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第二部(アレク編)
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食事が終わって、食後のお茶をいただきながら、お父様からアレクに話しかけ始めた。
「たった一日で聞くことではないかもしれないが、門外漢の戯言と思い許してほしい。オスカーは王国騎士になる素質はあると思うかい?」
「そうですね……例えば14歳で従騎士に、というのは今のオスカー殿の実力からすると難しいとは思います。ただこのまま真剣に鍛錬を続けたならば、いつか正騎士になるのも夢ではないと感じました」
「本来14歳で従騎士になるなど滅多にないものだ。10代でなれたら優秀だろう。……ところで、アレキサンダー卿。学校はどうしているんだい?」
「もちろん通っていますよ。元々貴族学校では午前に共通科目、午後に専門科目を習いますが、騎士になると専門が剣術と決められて、午後は騎士として従事することになります。週に1日の休息日を除いて従事しますので、5日間は午後のみ、1日は丸一日、訓練や警邏、時には遠征に行くこともあります」
えっ、大変そう。というのが正直な感想。しかもつまりは、その唯一の休息日にわざわざお兄様の指南に来てくださっているということになる。
それに気付いたのは私だけでなく、この場にいる全員が察していて、気まずい視線をアレクに向けていた。
「え? 何かおかしなことを申しましたか?」
侯爵家の面々の内心に全く気付いていないアレク。そんな抜けたところも可愛いけれど、公爵令息としては如何なものか?
「いや……そんな多忙な日々を送っているとは知らず、毎週休息日にオスカーの訓練をなどと、申し訳ないことをしてしまったと思ってだね……」
「とんでもない! どうせ休息日だろうと私は元々訓練をしていました。騎士を志す者の手伝いができるのなら、苦でも何でもありません」
「しかし、学校の勉学の方にも時間を割く必要があるんじゃないか?」
「私は騎士ですので、勉学などできなくても困りません」
お兄様の顔がどんどん曇っていく。うん、分かる。心苦しいわよね。でも、来ていただかなくていいとも言いたくないのよね。すごく分かる。
気まずい空気の中、カーラお母様が口を開いた。
「あの、アレキサンダー卿が休まれたい時は遠慮なさらずにお休みになっていただくということにすれば宜しいのではないですか? ご負担にならないようお願いするということで……」
「アレキサンダー卿に指南していただけることは望外の喜びですが、卿のご負担になるのは嫌です」
「いや、本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
そう言って『ハハハ』と笑ったアレクが、すっと真面目な顔になって私の方を見た。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
ふわりと微笑むその顔が、夫だったアレクに被る。思わず涙が出そうになって、きつく目を閉じて俯いた。
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
なんて嬉しい言葉だろう。
幸せな気持ちにさせられたなんて……アレクのためなら、何だってできる気がする。
「たった一日で聞くことではないかもしれないが、門外漢の戯言と思い許してほしい。オスカーは王国騎士になる素質はあると思うかい?」
「そうですね……例えば14歳で従騎士に、というのは今のオスカー殿の実力からすると難しいとは思います。ただこのまま真剣に鍛錬を続けたならば、いつか正騎士になるのも夢ではないと感じました」
「本来14歳で従騎士になるなど滅多にないものだ。10代でなれたら優秀だろう。……ところで、アレキサンダー卿。学校はどうしているんだい?」
「もちろん通っていますよ。元々貴族学校では午前に共通科目、午後に専門科目を習いますが、騎士になると専門が剣術と決められて、午後は騎士として従事することになります。週に1日の休息日を除いて従事しますので、5日間は午後のみ、1日は丸一日、訓練や警邏、時には遠征に行くこともあります」
えっ、大変そう。というのが正直な感想。しかもつまりは、その唯一の休息日にわざわざお兄様の指南に来てくださっているということになる。
それに気付いたのは私だけでなく、この場にいる全員が察していて、気まずい視線をアレクに向けていた。
「え? 何かおかしなことを申しましたか?」
侯爵家の面々の内心に全く気付いていないアレク。そんな抜けたところも可愛いけれど、公爵令息としては如何なものか?
「いや……そんな多忙な日々を送っているとは知らず、毎週休息日にオスカーの訓練をなどと、申し訳ないことをしてしまったと思ってだね……」
「とんでもない! どうせ休息日だろうと私は元々訓練をしていました。騎士を志す者の手伝いができるのなら、苦でも何でもありません」
「しかし、学校の勉学の方にも時間を割く必要があるんじゃないか?」
「私は騎士ですので、勉学などできなくても困りません」
お兄様の顔がどんどん曇っていく。うん、分かる。心苦しいわよね。でも、来ていただかなくていいとも言いたくないのよね。すごく分かる。
気まずい空気の中、カーラお母様が口を開いた。
「あの、アレキサンダー卿が休まれたい時は遠慮なさらずにお休みになっていただくということにすれば宜しいのではないですか? ご負担にならないようお願いするということで……」
「アレキサンダー卿に指南していただけることは望外の喜びですが、卿のご負担になるのは嫌です」
「いや、本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
そう言って『ハハハ』と笑ったアレクが、すっと真面目な顔になって私の方を見た。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
ふわりと微笑むその顔が、夫だったアレクに被る。思わず涙が出そうになって、きつく目を閉じて俯いた。
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
なんて嬉しい言葉だろう。
幸せな気持ちにさせられたなんて……アレクのためなら、何だってできる気がする。
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