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8 甘党と辛党
しおりを挟む「ただいま」
「おかえり。ご飯あるよ」
「ありがとう、いい匂いだ」
ライちゃんが家に来る時に言う、ただいまが俺は好きだ。一緒に住んでいた子供の頃を思い出す。
今日の野菜は、お向いさんがお裾分けしてくれた、朝採れた新鮮なものだ。
最近ガーデニングに凝っていて、庭で何種類か育てていると話していた。
魚の味付けはライちゃん好みのピリ辛で、レイちゃんの分だけあまり辛くならないように気をつけた。
ライちゃんは辛党、俺とレイちゃんは甘党。特にレイちゃんは辛いものがとても苦手で、ちょっとした刺激でも舌がおかしくなる!とよく騒いでいた。
こんなの食べたら菫の繊細な舌が……と言って、レイちゃんはあまり俺に刺激物を与えなかった。
俺はレイちゃんの言う事をよく聞く子供だったので、大人になった今でも嗜好がよく似ている。
「シャワーしなくていいのか?あれ、今日はあまり汗かいてないな?」
詰所に行くと大体後輩たちの訓練をつけるので、帰ったらまずシャワーを浴びたいらしい。
団員の使える大浴場もあるらしいが、ライちゃんは人に裸を見られるのを好まない。
「ああ……その事で話がある」
真面目な顔でライちゃんが俺に向き合ったので、盛り付けようとしていた皿を一旦机の上に置く。
今朝の置き手紙と、シャワーについて、何か関係があるのだろうか?
「先に話する?そしたら俺も言いたい事がある。あのさ、昨日は本当にごめん。心配かけたよな」
「なんて事ない。あんなの、何かをしたうちにも入らない。
菫、俺は騎士団を辞めようと思う」
ライちゃんは表情も声のトーンも変えずに、言い放った。
「……え?」
「今日は、その為の準備をしてきた」
「ちょ、ちょっと待て!」
「何をそんなに慌てている」
「あ、慌てるだろ!逆になんでそんな落ち着いて……」
ライちゃんは、子供の頃からずっと騎士になるのが夢だと言っていた。
例に漏れず貴族なのだから、兄弟のどちらかが家業を継ぐべきだという声もあったが、2人とも意思を曲げずにやりたい職に就いた。
もっとも、貴族としてのスプリング家の役割は王家の支えになることだったので、レイちゃんは継いだといえば継いだことになる。今は、微妙だけど。
幾ら国王陛下、ローレンス様と懇意のスプリング家だとしても、ライちゃんが騎士になるためにしてきた努力は並大抵のものではない。文字通り、血の滲むような努力だ。だから、史上最年少で副団長に任命された時もどこからも贔屓だという声は出なかった。
俺はそれを1番近くで見てきた。
それなのに、こんなにあっさり辞めるなんて。
「菫、俺は1番大事なものを見失うわけにはいかない」
「理由……理由をちゃんと教えてくれ」
「お前のそばに居たい」
背筋が凍る、とはこのことだろう。
本当はずっと、何故ライちゃんがパートナーを作らないのか知っていた。人にあまり踏み込まれたくないという性格もあるだろうが、それだけじゃない。
俺が心配だからだ。
でも、触れないでいた。触れてしまって、何か良くないものが溢れてしまって、取り返しのつかないことになるのが恐ろしかったのだ。
確かな罪悪感を感じつつ、2人の温かさにぬくぬくと包まれて、しなくてはいけないことを放置していたツケが回ってきた。
「貯金はある。それに、ローレンス様に頼めば菫と同じ生活リズムが送れるような仕事を探すのは簡単だ。
兄貴は、もう1人でもやっていける。俺と暮らそう。それでも兄貴のことが心配なら、3人で住める家を探してもいい」
淡々と、でも俺を安心させるようにこれからの事を説明する姿がどこか現実離れしていて、頭に入ってこない。
俺は……今度はライちゃんから、夢まで奪ってしまうのか。
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