浮気男の股間を蹴り上げて別れを告げたら、隣人におもしれぇヤツ認定されてお持ち帰りされました

めっちゃ抹茶

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 同性婚が認められて数年、周りの理解が得られているとは言い難い社会で俺、河合唯かわいゆいは広告会社に勤めている。
 女みたいな名前と女顔で平均よりも低い身長が災いして、なにかと女の子みたいだと言われてきた。そして顔に寄せられた奴は大抵、俺が話し出すと逃げ出していく。「顔は可愛いのに男らしくて想像と違う」だなんて、勝手に理想を押し付けて違ったら逃げるってんなもん知るかよ。

 そして今、半年ほど付き合っている恋人がいるが、あいつは浮気をしている。

 浮気現場を見たわけでも証拠を見つけたわけでもないが、それでも確実に浮気をしていると俺は思っている。

 近頃はいつ別れを切り出そうか頭を悩ませている。浮気するくせに俺が離れるそぶりを見せるとワンコのように追い縋ってくるんだ、あいつは。
 その表情に俺が弱いことを知っててやってる。浮気野郎なんて付き合いたくないのについ世話を焼いてしまう。己が恨めしい。

 仕事が終わり帰宅途中、ふと恋人の家に寄るかという気になった。
 生活能力皆無のあいつに代わって、俺があいつの分まで家事をやっている。自分でもお人好しだと思うが綺麗好きなんだよ、俺は。見て見ぬ振りができない。

 駅から歩いて十数分にある高層マンションに入り、鞄から合鍵を取り出して鍵を開けて入る。
 玄関には見慣れない靴があって、イヤな予感を覚えて足跡を立てないように忍足で廊下を歩く。
 すると少し扉の開いている寝室から甲高い声が聞こえた。

「あ、そこっ…イイッ!もっと突いてぇ!」
「ハッ、朝までずっと突いててやるよッ!」
「あぁ!カズのすごいぃぃ…!奥まで入っちゃ……」

 聞こえる二つの声のうち一つは恋人のもので、浮気現場に遭遇した俺の心には情すらも残っていない。予め分かっていたからか、それとも好きだという気持ちが冷めていたからなのか動揺はしなかった。
 言い合いになるのも別れを切り出すのも億劫に感じて、無言で寝室の扉をバンッと思いっきり開け放った。

 限界まで開かれた扉は反動で大きな音を立てて跳ね返ってくる。
 それを片腕で抑えると、スーツのポケットから合鍵を取り出して、驚きに目を染めて放心状態で抱き合う二人に向かって放り投げた。

「これからはそいつに家事でも炊事でもしてもらうんだな」

 俺はそう言って服や物が散らかり放題のリビングに目を向けてから玄関に向かって歩き出した。
 靴を履き、外に出ると背後から声がかかった。

「っ、待て!俺を捨てるのかよ!俺にはお前しかいないのにっ」

 は、何言ってやがる。さっきのやつはなんだ?ベッドの上で仲良くしてたじゃねぇか。俺が捨てるよりも先にお前が俺を捨てたんだろ?
 ここ数ヶ月、碌に肌合わせてねえのにお前は他人とお盛んだったもんな?

 お前にとって俺の存在意義は便利屋ってだけだろ?無償で家事炊事をやってくれるってだけの。

「俺はテメェの母ちゃんじゃねえんだよ。甘ったれんなクソ野郎」

 全裸にシーツを引っ掛けただけのヤツに俺はそう言い放ち歩き始めた。
 それでもなお諦めの悪いヤツは俺のスーツを掴み、追い縋ってくる。

「お前がいないと困るんだよっ、好きなのはお前だけだ。アイツは今すぐ追い出すから戻って来てくれ…!」

 自分本位の言葉を連ねるヤツに反吐が出そうになる。
 なんでこんなヤツ一度でも好きになったんだろうかと本気で後悔した。

「テメェいい加減にしろッ!!」

 込み上げる怒りのままに足を後ろに引き、反動する勢いのまま硬い靴で股間目掛けて蹴り上げる。

「ヴグッゥゥ!!」
「テメェはママのおっぱいでもしゃぶってな。じゃーな、浮気野郎」

 急所を蹴られて痛みで悶絶するヤツを一瞥して、止めた歩みを進める。

 すると突然、笑い声と拍手が聞こえた。

「可愛い顔してやるね、君!いやー気分爽快だよ。いいね、気に入った。気分転換にオレと飲もうよ」
「……いつからそこに……」
「君が玄関から出て来てすぐかな。ごめんね?盗み見るつもりはなかったんだけどさ、なんか君を応援したくなっちゃって」

 音のする方に顔を振り向けばそこには髪を金髪に染めたいい身なりのチャラそうな長身の男がいた。軽薄そうな雰囲気とは裏腹に、痛みのない手入れされた艶やかな髪にひとつだけ空いたシンプルな暗いピアス。何よりも整った顔立ちから見える意志の強そうな瞳。

 相反する要素を持ち合わせる不思議な男に僅かに興味を惹かれた俺は、明日休みだし鬱憤溜まってたし飲むにはちょうどいいかと思い、了承の返事をする。

「奢ってくれんなら行く」
「いいよ、オレから誘ったからね。好きなだけ飲みなよ。ちょうどつまみになる話には困らなさそうだしね。場所はどこでもいいかな?近場にお気に入りの場所があるんだけど…」
「人が多くなければそれでいい」
「りょーかい。んじゃこっちね」

