星に願いを

千環

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星に願いを

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「もしも願い事が1つだけ叶うとしたら、何にする?」

 たった2人だけになった教室で、そんなことを尋ねられた。
 ああ、そうか。今日は七夕だったか、と気付くのにそう時間は掛からなかったが、投げかけられた問いに対する答えを口にすることはなかなか出来ない。

「逆にお前だったら何にすんの?」

「質問に質問で返すのは無しだろ。今は俺が聞いてんの」

 俺が逃げ道へと敷こうとしたレールは即座に遮断される。だけど俺からするとそんなことを聞かれても困る。というのが正直なところだ。
 俺の願い事なんて、例えばこのまま2人きりでいられる時間が続けばいい。もっと欲を出しても良いなら、触れたいとか、俺を好きになって欲しいとか、そうじゃなくても、これからもずっとそばにいたいとか、そんなことばっかで。
 それを本人に向かって言えるはずもない。

「そうだなー……」

「そんな悩むもん? いっぱいあり過ぎて1つに絞れない?」

「いや、そうじゃねーけど」

 適当なことを言うことはできる。こういうネタを振ってこられた時の定番。
 一生遊んで暮らせるだけの金が欲しい。勉強しなくてもテストで満点が取れる頭脳が欲しい。でもそんなのは無くてもいい。というより、『たった1つだけの願い事』にする価値がない。

「欲しいもんねーの?」

「そうじゃねーけど」

 俺の欲しいものは……

「あ、部活終わったって。じゃーな、また明日!」

「おう。焦って走ってまた階段から落ちんなよー」

「うっせ!」

 ……俺を見ない。

 俺との会話が途中だろうと、メールが来れば一目散に走って行ってしまう。
 ずっと好きだった。幼馴染みとして育って、中学も高校も同じ学校に通って、同じ部活に入って、行き帰りもいつも一緒だった。なのに、いつからか一緒に過ごす時間が減っていって、恋人ができたと言われた。
 しかも、男。同性だからと言い出せなかった俺にとっては最悪の形での失恋だった。

 だから、もしも願い事が1つだけ叶うとしたら……どうかどうか、幸せに。傷付くことが無いように。いつも笑顔でいてくれるように。

 俺は、それを眺めているだけでもいいから。
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