている。
ネロは即座に『紅月』を構える。ヨハンが背後で息を呑むのが分かった。
「おいおい……、本気かよ……!? 有り得ねぇ……コイツら完全に合体してやがる!! これじゃあ、迎撃ユニットのほうがまだマシだったよ!!」
ヨハンの声には、技術者としての驚愕と、圧倒的な脅威を前にした焦りが混じっていた。
「知るか」
ネロは短く吐き捨てる。彼の瞳には、シロを奪った敵への、純粋な殺意の炎が燃え上がっていた。
「雑魚どもと遊んでいる暇はない。お前らをまとめて塵にして、アイツを奪い戻す!」
「「ギャハハハハ! それはどうかな、死神ィ! オレたちがいる限り、テメェは一歩も進めねぇ!」」
合体した兄弟が歪んだ笑い声を浮かべた直後、下半身の背部装甲に備え付けられた多連装マルチランチャーが火を噴いた。炸裂弾が通路の天井と床に着弾し、爆炎と破片の嵐を巻き起こす。同時に、巨大な四腕を振り上げた。チェーンソーブレードとドリルレイピアが、通路の壁を削りながらネロめがけて猛然と襲いかかる。
「ネロ! マップ再構築まで残り8分45秒! 時間は待ってくれねぇぞ!」
ヨハンが緊急の警告を出す。
ネロは爆炎と刃の猛攻の中、一瞬で判断した。
彼は通路の床を蹴り、爆発の衝撃波をわずかに利用する形で横へと跳躍する。その動きは常人には視認できないほどの速さだ。 着地と同時に、ネロは『紅月』を一閃。地面を滑るように動くライガのチェーンソーブレードを、高周波振動刀で受け止め、火花を散らしながらこれを受け流す。
そして、次の瞬間には巨体の側面へと肉薄していた。
「――ッ!?」
ネロの刃が、兄弟の装甲にこれまでとは比較にならないほどの抵抗を感じる。全身機械化の恩恵か、その防御力は桁違いに向上していた。
「「オラァアアア!! もう一度ドリルで串刺しにしてやるぜ!!」」
ドリルレイピアが、ネロの胴体を目掛けて凄まじい勢いで迫る。
ネロは地面を低く滑り込み、ドリルレイピアの直撃を紙一重でかわした。ドリルは通路の床に深々と突き刺さり、要塞内に激しい振動が響き渡る。その隙を逃さず、ネロはドリルを伝って一気に巨体の懐へと飛び込んだ。
そして、一気に勝負を付けるために、頸を狙って『紅月』を振り下ろした。
「「甘いぜ、死神ィイイ!」」
兄弟の笑い声と共に、胸部装甲が開きガトリング砲が火を噴いた。
至近距離での射撃。ネロは回避の余裕がないことを瞬時に悟った。
「――チッ!」
ネロは即座に『紅月』を水平に構え、迫りくる弾丸を正面から迎え撃つ。高周波振動で武装された刃が、ガトリングの弾丸を一瞬で蒸発させるかのように弾き、火花と熱を撒き散らす。その衝撃はネロの右腕に強烈な負荷をかけ、その足元の床にヒビが入る。
その防御行動こそ、兄弟の真の狙いだった。
「「終わりだ!」」
四腕が動き出す。チェーンソーとドリルが、ネロの防御の隙を突くように、左右から、そして下から、多角的にネロの身体を挟み込もうと襲い掛かる。
「まずい! マップ再構築まで残り8分30秒!」
ヨハンの焦った声が、耳元で警鐘を鳴らす。
ネロは防御を捨てた。左手を巨体の胸部装甲、ガトリング砲の開口部へと突き刺した。
「――燃えろ……、『八獄・無間之焔』!!」
その掌から、昏き紫焔が迸る。通常の炎を遥かに超える高熱を帯びた紫焔は、ガトリング砲の内部機構、そして周囲の装甲を瞬時に溶融させた。
「「なにィイイイイ!?」」
巨体から、驚愕の混じった絶叫が響き渡る。内部から破壊されたガトリング砲は、派手に火花を散らしながら沈黙し、装甲の溶けた結合部から黒煙が立ち上った。動きを止めた巨体は、その四腕の攻撃を中断させた。
