『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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第37話 『タイムワープの謎に迫る』

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 2024年11月12日(20:00) SPRO 地下施設

「なあ……疲れたし、飯と風呂、せめてそれ終わってからにしてくれない?」

 SPROの研究施設に戻り、一行は再検査と研究室において今後の事を話す予定だったが、尊の一言でそうなった。食事は例によってビュッフェ形式だったが、希望すれば個別に食事をオーダーすることもできた。

 特殊な状態の特殊な人間を管理する施設だけあって、その充実度は高い。新宿の地下にこんな地下施設があるなんて誰が想像できただろうか。




「なあーせんせー」

「んん? なんだ比古那」

「ぶっちゃけ壱与ちゃんとはどうなのよ? オレ達の知らねえことで意外なところまで進んでたりはしないよな?」

 全員が大浴場の浴槽につかっているが、尊と槍太も比古那の横でニヤニヤしながら聞いている。イサクだけは遠く離れて憮然ぶぜんとした表情で腕を組んでいた。

 尊敬の対象であった壱与が、修一に好意を寄せ、修一もまんざらでもない事が、複雑な感情となっているのだ。

「いや、まだそこまでは……」

 修一は湯船に肩まで浸かりながら、言葉を濁した。

 実際のところ、壱与との関係をどう説明すればいいのか迷っていたのだ。タイムスリップを共にし、確かに特別な感情が芽生えているのは事実だ。恋愛感情と言えば、そうなるだろう。

 しかし、それを三人の前で言語化するのは難しい。

「あーやっぱりそうなのか」

 尊が意味ありげな笑みを浮かべた。湯気の向こうで、槍太も同じような表情を見せている。

「まあでも、納得っちゃ納得だよな」

 槍太が腕を伸ばしながら続けた。

「あれだけの美人が、しかも超古代からの……ってのは、なんつーか運命的じゃん。それに壱与ちゃん、現代でも絶対にモテるぜ。それにあのプロポーション……」

「おい!」

 修一は冗談っぽく槍太を制す。

「槍太がそんな事言ってたって千尋にチクるぞ」

「え! あ? なんで千尋がここで出てくるんだよ」

 槍太は否定するが、確かに槍太と千尋は恋人同士ではない。ただお互いに好意を持っているだろうというのは誰の目にも明らかだった。




「さあ、そろそろ上がろう。みんな待っているだろうしな」

 修一の一言で全員がうなずき、脱衣場へと向かった。




「あれ? 女子はまだか……」

 時刻は8:30。

 空調は管理されているが、風呂上がりには暑い。

 これからタイムワープ現象の科学的分析を結月博士と行う。修一はそう考えながらふと壱与の事を思い出した。

 結月が来たすぐ後に、壱与とイツヒメを含めた女性陣5人がやってきた。全員風呂上がりで髪は半乾きだったが、さっぱりした表情である。

「さて、みなさんそろったところで、これからタイムワープの検証をしていきたいと思います。とは言っても、残念ながら現時点でタイムワープは実証されていませんから、皆さんがどういう状況でタイムワープに遭遇したか、そこから逆説的に可能性を探っていきましょう」

 そういって結月は大きなホワイトボードに『タイムワープが起きた状況・条件』と書いた。

「では、これまでに発生したタイムワープ現象を時系列で整理していきましょう」

 結月はマーカーを手に取りながら言った。

「まず、最初のケースですね。壱与さんが現代に来られた時の状況を教えていただけますか?」

「そうじゃな。確か……」
 
 壱与は記憶をたどる。
  
「地震で足もとが大きく揺れ、イサクと共に転びそうになった時じゃ。とっさに抱き合う形になったのじゃが……」

 結月は要点を箇条書きにしていく。
 
『Case1:壱与×イサク』
 ・強い地震
 ・転倒防止での密着
 ・イサクの尊敬・服従の感情

「次は修一さんと壱与さんのケースですね」

「ああ」
 
 修一が続ける。
 
「地震の揺れが激しくて、立っていられないほどだった。思わず壱与を抱きかかえるような形になって……」

『Case2:壱与×修一』
 ・強震(震度5-6程度)
 ・密着状態
 ・恋愛感情(に近い感情)

