勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

文字の大きさ
92 / 103
第三部(貴族学校入学編)

26

しおりを挟む
「ノヴァック公爵令息ウィリアム様。ならびにスタングロム侯爵令嬢アドリアーナ様」

 呼びかけと共に入場する。今日のウィリアムは黒を基調とした礼服に、赤いポケットチーフで赤いドレスの私とペアであることを表しているが、刺繍などの装飾は銀や碧色といったウィリアムの色が使われていて、リリーのドレスと対になっている。
 リリーのドレスはターコイズブルーだ。ウィリアムの瞳の色にとても近い色のドレスを身に纏い、ウィリアムの婚約者であることを強調している。公爵家へ行った日にお義母様が見立てて、今日に間に合うよう大急ぎで製作されたもので、基本的には既製品だが、レースを重ねたり宝石を縫い付けたりとかなりグレードアップしているとリリーが言っていた。
 そんなリリーのパートナーであるルーカスは白を基調とした礼服だ。スラっとしたルーカスにはとても似合っているが、並大抵の男性では着こなせないであろう。この二人には特に衣装にペアであることを示すものはない。

 さて、歩きながら場内を見渡してユウカ嬢の姿を探す。サラの話では結局誰ともパートナーと組むことができず、当日にパートナーがいない者の中で身分の釣り合う者と組まされることになっているらしい。ドレスは桃色の物を借りたと聞いたが……あぁ、いた。ものすごく睨まれている。目が合ったと思われたら嫌なので自然に視線を流してから前を向いた。
 おそらくパートナーは隣にいたミュラー男爵令息かな。ユウカ嬢より背が低く小太りで、身分は釣り合ってても見た目は全く釣り合っていなかったと思う。
 ユウカ嬢の中で悪役である私が攻略対象のウィリアムとパートナーで、自分があの程度の男じゃ、睨みたくもなるだろう。

「……ハァ」

「どうした?」

「ユウカ嬢よ。すごく睨んできてるわ。今日も何かしてくるのかもしれないから気を付けて」

 ゲームでは私が彼女を罵倒するのでユウカ嬢もそうなるよう仕向けてくるというのが一番濃厚よね。今の私はそんなことをする気は全く無いし、できれば関わりたくもないのだけれど。

「あぁ、兄上もいるからお前に手は出させないと思うが、俺も十分気を付ける」

「手荒なことはさすがにしないと思うけど」

「警戒して損はない。兄上は両殿下の護衛で一緒に入場してくるから、できるだけ二人のそばにいて、お前も兄上に守ってもらえ」

「分かったわ」

 リリーとルーカスがいるところへ私達が着く頃、その二人の名前を聞こえた。

「サラ・セレスティナ・リッシュモン・ルンザリオ皇女殿下。ならびにセレスト・マリウス・ヘンリー・ヒュリゴ王子殿下のご入場です」

 このひと月、サラとセレスト殿下とは親しくさせてもらった。特にサラとは本当に気安い友人のように付き合ってきたし、とても気さくな彼女は私達だけでなく他の生徒達とも分け隔てなく接していた。
 だけど今、セレスト殿下にエスコートされて歩いている彼女は、驚くほど美しく見えて、その気品に圧倒される。あれが大国ルンザリオ帝国の第一皇女様としての姿なのかと感動すら覚える。さっきまで一緒にお茶をしていたというのにだ。

「セレスト……大変だな、あれは」

 セレスト殿下と幼馴染みであるウィリアムがボソッとこぼした言葉に頷く。
 セレスト殿下はサラの婚約者なのだ。帝国の皇位継承第二位のサラに並び立つ存在になることがどんなに大変なことか。あの姿を見て改めて思う。

「あら、お兄様だわ」

「本当だ。あの人も大概シスコンだな」

「というか、騎士団って意外と融通が効くのね」

「まぁ、団長が父上だからな。俺とアニーのためだったら兄上とオスカー卿の配置くらい動かすだろ」

「……そうね」

 お義父様、ウィリアム大好きだし。私のことも可愛がってくれるし。そして何より大雑把だし。大抵のことは『まぁ何とかなる』で片付けちゃうのよね。
 王国騎士団服に身を包み、真面目な顔をして歩いているアレクとお兄様を眺めながら、一年後にあるデビュタントホールではアレクにエスコートされて歩きたいわ、なんて考えていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...