ネロはその瞬間を逃さなかった。左手の紫焔による破壊と同時に、右手の『紅月』を水平に薙ぎ払い、溶融した胸部装甲を深々と切り裂く。
金属を貫く凄まじい抵抗があったが、シロを奪われた怒りがネロの力を極限まで高めていた。ネロの紫焔を帯びた刃は、巨体の内部へと達し、メインリアクターと思われる中枢機構に致命的な一撃を与えた。
「「バ……バカなッ!? 俺たちが負けたのか……?」」
「「だが……、ただでは死なねぇぜ……」」
「「テメェら、纏めて……道連れだァアアアア!!」」
巨体から発せられた最後の咆哮は、凄まじい絶望と憎悪に満ちていた。
ネロは即座に危険を察知し、『紅月』を引き抜き、後方へ大きく跳躍した。
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ヨハンが叫ぶ。タブレットに表示された巨体のエネルギーゲージは、瞬時に赤色の危険域を突き抜け、天井知らずに上昇していた。
「チッ! どこまでも面倒な奴らだ!」
ネロは舌打ちをするが、既に通路全体が爆発の熱波に包まれ、その熱で溶融し始めていた。
「逃げるぞ! ヨハン!」
ネロは背後のヨハンを振り返ることもなく叫んだ。
「言われるまでもねぇ!」
ヨハンは叫び返し、ネロの左目デバイスに緊急の脱出ルートを投影する。
「次の角を右に曲がれ! そこが最短のルートだ!」
ネロは通路の壁を蹴って一気に加速した。その数瞬後、彼らがいた場所全体が、凄まじい閃光と爆発音に包まれた。
通路の壁は高熱で歪み、床は溶解し、周囲の構造物が轟音と共に崩れ落ちていく。爆発の衝撃波は、まるで巨大な拳のようにネロたちの背中を叩いた。
「グッ……!」
ネロは衝撃に耐えながら、ヨハンの示した角を曲がる。ヨハンもまた、必死にネロの後を追うが、爆風で飛ばされた瓦礫に足を掬われそうになる。
爆発の轟音が遠のき、ネロが辿り着いた通路は、辛うじて原型を留めていた。壁には高熱による黒焦げの跡が残り、焦げたオイルと金属の臭いが充満している。ネロは立ち止まり、背後のヨハンを振り返った。
「ケホッ、ケホッ……! 畜生……、まるで火葬場じゃねぇか!」
ヨハンは顔を煤だらけにしながら、咳き込みつつもタブレットを操作し続けている。そのディスプレイは激しい振動でひび割れていたが、まだ機能していた。
「マップ再構築まで残り7分50秒! ネロ、急げ! あんなバケモノとの戦闘で時間を食いすぎた!」
「わかっている!」
ネロは即座に再び疾走した。全身に負った熱傷は既に自身の再生能力で治癒し始めているが、著しい体力消耗は否めない。しかし、その瞳に宿るシロを奪還するという決意の炎は、衰えるどころか、さらに激しく燃え上がっていた。
ヨハンのナビゲーションに従い、二人は複雑に入り組んだ通路を駆け抜ける。時には床が突然上下し、新たな通路と壁が出現するが、ヨハンはその変化を瞬時に読み取り、ネロに的確な指示を出し続けた。
「右、ネロ! そこから階段を経由して一気に3階層上がる! そこが13階だ!」
そこは、これまでの雑多な通路とは異なり、重厚な石造りの廊下だった。燭台の炎がゆらめき、暗闇の中で長大な廊下を不気味に照らしている。空気は冷たく、儀式めいた静寂が満ちていた。
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この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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