花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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番外編

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 そんなわけないやろ。と、山下は頭の中で即座に否定した。山下は結城と年が近く、そしてまた、長い片思いを経て結ばれたという共通点もある。長い片思いと言っても山下は3年。それでも十分長いのだが、結城は15年を越える。もちろんその間、他の人間に見向きもしなかったかと言えばそういうわけではなく、性行為の経験は人並みにある訳だが。
 とにかく十数年も想い続けた相手と両思いになれたというのに、毎晩一緒にただ寝ているだけの結城は、どれだけ強固な理性の持ち主なのかと尊敬するほどである。
 山下などは右手のリハビリが進んで満足に動かせる訳ではないが、邪魔ではないという程度になった時点で風見を抱いたような人間だ。退院後一緒に暮らし始めて数週間もすれば悶々としてしまいオーラルセックスに持ち込んだような人間なのだ。


 誰が見ても分かるほど花月を愛おしそうに眺めて、大事に大事に触れる結城が、花月にキス以上のことをしない理由はただ一つ。
 花月がまだ学生だから、だ。

 まだ自身の人生を深く考えず、漠然と捉えているだけであろう花月が、いざ真剣に省みた時……結城との関係をどう感じるだろうか。
 極道であること。男であること。世間一般の常識から外れていることばかりで、後悔はしないだろうか。やっぱり関係を清算したいと考えないだろうか。結城はそれを心配していた。

 結城が極道者であることで花月が拒否感を覚えたら、潔く身を引くつもりでいる。母親の元へ行かせた時のようにすっぱりと関係を切って、関わった痕跡も消せるよう手を回すだろう。
 では、男同士であることを否定的に感じるようになったら? 男との性行為の経験は消せない。その後の女性との付き合いに花月が消極的になってしまわないか。ではそうならないためには?
 だから、結城は花月と性行為をしない。

 いつか花月が、絶対に結城との関係を後悔することはないと思えるようになるまで、結城は花月に手を出す気はないのだ。

「俺、色気ないのかな……」

「そんなことないですって」

 実際、花月は見た目が良い。花月に対して恋愛感情がない山下から見ても、可愛らしい、綺麗という評価になる。今だって伏し目がちになって際立つ睫毛の長さとか、少し尖らせた唇を全く意識しないと言えば嘘になる。……もちろん山下には風見がいるし、元々ゲイという訳ではないし、何より結城が怖いのでそれを口にはしないが。

「大事にされてるんですよ。よっぽど愛を感じるやないですか」

「……うーん」

「花月さんは……組長と、エッチしたいんですか?」

「そりゃ、恋人なんだし……そういうのは俺として欲しいっていうか。だってあいつも大の男なんだから、性欲くらいあるだろ。なのに、俺に全く手出さねぇってことは、どっかで発散してんのかなーって……思って」

 セックスを積極的にしたいという訳ではない。しかし、結城が触れる人間は自分だけであって欲しい。要するに、不安なのだ。このままでは結城を繋ぎとめていられないんじゃないか、と。

「組長は、ご自身の仕事が終わればまっすぐここへお帰りになってますよ。寄り道なんて一切されてません。それは保証します」

「そうですか……」

 花月の表情は浮かなかった。それではやはり、自分に魅力が無いのだという結論に達したためだった。
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