上 下
1 / 8

1.私の日常

しおりを挟む

リリリリリッ!リリリリリッ!

突然目覚まし時計の音が耳元で鳴り、私はぼんやりと目を覚ます。
寝起きで重たい体を動かし、手探りで目覚まし時計を止めた。

あぁー…。学校行きたくない…。ずっとこうして布団にくるまっていたい…。
そんな気持ちを押し殺し、私はガサゴソとベッドから降りた。

窓を見ると太陽の光で輝く鳥や木々が見えた。
おはよう、鳥さん。おはよう、木。そしておはよう、今日という日。

うんと背伸びをして部屋に掛けてある時計を見た。
あぁ、まだ8時かー…。もう少し寝よ…。

あら?8時…?8時…8時…8時…。

「遅刻だぁぁぁーーー!!?」

何という痛恨なミス!
どうやら私は7時に設定するつもりが8時に設定してしまったようだ。
オーマイガー!
呑気におはようとか言ってる暇なかった!!

制服に急いで着替え、階段をかけ降りる。
「おかーさん!何で起こしてくれなかったのよー!」
「何度起こしても起きないからでしょ。
  ほら、髪整えてご飯食べなさい」
「分かってるー!」
でもご飯食べる暇がない私は、口に食パンをくわえて家を飛び出した。

ヤバいヤバいヤバい!
あと10分で遅刻だー!
ただでさえ家から学校まで距離があるのに…。
あーもう!遅刻確定だーー!

食パンを無理やり口に押し込んで角を曲がる。
…と、向こう側に男の人が!
ギャーー!止まれなーい!!!

ドシンッ!

ぶつかった衝撃に耐えきれず後ろに倒れこみ、尻餅をついてしまった。
はっとして顔を上げると、ぶつかったであろう男性が涼しい顔で立っていた。

わおっ!超イケメン…!!!
まさかこんな少女マンガみたいなことがあるとは…!

ポーッと見とれていると、さらにその人は私に手を差し出した。
「ほら、立て」
私はその手を遠慮なく掴み、立ち上がらせてもらった。

近くで見るとますますイケメンだった。
もうそりゃあ、周りにキラキラ(効果音付き)が付くくらい。

「あ、ありがとうございます…!」
声を振り絞って言う。
あー、かっこいー。マジイケメン…。
このまま時が止まらないかなー…。

「…おい。おい、こら」
イケメンの声で我にかえる。
「早く行け。遅刻してるんじゃないのか?」
へ?…あっ…。わ、忘れたーーー!
「す、すすすいません!私いかなきゃ!ぶつかってごめんなさい!さよーなら!」

あー、危ない!すっかり忘れてた!
イケメンさんありがとー!
…でもどうしてあの人、私が遅刻してるって知ってたんだろ?
    
          *

走りに走って、やっと学校に到着。
そのまま教室へスライディング!
…と同時にチャイムが鳴り響く。
「セーーーーフッッ!!」
よっしゃ!やったぞ倉岡四葉!
遅刻扱いを免れて喜びのあまりガッツポーズをしている私に真っ先に話しかけてきたのは、友人である松浦真理子だ。
真理子(私はマリと呼んでいる)は私の唯一に友人で、一番信頼している。
しかもマリは顔がとってもカワイイ。
その可愛さは『本校のマドンナ』と称されるほどで、男子にモテまくり(本人は迷惑そうだけど…)。
さらに成績も性格も良く、女子や先生からの信頼も厚い。
まさに絵に描いたような完璧ガール!
そんなマリと私みたいなドジっ娘が友人になれたのは本当に奇跡である。

「おはよー、四葉!」
「ん、おはよー」
「四葉ー、あんたまた遅刻ー?何度遅刻処分になったら気が済むのよ」
マリが呆れ顔で言ってくる。
「今日は遅刻じゃありませんよーだ。…ふっふ」
「どうした四葉。そんな気持ち悪い笑い方して」
「ふっ…。実はね…。今日の朝、寝坊して猛ダッシュで走ってたの」
「ふむふむ」
「それで、曲がり角曲がったら、そのまま人にぶつかっちゃたの!」
「うっわ。大変!」
「で、ここからが重要なんだけど。何とぶつかった人が…」
「人がー…?」
「……ちょーーーイケメンだったの!」
「マジでか!!」
マリは目を輝かせる。
さすが、イケメンに目がないな。
「そんでそんで!?何か言われた?」
「手差し出されて、『ほら、立て(イケメン風低音ボイス)』って言われちゃってーー!」
「うわーー!ズルいぞ、四葉のくせにー!」
マリは私を追いかけ回す。
キャーキャー言って走り回る私達。
そして走ってなびいているマリのスカートの下を必死に覗こうとしている男子。
それを見て怒ったり笑ったりするクラスメイト。

この平和な情景が私の日常。

でもそんな日常は、ある日突然変化した。

しおりを挟む

処理中です...