『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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第36話 『SPROの若き研究員』

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 2024年11月12日(17:00) 

 いろんなところを見て回りたいのは全員一致ではあったが、観光とはいえ時間が限られていた。修一達は杉をはじめとした警護チームに守られながら、東京観光を堪能した。

 15時までは明治神宮と原宿を回り、17時までは表参道と近場をゆっくり、じっくりと回ったのだ。

「せんせー、それ、どうみてもパパ活か援助交際にしか見えないぜ」

 比古那が修一と壱与を見ながら茶化すように言う。表参道のイルミネーションが徐々に灯り始める時間帯だ。二人の歩く姿を見れば、たしかにそう見えなくもない。

 51歳の男と20歳の美女。

 普通に考えれば、確かにそうだ。……あとは娘か。

「なっ……何を言ってるんだ」
 
 修一は慌てて壱与との距離を取ろうとするが、壱与はピタッとくっついてくる。

「なにをそんなに慌てているのだ?」
 
 壱与は意味が分かっているのだろうか? イタズラっぽく笑みを浮かべる。

「いやいや、誤解を……えーっとね。今の時代は、オレと壱与みたいに歳の離れた男女が一緒に歩くと、変な誤解を生む事が多いんだよ。その……なんだ。お金で買っているように思われがち、というか、なんというか」
 
 修一が焦った様子で言い訳するのを、壱与は不思議そうに眺める。

はシュウを慕っておる。慕っておる者のそばにいたいと思い、そうするのがなにゆえダメなのじゃ?」




「ヒューヒュー! せんせ、モテますね!」

 今度は尊がちゃかす。年甲斐としがいもなく修一は顔を赤くするが、壱与は淡々と言う。

「それになんだ、生物学というのか。それで言えば、弥生の時代の吾が生きて今この時にいるとなれば、吾は千七百八十九歳となるぞ。シュウよりも何倍も年上ではないか」

 いや、まあ、そうなんだけどね……。

 全員が笑いをこらえつつ黙り込んでしまった。

「とにかく、なんら間違っておらぬゆえ、堂々としておればよいのだ」

「お、おう……」

 修一は年上のお株を奪われたようで不思議な気持ちだが、壱与が言っていることは間違ってはいない。

「でも、そろそろSPROに戻らなきゃですね」
 
 咲耶が腕時計を確認する。警護の杉も小さくうなずいた。

「あー、もうちょっと見て回りたかったな」
 
 槍太が名残惜しそうに周りを見回す。

「また今度な。それより、これからが本番だろ」
 
 比古那の言葉に、全員が引き締まった表情を見せた。SPROでの新たな研究。それは単なる考古学的研究ではなく、弥生人の持つ特異な能力の解明に繋がるかもしれない。

「そうじゃな。吾もこの力の謎について知りたいと思っておる」
 
 壱与の声には、真摯な響きが込められていた。

 


 ■SPRO

 夕暮れの街を後にする一行。新宿の高層ビル群が、オレンジ色の夕陽を反射して美しく輝いている。やがて彼らがSPROへ到着すると、一人の若い女性が静かに待っていた。

「お待ちしておりました」
 
 りんとした声が静かな空間に響く。白衣の下から覗くシックなワンピース姿の彼女は、まるで研究所に咲いた一輪の花のようだった。すらりとした体型に、知的な輝きを備えた瞳。

 その見た目は、一目で並々ならぬ知性を感じさせる。

「城ヶ崎結月と申します。今回の研究プロジェクトで主任を務めさせていただきます」

「28歳で物理学と考古学の博士号、そしてSPROの主任研究員か……すごいな」
 
 修一が感心したようにつぶやいた。

「いえ、まだまだ未熟者です」
 
 結月は謙遜しながらも、その眼差しは鋭く一行を見つめていた。特に壱与に対しては、特別な興味を示すような視線を向けている。

「では、さっそく研究室の方へ」
 
 結月が先導して歩き出す。




「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

 比古那が結月に聞いた。

「とりあえず最初の検査で全員異常なしって言われて、壱与とイツヒメ、イサクは弥生人。そして先生は特殊な若返りしやすい性質? 細胞? ってだけで、問題はないんだよね? あと、なんの検査って言うか……その、調べるの?」

「そうそう、今回の東京観光もありがたい話だったけど、警護のボディガードがついたし、別に危険はないから警護の必要もないと思うんだけど」

 続いて槍太が率直な意見をいった。

 杉主任はやさしいし、SPROには辻褄つじつまを合わせてもらった恩があるのだが、警護なのか監視なのかがわからない。
  
 監視だとしてもなぜ監視するのかわからないし、警護なら、何から守るのかがわからないのだ。

 結月は足を止め、ゆっくりと振り返った。

「DNA検査で3人が弥生人と判明し、修一さんの細胞にも特殊性が見つかっています。今回の事案ではその特殊性がどのようなメカニズムで……」

 結月は言葉を詰まらせた。まるで何か言いにくそうな様子だ。

「どういうメカニズムで、何なの? モルモットみたいに……」
 
「研究の検査対象として最適だから、もっと調べさせてくれって事かな?」

 比古那の質問を遮って、当の修一がフッと鼻で笑って聞いた。

「まさかそんな!」
 
 結月は慌てて否定した。

「冗談だよ。でも、確かにその通りなんだろ? オレとしては、みんなもそうだと思うけど、さっさと終わらせて福岡に帰りたいんだよね。いろいろと世話してもらったのは嬉しいんだけど。せめてあとどのくらいかかるかは知りたいよね」
 
 修一は穏やかな表情で続ける。

「まあ研究者としては、目の前にこれだけ特異な事例が現れたら、そりゃ調べたくなるよな」

 結月は一瞬言葉に詰まった後、小さくうなずく。

「はい。ですが、決して強制的な実験などは……」

「わかってるって。勇作の紹介だし、SPROは信用してる。それに俺たちだって、この状況が何なのか知りたいしな」
 
 修一が壱与たちの方を見ると、壱与も深くうなずいた。研究室への廊下を歩きながら、結月は少し安堵あんどしたような表情を見せる。




「で、どうなの杉さん。監視なの? 警護なの?」

「はい。それについては私から説明いたしましょう」
 
 今まで黙っていた警護チームの主任、杉が口を開いた。

「確かに監視の側面も含まれています。しかし、それは皆さんの行動を制限するためではありません。弥生人の存在が外部に漏れた場合、国内外の研究機関を含め、様々な組織が強引なアプローチをしてくる可能性があります」

「要するに、他の研究機関からコンタクトされて、拉致られる恐れがある?」

「現時点で具体的な危険があるわけではありませんが、その可能性も考慮に入れています」
 
 咲耶の質問に杉は冷静に答えた。

「なるほど」

「さて、それでは研究室へ」
 
 修一が杉の説明に理解を示したのがわかると、結月が前を向き直して進み、全員がついて行く。




 次回予告 第37話 (仮)『タイムワープの謎に迫る』
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