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第三部(貴族学校入学編)
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「ノヴァック公爵令息ウィリアム様。ならびにスタングロム侯爵令嬢アドリアーナ様」
呼びかけと共に入場する。今日のウィリアムは黒を基調とした礼服に、赤いポケットチーフで赤いドレスの私とペアであることを表しているが、刺繍などの装飾は銀や碧色といったウィリアムの色が使われていて、リリーのドレスと対になっている。
リリーのドレスはターコイズブルーだ。ウィリアムの瞳の色にとても近い色のドレスを身に纏い、ウィリアムの婚約者であることを強調している。公爵家へ行った日にお義母様が見立てて、今日に間に合うよう大急ぎで製作されたもので、基本的には既製品だが、レースを重ねたり宝石を縫い付けたりとかなりグレードアップしているとリリーが言っていた。
そんなリリーのパートナーであるルーカスは白を基調とした礼服だ。スラっとしたルーカスにはとても似合っているが、並大抵の男性では着こなせないであろう。この二人には特に衣装にペアであることを示すものはない。
さて、歩きながら場内を見渡してユウカ嬢の姿を探す。サラの話では結局誰ともパートナーと組むことができず、当日にパートナーがいない者の中で身分の釣り合う者と組まされることになっているらしい。ドレスは桃色の物を借りたと聞いたが……あぁ、いた。ものすごく睨まれている。目が合ったと思われたら嫌なので自然に視線を流してから前を向いた。
おそらくパートナーは隣にいたミュラー男爵令息かな。ユウカ嬢より背が低く小太りで、身分は釣り合ってても見た目は全く釣り合っていなかったと思う。
ユウカ嬢の中で悪役である私が攻略対象のウィリアムとパートナーで、自分があの程度の男じゃ、睨みたくもなるだろう。
「……ハァ」
「どうした?」
「ユウカ嬢よ。すごく睨んできてるわ。今日も何かしてくるのかもしれないから気を付けて」
ゲームでは私が彼女を罵倒するのでユウカ嬢もそうなるよう仕向けてくるというのが一番濃厚よね。今の私はそんなことをする気は全く無いし、できれば関わりたくもないのだけれど。
「あぁ、兄上もいるからお前に手は出させないと思うが、俺も十分気を付ける」
「手荒なことはさすがにしないと思うけど」
「警戒して損はない。兄上は両殿下の護衛で一緒に入場してくるから、できるだけ二人のそばにいて、お前も兄上に守ってもらえ」
「分かったわ」
リリーとルーカスがいるところへ私達が着く頃、その二人の名前を聞こえた。
「サラ・セレスティナ・リッシュモン・ルンザリオ皇女殿下。ならびにセレスト・マリウス・ヘンリー・ヒュリゴ王子殿下のご入場です」
このひと月、サラとセレスト殿下とは親しくさせてもらった。特にサラとは本当に気安い友人のように付き合ってきたし、とても気さくな彼女は私達だけでなく他の生徒達とも分け隔てなく接していた。
だけど今、セレスト殿下にエスコートされて歩いている彼女は、驚くほど美しく見えて、その気品に圧倒される。あれが大国ルンザリオ帝国の第一皇女様としての姿なのかと感動すら覚える。さっきまで一緒にお茶をしていたというのにだ。
「セレスト……大変だな、あれは」
セレスト殿下と幼馴染みであるウィリアムがボソッとこぼした言葉に頷く。
セレスト殿下はサラの婚約者なのだ。帝国の皇位継承第二位のサラに並び立つ存在になることがどんなに大変なことか。あの姿を見て改めて思う。
「あら、お兄様だわ」
「本当だ。あの人も大概シスコンだな」
「というか、騎士団って意外と融通が効くのね」
「まぁ、団長が父上だからな。俺とアニーのためだったら兄上とオスカー卿の配置くらい動かすだろ」
「……そうね」
お義父様、ウィリアム大好きだし。私のことも可愛がってくれるし。そして何より大雑把だし。大抵のことは『まぁ何とかなる』で片付けちゃうのよね。