 結月はさらに書き加えていく。他のケースも次々と書き出された。

「共通項が見えてきましたね」
 
 結月がボードを指す。
 
「一つ目は強い地震。二つ目は密着状態。そして三つ目が……」

「感情の存在か」
 
 イサクが静かに言った。

「されど、わからん事が一つある」

「なんでしょう?」

 イサクの質問に結月が答えようとする。

「ここには等全員で来た。この大学とやらから来た六人も、壱与様とシュウ……イチ殿も」

「シュウでいいよ」

 修一が言った。

 前にもあった事だが、出会ったのが若い修一だったので、シュウでいいよ、と言っていたのだ。

「壱与様とシュウは行って帰って来た。然れど吾は、始めに壱与様とこの時代には来ておらぬぞ。何故なにゆえだ?」

「なるほど……確かにそうですね」
 
 結月は腕を組んで考え込む。

「イサクさんがおっしゃるように、最初の時点では壱与さんだけが現代に来られた。しかし、その後の移動では複数人が同時に移動している」

「つまり、条件が違うのかもしれないということですか?」
 
 咲耶が口を挟んだ。

「……おそらく、複数のパターンがあるのではないでしょうか」
 
 しばらく考えた後、結月はホワイトボードに新たな項目を書き加えた。

『移動パターンの違い』
 ・最初:壱与とイサクの時(壱与だけが現代へ)
 ・修一と壱与の時(二人で現代と弥生を往来)
 ・大学生たちのケース(六人で弥生へ、全員で現代へ)

「ちょっと待って」
 
 千尋が手を挙げた。

「私たち……あの時は全員が抱き合ったわけじゃないですよね? 確かに近くにいた人と手を取り合ったりはしたけど」

「そうか……」
 
 修一が顔を上げる。
 
「最初の壱与とイサクのケース、それから僕と壱与のケース。この二つは明確な『抱き合い』の状態だった。でも、みんなが一緒にタイムワープした時は、抱き合う形の人もいたし、そこまで密着していない人もいた」

 イサクの表情が変わる。
 
「すると、感情の強さによって、必要となる身体接触の度合いが変わる、という事でしょうか」

「なるほど……確かにそうですね。ただ……」
 
 イサクの問いに結月は腕を組んで考え込む。
 
「最初の時点で、イサクさんは壱与さんと同じように地震に遭遇し、密着状態になり、しかも強い尊敬・服従の感情を持っていた。それなのに、なぜ壱与さんだけが現代に来ることになったのか……」
 
 ホワイトボードの記述を見直しながら、結月は続ける。
 
「これは重要な観点かもしれません。同じような条件なのに、結果が異なる。そこに何か重要な要素が隠されているはずです」
 
 イサクの問いは、タイムワープのメカニズムを解明する上で、新たな視点を提供していた。単純に『強い感情』と『密着』だけが条件なら、イサクも一緒に来ていたはずだ。

 そこには、まだ誰も気づいていない要素が存在するのかもしれない。




「……イサク、最初に壱与ちゃんが現代に来た時、つまり向こうで壱与ちゃんがいなくなった地震の時、地震がに抱き合ったか?」

「なに? 吾が偽りを申しているとでもいうのか! 吾は確かにその時、壱与様を支えるために抱きつくような形となった。それから……それから、壱与様は石室の中に入られた」

「それだ!」

 尊が叫んだ。

「地震は石室の外で起きて、抱き支えたのも、外じゃないのか?」

「そうじゃ」

 イサクはうなずく。
 
「地震で足元がぐらつき、吾は壱与様を支えた。その後、壱与様は石室に入られ……そして消えた」

「ということは」
 
 修一が声を上げる。

「最初のケースは、石室の外で地震と密着があって、その後壱与さんだけが石室の中に入った。でも僕たちの時は……」

「石室の中で地震に遭遇して、密着状態になった」
 
 結月が続ける。
 
「つまり、タイムワープが起きるためには、地震と密着状態、そして強い感情という条件に加えて……」

「石室の中にいる必要があるんじゃな?」
 
 壱与が静かに言った。

 結月は新たな要素をホワイトボードに書き加えた。

『場所の条件』
 ・石室内での現象
 ・地震の揺れ+密着+感情
 
「だから最初のケースでは、イサクさんは石室の外にいたから、壱与さんだけが消えた……」
 
 槍太が口を開いた。




 少しずつ、状況が固まってきた。




 次回予告 第38話 (仮)『タイムワープの謎に迫る-2-』
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