勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

文字の大きさ
54 / 103
幕間

とある公爵の親心

しおりを挟む
 長男が生まれた時、あ、俺だ。と思った。生き写しかというくらいに自分に似て育っていく長男の姿には、愛おしさと誇らしさと申し訳なさを感じた。

 俺の外見の悪さといえば……とんでもない奇跡が起こって、当時絶世の美少女であったシルヴィア・フォーサイス公爵令嬢から求婚されたことを『美女と野獣』だと御伽噺になぞらえてよく揶揄されたほど。
 その野獣と称されてしまう俺そっくりに生まれてきた長男は、見た目こそ似ていたが中身は似ておらず、温和で落ち着きのある子供だった。

 そして10年経ち、次男が生まれた時、これはまずい。と思った。今度は絶世の美女となった妻にそっくりな男の子だったのだ。
 可愛らしすぎて股間を三度見した。間違いなく付いているモノが間違っている気がしたが、逆に正解だったのかもしれないと思い直したのは数分後、こんなに可愛い娘がいたら心配で心配で家に閉じ込めてしまう自分を容易に想像できたからだ。

 ノヴァック公爵家は代々騎士の家系で、俺や長男のように強面で図体のでかい男ばかり。まるで天使かと見紛うほど可愛い次男の誕生でノヴァック家に激震が走った。

 そして長男がぽそりとこぼしたのだ。

「こんなに可愛い弟に、剣を向けたくありません」

 確かに!!!
 ノヴァック家はその時一つになった。騎士家系だけど騎士じゃない生き方もあるんじゃない? という空気が流れた。
 しかしその空気も長くは持たない。いやでも待てよ? こんなに可愛いなら、やっぱり剣を持たせて自分を守れるようにしておかないとまずいのでは?

「アレキサンダー。心を鬼にして、強く育ててやろう」

「え、嫌です。弟のことは僕が守ってあげます」

 などと言っていた顔はあれだが、心は優しい長男が、今や王国正騎士となった。15歳で文句なしの正騎士合格を勝ち取った長男は、次期騎士団長となるに相応しいと覚えめでたい。
 そんな心から誇りに思える長男だが、俺に似て強面であるせいで全く女っ気がない。まぁ俺もシルヴィアに出会うまでそうだったんだが、しかしそろそろ婚約者くらいはいた方がいいだろうと考え始めていたところで、

「無いとは思いますが、もし今後、私に対して婚約の打診などがあったとしても全て断っていただきたいのです」

 などと言うのだった。

「理由は?」

「私が結婚したいと願う令嬢がまだ幼いため、10年後に求婚したいと考えております」

「は?」

 何言ってんだこいつ。その俺に似た強面で。10年後はさらに強面になってんぞ。絶対断られるだろ。という気持ちを込めた『は?』だった。

「私はまだ正騎士となって日が浅いですが、幸いな事にアズール殿下から専属騎士になるようにと言われておりますし、次期騎士団長として恥じないよう研鑽を積むつもりです。また次期公爵としても領地を盛り立てていけるよう努める所存です。そして社交界の華と謳われる母上に協力していただき、紳士としての振る舞いも身に付けます」

「それで?」

「父上に勝る愛妻家にもなるつもりです」

「…………何が言いたい?」

「アレキサンダー・ノヴァックと結婚することが幸せであると思われる男になりますので、どうか10年の猶予をください」

 別に猶予を与えることくらいどうということはない。そもそも公爵令息だとか最年少王国正騎士だとかいうアレキサンダーに付いている飾りに惹かれた令嬢や、ノヴァック公爵家と縁続きになりたい下心満載の貴族なんかを避けていたら、10年あっても良い相手なんて見つからない気もしているし。

「相手は?」

「……スタングロム侯爵家のアドリアーナ嬢です……」

 物凄く言いにくそうにしているが、10年後とか言ってる時点で覚悟していたから大丈夫だぞ。とは言わないのが優しさだろう。

「近々連れてきなさい。それが条件だ」

「え! いや! そんな、招待する理由もありませんし!!」

「そんなもんはシルヴィアに言って適当に見繕ってもらえ。とりあえず会わせろ」

「…………わかりました……」

 せっかく可愛い長男が見つけた子だ。逃げられないように、外堀から埋めてしまおう。ま、ハロルドの娘だし、悪いことにはならんだろう。
 珍しく肩を落とした息子の後ろ姿を眺めながら、これも愛故だ。と心の中で言い訳をした。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...