王国騎士団服に身を包み、真面目な顔をして歩いているアレクとお兄様を眺めながら、一年後にあるデビュタントホールではアレクにエスコートされて歩きたいわ、なんて考えていた。
呼びかけと共に入場する。今日のウィリアムは黒を基調とした礼服に、赤いポケットチーフで赤いドレスの私とペアであることを表しているが、刺繍などの装飾は銀や碧色といったウィリアムの色が使われていて、リリーのドレスと対になっている。
リリーのドレスはターコイズブルーだ。ウィリアムの瞳の色にとても近い色のドレスを身に纏い、ウィリアムの婚約者であることを強調している。公爵家へ行った日にお義母様が見立てて、今日に間に合うよう大急ぎで製作されたもので、基本的には既製品だが、レースを重ねたり宝石を縫い付けたりとかなりグレードアップしているとリリーが言っていた。
そんなリリーのパートナーであるルーカスは白を基調とした礼服だ。スラっとしたルーカスにはとても似合っているが、並大抵の男性では着こなせないであろう。この二人には特に衣装にペアであることを示すものはない。
さて、歩きながら場内を見渡してユウカ嬢の姿を探す。サラの話では結局誰ともパートナーと組むことができず、当日にパートナーがいない者の中で身分の釣り合う者と組まされることになっているらしい。ドレスは桃色の物を借りたと聞いたが……あぁ、いた。ものすごく睨まれている。目が合ったと思われたら嫌なので自然に視線を流してから前を向いた。
おそらくパートナーは隣にいたミュラー男爵令息かな。ユウカ嬢より背が低く小太りで、身分は釣り合ってても見た目は全く釣り合っていなかったと思う。
ユウカ嬢の中で悪役である私が攻略対象のウィリアムとパートナーで、自分があの程度の男じゃ、睨みたくもなるだろう。
「……ハァ」
「どうした?」
「ユウカ嬢よ。すごく睨んできてるわ。今日も何かしてくるのかもしれないから気を付けて」
ゲームでは私が彼女を罵倒するのでユウカ嬢もそうなるよう仕向けてくるというのが一番濃厚よね。今の私はそんなことをする気は全く無いし、できれば関わりたくもないのだけれど。
「あぁ、兄上もいるからお前に手は出させないと思うが、俺も十分気を付ける」
「手荒なことはさすがにしないと思うけど」
「警戒して損はない。兄上は両殿下の護衛で一緒に入場してくるから、できるだけ二人のそばにいて、お前も兄上に守ってもらえ」
「分かったわ」
リリーとルーカスがいるところへ私達が着く頃、その二人の名前を聞こえた。
「サラ・セレスティナ・リッシュモン・ルンザリオ皇女殿下。ならびにセレスト・マリウス・ヘンリー・ヒュリゴ王子殿下のご入場です」
このひと月、サラとセレスト殿下とは親しくさせてもらった。特にサラとは本当に気安い友人のように付き合ってきたし、とても気さくな彼女は私達だけでなく他の生徒達とも分け隔てなく接していた。
だけど今、セレスト殿下にエスコートされて歩いている彼女は、驚くほど美しく見えて、その気品に圧倒される。あれが大国ルンザリオ帝国の第一皇女様としての姿なのかと感動すら覚える。さっきまで一緒にお茶をしていたというのにだ。
「セレスト……大変だな、あれは」
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セレスト殿下はサラの婚約者なのだ。帝国の皇位継承第二位のサラに並び立つ存在になることがどんなに大変なことか。あの姿を見て改めて思う。
「あら、お兄様だわ」
「本当だ。あの人も大概シスコンだな」
「というか、騎士団って意外と融通が効くのね」
「まぁ、団長が父上だからな。俺とアニーのためだったら兄上とオスカー卿の配置くらい動かすだろ」
「……そうね」
お義父様、ウィリアム大好きだし。私のことも可愛がってくれるし。そして何より大雑把だし。大抵のことは『まぁ何とかなる』で片付けちゃうのよね。
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