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しおりを挟む「……っ、なんでお前がそんな顔するんだよ。そんな顔見たら怒れねぇだろうが……」
清潔になった身体をベッドに深く潜り込ませてシーツをギュッと握る。
先程まで隣にあった温もりは消え、シーツの冷たさだけが手のひらから伝わる。
撫でられたところがひどく熱い。
出て行く時にふと見えた優也の悲しそうな顔が頭に浮かんでは消えていく。
「一瞬でもお前になら捕まってやってもいいとか……おもったり、なんて…………」
強引なくせに優也の手は熱くて優しくて、乱暴なところなんて一切なかった。自分本位じゃなくて俺の快感を優先してた。
過ぎる快感は毒だったが終始動きはゆっくりだったし、触れるところ全てから愛を囁かれてるみてぇで危うく絆されかけて__
「いやっ、ない!そんなことないっ。おかしいだろ、一晩寝ただけで絆されるとか。絶対酒のせいだ。よしっ、もう寝よう!」
布団を被り、目を閉じる。仕事で疲れていたこともあって、眠りにつくのは直ぐだった。
____元恋人に「好きだ」と言われても何も感じなかった心は今、本人も気がつかぬところでいつの間にか揺れ動いていた。
◇◇◇
「ゔっ……」
体の節々が痛み、目が覚める。起き上がれば腰がズキズキと痛む。
痛みを堪えながらリビングに向かえばそこは物音ひとつしない、昨夜俺がここに来た時みたいに片付けられた空間が広がっていた。
「好きだとかなんだとか言っておいて俺を放置するのかよ……っ」
寝る前もそうだったが、ここに一人で居ることに虚しさを覚える。
一人でいることに慣れているはずなのに。
「めっちゃ女々しいやつみてーじゃん俺……さみしーとか、思ってねぇし……」
綺麗に整理整頓された部屋をペタペタと歩き、着替えを探す。
すると、机の上に一枚の置き手紙を見つけた。
そこには手本並みに上手い、綺麗な文字でこう書かれていた。
『夕方まで撮影入ってるので仕事に行きます。ご飯は冷蔵庫の中にあります。シャツと下着は乾燥機にかけています。お昼頃には乾くと思います。スーツはハンガーに掛けておきました。
昨夜はすみませんでした。これ、オレの携帯番号です。何かあれば連絡ください。』
何で敬語?あと、謝るなよ。寂しくなるだろ……でも
「俺のこと信用しすぎだろ、優也」
脱力してソファにボスッと沈み込む。
俺を一人で自分の家に残して、個人情報まで渡して……俺が悪さをするとか考えないのか。撮影って酒の席で聞いたけど、俳優だってのは本当なんだな……っていうか、前日に酒飲んで夜遅くまでアレコレしてまずくないのか?体調に影響とかあるだろ。
先ほどまでの虚しさはどこへやら、この紙切れ一枚だけで心が温かくなった気がした。
着替えを終えて時計を見れば、時刻は十二時を過ぎている。
折角用意してくれたのだからと謎に一人言い訳をしつつ、お腹の減りを感じて冷蔵庫を開ける。
するとそこには、旅館で出てきそうな豪華な朝食があった。
……至れり尽くせり、だな。短時間で用意できるものじゃねえだろ。あいつはちゃんと寝たのかよ……
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
いくら料理の手際がいいとはいえ、片付けもして家事もこなしてこれを作ることがいかに大変か知ってる。
電子レンジで温めてテーブルの上に並べれば、食べるのが勿体無いと感じてしまうほど綺麗なご飯が目の前にある。
「……いただきます……」
まずは味噌汁をひとくち。
「ふぅ、ふーっ…………美味しい……温かい」
少し温めすぎた味噌汁は熱いけど、美味い。
「誰かに作ってもらった飯はこんなにも温かいんだな……」
その後は黙々と食べ続け、気がつけば全て完食していた。
使った食器を洗い終えて再びソファに沈み込む。
目の前には携帯番号が書かれた置き手紙と俺の携帯。
腹が満たされて一息つけば、さまざまな考えが頭をよぎる。
客観的に見れば俺は傷心につけ込まれた謂わば被害者だ。それに、相手は有名らしい俳優で人前に出ることを生業としている人間で、そこに俺が関われば碌なことにならないのはわかる。あいつの言うことも本気かどうかわからないし。
俺は……早くここから出たほうがいい。
紙をグシャッと丸めて鞄を手に取る。
早足で玄関に向かい、靴を履いた。
ドアに手をかけ、背を向ければ後ろでバタンと閉じる音がする。
そこで俺は、ハタと今更ながらに気がついた。
「……鍵、閉めれねぇじゃん……」
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