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仕事もしなきゃなんないんだわ
「駄目だ……、仕事しよう」
月曜日の定時後、私は自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。目の前には山積みの仕事の資料があった。
「あれ? 今まで『仕事しよう』と気合いいれる必要すらなく、まるで当たり前のように黙々と仕事ばかりしていた人が急にどうしたのかな」
向かいの席に座っていた前田先輩が不思議そうに言った。前田先輩は二歳上の既婚者で法律知識が豊富な頼りになる先輩だ。
「いや仕事が溜まっているんで……」
私はがっくりと肩を落とした。残業につぐ残業の日々は変わらず続いていた。
「コンプライアンスやら内部監査やら色々うるさい時代だからね、うちの仕事も増えるわけだよ」
前田さんはふうと大きなため息をついた。前田さんも私と同じく連日残業の日々を送っていた。前田さんには今年年中になった幼稚園のお子さんが一人いるが、子どもが起きている時間に帰れることはほとんどないといつも嘆いている。
「コンプライアンスなんていうならまずはうちの残業時間をなんとかしてもらいたいですよ。……ってそういえば、前田さんって中国に留学されていたことあるんでしたよね?」
「ああ、大学三年生のときに一年だけね」
「中国工場の労使問題について現地工場の責任者から相談を受けているんですけど、わからないことが多くて……」
「ああ……中国はそこらへん、かなり神経質な部分があるかもね」
前田さんはそう言うと中国法令に関する資料を書架から探してきてくれた。受け取った資料をパラパラとめくってみたが難しそうな内容で理解するまでには時間がかかりそうだった。
「労使問題はどこの国でもかなりセンシティブな問題だからね。日本のスタッフだけで対応するのはかなり厳しいものがあるかもしれない」
「そうですか……」
やはり人事の担当者とも相談して信頼できる現地の専門家に相談することや専門の現地スタッフを採用することを検討したほうがいいのかもしれない。私は頭の中でいくつかのプランを考え始めた。
藤澤君といる時間は脳内が溶けるくらいの幸せな時間だけど、こうして仕事に集中している時間もそれはそれでとても心地良い。仕事に集中していると余計なことは考えずに無心になれる。
「私、本当はもっと語学とか法令とか勉強していかなくちゃと思うんですけど、なかなか時間がとれなくて」
私は小さなため息をついた。
「もし本気でもっと法律を学びたいと思ってるのなら、海外大学院派遣の社内公募も考えてみたら?」
「え?」
思いがけない前田さんの言葉だった。
「葉月さんくらいがちょうど適齢じゃないかな? まあかなり狭き門だし、社費で行くからにはプレッシャーも半端ないけど」
前田さんの言う通り、海外大学院に派遣されるのは社内で年に数人、職場でのエース級の社員と決まっている。
とても私が選ばれるとは思えない。それに私の場合は今のところ全く予定はないが、女性社員の場合、私くらいの年齢では、結婚・出産の予定があるのではないかと訝しがられ敬遠されることもあるとの噂だった。
以前までであれば、結婚の予定なんて全くないし、と半ば自嘲気味に言い切っていた。
だけど藤澤君と付き合うようになった今、万が一にでも派遣の候補者に選ばれたとして一年間単身で海外に行く覚悟があるかと問われれば、イエスと言えるかどうか自信がなかった。
そんな人間が社内公募に応募すること自体がおこがましいことのように思えた。
藤澤君に溺れるような毎日を過ごしながらも、仕事の面でまだまだ成長と変化を求められる日々が続いていた。
月曜日の定時後、私は自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。目の前には山積みの仕事の資料があった。
「あれ? 今まで『仕事しよう』と気合いいれる必要すらなく、まるで当たり前のように黙々と仕事ばかりしていた人が急にどうしたのかな」
向かいの席に座っていた前田先輩が不思議そうに言った。前田先輩は二歳上の既婚者で法律知識が豊富な頼りになる先輩だ。
「いや仕事が溜まっているんで……」
私はがっくりと肩を落とした。残業につぐ残業の日々は変わらず続いていた。
「コンプライアンスやら内部監査やら色々うるさい時代だからね、うちの仕事も増えるわけだよ」
前田さんはふうと大きなため息をついた。前田さんも私と同じく連日残業の日々を送っていた。前田さんには今年年中になった幼稚園のお子さんが一人いるが、子どもが起きている時間に帰れることはほとんどないといつも嘆いている。
「コンプライアンスなんていうならまずはうちの残業時間をなんとかしてもらいたいですよ。……ってそういえば、前田さんって中国に留学されていたことあるんでしたよね?」
「ああ、大学三年生のときに一年だけね」
「中国工場の労使問題について現地工場の責任者から相談を受けているんですけど、わからないことが多くて……」
「ああ……中国はそこらへん、かなり神経質な部分があるかもね」
前田さんはそう言うと中国法令に関する資料を書架から探してきてくれた。受け取った資料をパラパラとめくってみたが難しそうな内容で理解するまでには時間がかかりそうだった。
「労使問題はどこの国でもかなりセンシティブな問題だからね。日本のスタッフだけで対応するのはかなり厳しいものがあるかもしれない」
「そうですか……」
やはり人事の担当者とも相談して信頼できる現地の専門家に相談することや専門の現地スタッフを採用することを検討したほうがいいのかもしれない。私は頭の中でいくつかのプランを考え始めた。
藤澤君といる時間は脳内が溶けるくらいの幸せな時間だけど、こうして仕事に集中している時間もそれはそれでとても心地良い。仕事に集中していると余計なことは考えずに無心になれる。
「私、本当はもっと語学とか法令とか勉強していかなくちゃと思うんですけど、なかなか時間がとれなくて」
私は小さなため息をついた。
「もし本気でもっと法律を学びたいと思ってるのなら、海外大学院派遣の社内公募も考えてみたら?」
「え?」
思いがけない前田さんの言葉だった。
「葉月さんくらいがちょうど適齢じゃないかな? まあかなり狭き門だし、社費で行くからにはプレッシャーも半端ないけど」
前田さんの言う通り、海外大学院に派遣されるのは社内で年に数人、職場でのエース級の社員と決まっている。
とても私が選ばれるとは思えない。それに私の場合は今のところ全く予定はないが、女性社員の場合、私くらいの年齢では、結婚・出産の予定があるのではないかと訝しがられ敬遠されることもあるとの噂だった。
以前までであれば、結婚の予定なんて全くないし、と半ば自嘲気味に言い切っていた。
だけど藤澤君と付き合うようになった今、万が一にでも派遣の候補者に選ばれたとして一年間単身で海外に行く覚悟があるかと問われれば、イエスと言えるかどうか自信がなかった。
そんな人間が社内公募に応募すること自体がおこがましいことのように思えた。
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