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14.危険の香りがいっぱい
「ほれ、起きろ。飯の用意が出来たぞ」
クロードさんの声が聞こえて、僕は寝ていたんだと頭のどこかで理解する。
頭を沈めていた枕の高さがちょうど良くて、脱力しきった身体に力が入らない。瞼も当然閉じたまま、暗闇を映し出している。
あれ……?僕、枕に頭乗せて寝てたっけ?
覚醒しきらない頭でぼーっと考えても、答えは出てこない。なんだかふわふわして、夢の途中にいるみたいだ。
「このまま寝てるのも悪くはねぇが…………眠り姫は王子様に襲われちまうかもなぁ?」
身体の横が沈み込む感覚がして、クロードさんが隣にいるのかなとか思っていたら、耳元で息を吹き込まれるように艶やかな低音で囁かれた。
ゾクリとするような良い声に、うわぁ~クロードさんどんな顔して言ってるんだろうと呑気な事を考えた。
その時だった。
「ひぅっ!」
途端にビクリと跳ねる僕の身体。クロードさんが獲物を甘やかすように耳をかぷりと齧ったのだ。
ひぇっ、ちょ、な、舐めてる~~!
僕の耳、骨のところをコリコリって歯で擦るように食べられてるぅぅ!!
僕の眠気は一気に吹き飛び、脳内どころか心の声までシャキッと覚醒した。
目を開ければ、右側にクロードさんの乗り上げた身体が見えた。顔は僕の耳元に埋まっているようで、僕からはよく見えない。
「え、あ、ちょっ、耳やめっ」
ぺろぺろ、とクロードさんの長い舌が縦横無尽に動き、僕の耳を舐めしゃぶる。時々犬歯が薄い皮膚を掠めて、突き破られそうな感覚に身をブルリと振るわせた。
くすぐったさの中に背筋が甘く痺れるような気持ち良さが混ざっていて、強く身を捩れない。
起こしに来たんじゃないのかと、クロードさんにちょっと怒りが湧く。
起こすなら普通に起こして欲しかった……!
「ご、ごはん、出来たって、」
「ん、まだだ。足りねぇ」
そう言って再び耳に顔を埋めるクロードさん。
ぼ、僕の耳が溶けてなくなってしまうーー!
「もうおわりっ、おわりだってば!」
ぺしぺしと身体を叩いて、怒りを訴える。
すると渋々な顔をしてようやくクロードさんは僕の耳から離れた。
僕の耳に何があると言うんだ、一体。
いやまぁ確かに、クロードさんは一見人間に見えて頭に動物の耳が生えていたり、尻尾なんかもあったりするけど。人間の耳が自分にはないから、珍しいのかも?
とそんな事を考えていると、クロードさんが僕をベッドから起こしてくれた。そしてそのまま背中と膝の裏に手を入れて、ひょいっと軽々しく僕を持ち上げる。
「うわぁ!」
急に高くなった視界にクロードさんの首に腕を回してバランスを取る。
クロードさんは何も言わず、急ぐように早足でスタスタと長い廊下を歩いていく。ずっと無言のクロードさんが怖い。お屋敷の中はすっかり暗くなって、等間隔に灯された明かりが廊下を照らしていた。
クロードさんって基本は伺いを立ててくれるんだけど、やっぱり公爵様で国王様の弟で貴族だからか気分屋で、何も言わずにこうやって行動に移す時があるんだよね。
クロードさんが僕の家——もうこれからは僕たちの家か——に来て泊まっていく時なんかは、急にアレが食べたいコレが食べたいとか言い出すことが多くて。
冷蔵庫がチート仕様だから材料がないとかは大丈夫だけど、手間の込んだ料理を頼まれても急には作れないし時間かかるからその日に出せないことも多くて……
僕よりも前に来た日本人が伝えたのか、クロードさんがどこからともなく出した『ジャパニーズ・ワショク』って絶対に日本食に憧れた外国人が書いたであろう本を見せられて、釜で炊いた白米が食べたいって言われたこともあった。
古い日本家屋に住んでいる僕でも炊飯器でしか炊いたことはなくて、道具もないから断ったことがあるけど、クロードさんは別に怒らなかった。少しショボーンと耳と尻尾が垂れて、次に来る時は用意してあげようって決めたんだっけ。
僕の服を定期的に届けてくれる宅配便の天使さんにお願いしたら、まさか本当に釜まで用意してくれたからすごく驚いた。
そんな風に難しい難題もあるけど、僕は我儘を言ってくれてるんだって思ったら頼られてる感じがして嬉しい。それに、『ナツキの料理が一番上手い』とか言われちゃったら断るっていう選択肢なくなるよね。
お抱えのシェフもいるだろうに、プロの人の料理よりも僕の方が良いだなんて嬉しいに決まってるもの。
「着いたぞ」
クロードさんに言われて、首を動かして言われた方に目を向けると、そこには湯気を上げた美味しそうな料理が大量に並べられていた。見たこともないものばかりで、この世界の料理なのかもしれない。
何十席もある横に並べられた椅子を見て、どこに座ればいいのかと考えていると、その内の上座かな? に一番近い席に座らされた。
そしてクロードさんは上座ではなく、僕の隣に座る。
え、なんで?
クロードさんの別荘だからてっきりクロードさんが上座に座ると思っていた僕は、目をぱちぱちと瞬いてクロードさんの方を向いた。
「ナツキはこれとこれをまず先に食べると良い。サラダとスープだ。そしたら後は肉と果物をうんと食べて体力をつけような」
クロードさんはテキパキと大量にある料理から僕の分をお皿へと取り分けていく。
有無を言わさずに差し出される料理の数々に、僕は黙々と口を動かすしかない。
これは、ちょっと、僕の身が危険かも…………
だってさっきから、クロードさんがもぐもぐと動かす僕の口元をじっと見つめているんだもの。獲物に喰らいつく前の肉食獣みたいな目で。
美味しそうな料理を堪能する余裕もなく、じりじりと身を焦がすような熱い視線を感じながら、僕は急いで夕食を終えた。
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