 楽しそうに笑った男は俺の手を握り誘導する。
 ナンパをする割にはひどく優しく握られたその手は俺よりも一回り大きい。
 見れば爪は磨き上げられていて綺麗に整えられている。身に付けている服は肌触りの良い高級そうな物で、服の上からでも男の鍛え上げられた肉体が分かる。

 どこかちぐはぐな男に違和感を覚えながらついていくと、辿り着いた先はお隣の部屋だった。
 呆然とする俺をよそに、鍵を開けた男は「どーぞ」と俺を促す。

 チャラそうな男だからさぞかし散らかってるんだろうと部屋の中を覗き込めばそれは驚いた。

「きれい……だな」
「散らかってると思った?オレ結構凝り性でさ、掃除とか始めたら意外とハマっちゃってね。ちゃんと綺麗だから安心してよ。さ、どーぞ入って」
「お邪魔します…」

 埃ひとつ見当たらない玄関からチラリと見えるリビングにはティッシュケースや雑誌が置かれ、生活感がありつつも整理整頓されている。
 間取りは元恋人の部屋と変わらないのに全く異なる空間に興味をそそがれて、誘われるがまま靴を脱ぎ、部屋に上がった。

「適当に座ってて。飲み物何がいい?ビールに発泡酒、酎ハイとワインもあるよ」

 男はキッチンに向かうと冷蔵庫を開けた。
 俺はテレビの前にある大きなソファに腰をかけてネクタイの根元を緩めジャケットを脱ぎ、横目で男を窺う。
 男の体の隙間からチラリと見えた冷蔵庫の中は食材やら食べ物やらがこれまた綺麗に並べられている。

「ビールで」
「りょーかい。つまむもの作るからちょっと待ってて」

 そう言って幾つかの食材を取り出して手際よく作り始めた。

 ……見た目とのギャップが凄いな。

 長身の金髪の男が料理をしている間、部屋をぐるりと見る。一人暮らしだと思われる清潔感のある男の家はどこぞとは違って居心地良く感じる。
 元恋人を振ってそれを見られた名前も知らない男の家にのこのこ上がり込むなんて自分でも危機感のなさに呆れるが、不思議と悪い気はしない。

「何か手伝うか?」
「じゃあそこのお皿とってくれる?」
「ん、わかった」

 それでも流石に何もしないわけにはいかないだろうと手伝いを申し入れれば気を遣ってくれたのか、男はそう言ってくれた。


◇◇◇


 ビールを何本か空けてだいぶ酔いが回り始めた頃、同じくらい飲んでるはずの、酒に強いのかまだ余裕そうな男が言う。

「まだまだおかわりあるからね。嫌なことは飲んで食べて忘れよ?今日は君のハレの日だよ」
「ふっ、まあ確かに?言いたいこと漸く言えてスッキリしたしな。おめでたいって意味ではハレの日ってのは間違ってないな」
「でしょ?それに今日、恋人が出来るかもしれないよ?」

 隣に腰掛けて俺を見つめて不敵に笑う男に一瞬ドキリと胸が高鳴る。

「そんな顔されたら帰したくなくなる」

 その刹那、男の瞳に欲が灯る。
 意志の強そうな鋭い瞳に見つめられて、アルコールで赤い顔がさらに赤くなった気がした。

「……っは、なに、言って……」
「ねぇ、オレ…好きな人には一途だよ?自分で言うのもなんだけど顔良し性格良しで手先も器用。仕事は上手くいってるからお金もある」
「……否定できないのが悔しいわ」
「ね、絶対に損はさせないからオレと付き合ってみない?」

 男はそう言いながら俺をソファに押し倒した。

 肩をトンっと優しい力で押され、酒がまわって身体の力が抜けていた俺はあっけなくソファに沈み込む。
 随分と男の隣が居心地よかったからだろうか。自信満々な言い方とは裏腹に不安そうな顔でこちらを見る男が可愛いと思ってしまった。

 チャラそうに見えて意外としっかりしてるのに、どこか臆病で優しく触れるこの男をとことん甘やかしてみたい、なんて。……そう思わせる酒の力は怖い。

 ふわふわとした纏まらない思考で少し考えてから返事をする。

「お前……俺のこと好きなの?」
「うん、好きだよ。めっちゃ好き。初めて見た時からいいなぁって思ってた。だけど恋人がいるって知ってさ、諦めようって思ってたんだけど……アレ見たらあんな奴との記憶思い出す暇なんてないくらいに愛して、オレが上書きしてやりたくなった」

 そこそこの頻度で部屋の掃除のために隣の部屋に来ていたから、そのどこかで俺を見かけたんだろう。男の言っていること全てを信じるわけじゃない。けど、嘘偽りないと訴える男の瞳が、真剣な声が心に刺さって抜けない。
 ……こいつと飲むのは楽しかった。料理も美味い。正直な話、整った顔立ちは男らしくてタイプだ。だからって絆されるわけじゃないけど……少しならいいか。

「お試しで俺が良いと思えば……それならいいけど」
「ほんとっ!?うわぁ嬉しい…!めっちゃ気持ちよくなってもらえるようにオレ頑張るからね」
「え、あ、ち、ちがっ!お試しってそういう意味じゃ__」

 ちゅっ。

 俺の言葉を塞ぐように、ニコニコ笑顔で唇にキスをした男は俺を軽々と抱き上げて上機嫌でリビングを後にした。

「……もう好きにしろ……」

 男の満面の笑顔に何も言えなくなった俺は、諦めの境地でおとなしくされるがままになった。

 抵抗すべきだったと気がつくのは、まだ少し後のお話。
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