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第三部(貴族学校入学編)
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ついに、明日はヒュリゴ王立貴族学校の入学式。前日の今日は入寮式だった。
……ここまで長かったわ。
アレクから『貴族学校に入学した最初の夏に婚約しよう』と言われて早10年近い年月が過ぎた。
この10年、色々あったわね……。
お姉様は臣籍降下したオーキッド様に嫁いで、遠いシェイファーという領地に行ってしまった。お手紙のやりとりはあるし、社交シーズンには王都に戻って来てくれるから会えるけれど、寂しい。
お兄様は王国正騎士になるという夢を叶えて、ニコラスと共に王国騎士団で邁進している。
お父様とおカーラお母様は相変わらず仲良しで、ずっと離れで過ごしている。
私は貴族学校に入学して、寮に入らなければならないため、家族に会えなくなって寂しい。
そして何より、毎週会えていたアレクと会えなくなって、猛烈に寂しい。だから入寮前の最後に会える日、アレクに念を押したのだ。
「アレク様、お約束をお忘れではないですわよね?」
忘れているはずがないことは分かっている。だって私達はあれから10年、毎週侯爵家でも公爵家でも会っていたし、お兄様が従騎士になってアレクからの指南を受けなくなってからは、アレクの休息日には二人で出掛けることだってあった。
アレクは約束通り、私以外の女性とは全く関わりを持たなかったし、お義父様と社交に出たとしてもパートナーはいなかった。
つまりこれは、本当にただの念押しである。
「もちろんだ。アニーは今も俺でいいと思っているんだな?」
「違いますわ。アレク様がいいと思っているのです」
「このままいけば、その内に王国騎士団長となり、公爵位を継ぐことになるが、それでいいか?」
「私はあなたの隣に並ぶ公爵夫人となっても恥ずかしくない立派な淑女になるつもりですわ」
「分かった。君はこれから学校に入って大変になるから婚約に関する準備はこちらで進めておく。ただ……万が一、俺が騎士を続けられないような……例えば怪我を負ったりしたら、君は……」
「アレク様が騎士様だから好きなのではありませんわ。ただあなたのことが好きなのです。ですから、あなたが何者になろうが、私はあなたの隣を望みます」
アレクの目を真っ直ぐに見ながら言い切る。私の想いを見くびられては困る。人生を何度繰り返そうが私はアレクと結婚したいのだ。平民だろうが公爵だろうがそんなことは関係ない。
「……ありがとう。じゃあ、夏の休暇に合わせて婚約式が行えるようにしておく。それまでも会えるようなら連絡して欲しい」
「婚約式を楽しみにしながら、学校生活に励みますわね。月に一度は公爵家にお邪魔する予定ですから、お手紙でお知らせしますわ」
「俺も君との婚約を待ち遠しく思うよ。手紙も、楽しみにしている。返事も書くよ」
「会えなくなってしまうけれど、お手紙のやりとりも新鮮で楽しいかもしれませんわね」
「あぁ、そうだな」
ようやくここまできた。
ようやくアレクと婚約ができる。……だけど、どうして今年の夏にこだわっているのだろう。なにか理由があるのだろうか。
……ここまで長かったわ。
アレクから『貴族学校に入学した最初の夏に婚約しよう』と言われて早10年近い年月が過ぎた。
この10年、色々あったわね……。
お姉様は臣籍降下したオーキッド様に嫁いで、遠いシェイファーという領地に行ってしまった。お手紙のやりとりはあるし、社交シーズンには王都に戻って来てくれるから会えるけれど、寂しい。
お兄様は王国正騎士になるという夢を叶えて、ニコラスと共に王国騎士団で邁進している。
お父様とおカーラお母様は相変わらず仲良しで、ずっと離れで過ごしている。
私は貴族学校に入学して、寮に入らなければならないため、家族に会えなくなって寂しい。
そして何より、毎週会えていたアレクと会えなくなって、猛烈に寂しい。だから入寮前の最後に会える日、アレクに念を押したのだ。
「アレク様、お約束をお忘れではないですわよね?」
忘れているはずがないことは分かっている。だって私達はあれから10年、毎週侯爵家でも公爵家でも会っていたし、お兄様が従騎士になってアレクからの指南を受けなくなってからは、アレクの休息日には二人で出掛けることだってあった。
アレクは約束通り、私以外の女性とは全く関わりを持たなかったし、お義父様と社交に出たとしてもパートナーはいなかった。
つまりこれは、本当にただの念押しである。
「もちろんだ。アニーは今も俺でいいと思っているんだな?」
「違いますわ。アレク様がいいと思っているのです」
「このままいけば、その内に王国騎士団長となり、公爵位を継ぐことになるが、それでいいか?」
「私はあなたの隣に並ぶ公爵夫人となっても恥ずかしくない立派な淑女になるつもりですわ」
「分かった。君はこれから学校に入って大変になるから婚約に関する準備はこちらで進めておく。ただ……万が一、俺が騎士を続けられないような……例えば怪我を負ったりしたら、君は……」
「アレク様が騎士様だから好きなのではありませんわ。ただあなたのことが好きなのです。ですから、あなたが何者になろうが、私はあなたの隣を望みます」
アレクの目を真っ直ぐに見ながら言い切る。私の想いを見くびられては困る。人生を何度繰り返そうが私はアレクと結婚したいのだ。平民だろうが公爵だろうがそんなことは関係ない。
「……ありがとう。じゃあ、夏の休暇に合わせて婚約式が行えるようにしておく。それまでも会えるようなら連絡して欲しい」
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「俺も君との婚約を待ち遠しく思うよ。手紙も、楽しみにしている。返事も書くよ」
「会えなくなってしまうけれど、お手紙のやりとりも新鮮で楽しいかもしれませんわね」
「あぁ、そうだな」
ようやくここまできた。
ようやくアレクと婚約ができる。……だけど、どうして今年の夏にこだわっているのだろう。なにか理由があるのだろうか。
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