漆黒の復讐者 ―Dark Avenger―

Episode ― XV ― 【エピローグ】

　アーズガルド島での激戦から、幾月の時が流れた。クロの身体に刻まれた無数の傷痕は、もはや痛みはなく、過去の激闘を物語る勲章のようにその皮膚に刻まれている。あの夜以来、クロの日常は一変した。かつての個人的な復讐心は、この世界に仇なす悪魔を根絶するという、より大きな使命へと姿を変えていた。

　とある湿った夜、クロは静かに闇の中を歩いていた。その手には、今や彼の身体の一部となった二つの武器が握られている。右手には、白銀の銃『シリウス』。そして左手には、兄ヴァイスから託された、深淵の色を纏う魔刀『冥月』。その瞳は、暗闇の中でも決して揺るがぬ、強い決意の炎を宿している。

　街の裏路地に潜む、人知れぬ悪魔の気配を捉える。未だこの世界に蠢く、混沌の残滓だ。クロは、迷わず路地の奥へと足を踏み入れた。

　闇の中から、醜悪な唸り声が響く。だが、クロは動じない。かつては恐怖し、憎しみを抱いた対象も、今ではただ、打ち倒すべき「悪」として認識している。一瞬の閃光。目に見えぬ『シリウス』の炎が、悪魔の身体を焼き尽くす。続けて、『冥月』が一閃。残された微かな影も、瞬く間に闇に溶けて消えた。

　戦いは、まだ終わらない。マモンという最大の脅威は去ったが、世界には、未だ多くの悪魔が潜んでいる。クロは歩き続ける。その行く手には、きっとさらなる戦いが待ち受けているだろう。しかし、その瞳に宿る決意の炎が消えることはない。

　クロが悪魔を狩り続ける限り、この世界に真の夜明けが訪れることはないのかもしれない。だが、クロは知っている。その戦いこそが、この世界に生きる人々が、安心して明日を迎えるための「灯火」となることを。

　クロは今も、白銀の銃『シリウス』と漆黒の魔刀『冥月』を手に、夜の闇を駆ける。この世界に仇なす悪魔を狩るという、その誓いを胸に。