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8.僕の知らない話
「はいはい、わかったよ。久しぶりに連絡を寄越したと思えば、ゆっくり雑談さえさせてくれないとは。本当に、昔から変わらないね。気が短い男は嫌われるよ?」
懐から小さな瓶のようなものを出しながら、呆れた様子で言う国王様。優しげな雰囲気から発せられた思いがけない言葉の棘に少し驚いた。怒っているというより、幼い子を言い聞かせるような言い方だ。皮肉も混じっているけれど。
そう思っていると、クロードさんから小さな舌打ちが聞こえた。
「こんなところにいたらナツキの気が休まらないだろうが」
「そんなところに俺は臣下に降るとか早々に宣言して押しやったのはどこの誰だったかな」
「……悪かったって。けど、俺は間違ってない。王になるのは兄貴以外いなかった」
「別にボクは弟を王座に据えて隣で支えるのでも良かったんだけどね。けど悲しいことに、そうするには少しばかりの掃除が必要だった」
「俺は向いてなかったからいいんだよ。煽られて持て囃されたら、本人がどう思おうがそうなっちまう。そんなんただの駒だろ」
「それを跳ねられるだけの度胸も器量も、ボクの弟にはあったと見ていたんだけどね。やり取りは書簡ですれば良かったのだし」
「褒めてんのか、貶してんのかどっちだ」
「なに、口の悪い可愛い弟に甘くなるのは誰でも同じだよ」
「馬鹿にしてんじゃねぇか」
僕はさっきからずっと黙っていた。僕にはわからない、二人だけの話が続いている。
二人は話しながらも手を止めず、国王様が執務室の机から古ぼけた本を取り出し、クロードさんはそれに目を通していく。
所々擦り切れてボロボロになっているその本に何が書かれているかは分からない。クロードさんの膝の上から覗こうと思えば見えるけど、僕が見てもいいものかわからないから、物凄い速さで読み続けるクロードさんを眺めるくらいしかすることがない。
話の内容から察するに、漫画でよく見る王座に担ぎ上げようとする動きがあったんだと思う。二人を取り巻いていた環境がどのくらい危険だったのか僕にはわからないけれど、二人の仲を見る限り最悪の事態にならずに済んだのだと思う。クロードさんが王座を目指さず臣下に降る、その選択をしたことで。
ふいに胸がぎゅっと痛んだ。
僕がこの世界に来ることが初めから決まっていて、もしもクロードさんが王様になっていたら……クロードさんとこうして仲良く過ごすこともなかったのかもしれない。会えずに、会えても遠くから見ることしかできず、僕は知らない誰かと結婚していたんだろう。恋も愛も、なにひとつないままで。
そう思ったら、なんだか切なくなって、クロードさんの存在を確かめたくなった。
「ん?どうした、ナツキ」
「…………ううん、なんでもないよ」
きつく抱きつけばちゃんと返ってくる反応に、安心する。放置されていたわけでも、無関心だったわけでもない。僕が勝手に疎外感を感じていただけだ。
なんでもない、と答えた僕を見つめるその瞳は心配そうに細められている。まるで、僕の異変を見逃すまいとしているみたいだ。
過保護だなぁ、と少し呆れたりもしてたはずなんだけど……今は、ちょっと嬉しい。
「二人でいっしょに、僕たちのお家に帰ろうね」
「……!ああ、帰ろう!今すぐ帰ろう」
「うわぁ!」
クロードさんの胸に頬をぺたりとつけて見上げて言えば、クロードさんの瞳がわかりやすくキラリと輝いて急に抱き上げられた。お姫様抱っこだ。立派な耳もピーンと張られて、素直で、腹芸が苦手そうなクロードさんにくすくすと笑った。
やっぱり、僕の旦那様は可愛い。
国王様がクロードさんに甘くなるのも、わかる気がするなぁ。これが、愛されキャラってやつ?
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