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000 プロローグ 百年毎の創生
しおりを挟む「長らく生きた人生のなかで、こいつはとくに心底たまげる、そうした体験じゃったよ」
町の衛兵所に出頭してきた、凸凸として語りだす齢60を超える老人は、今の時期には出稼ぎで遠く一人離れ、些末な丸木小屋で泊まり込みを続けていた猟師で、その日の事象については夜が静かに更けた晩のこと、地鳴りと共に地面がつき上がった振動で猟師は目を覚まし、次いで悲鳴を上げるように哀れに軋む丸木小屋に、幾度もなく揺れが襲ってきた。
寝酒を飲み深く眠ってしまっていた猟師は、この不意な出来事に遭遇して仰天し、それから慌て蓋めきながら床に這いつくばるようにして、丸木小屋の倒壊から下敷きになるまいと決意し、腕と足を遮二無二と動かしてほふくをしながら、やがて扉のそばまでやってこれるようになった。
「扉を見上げると、用心のために掛けてあった閂は、激震の最中に幸いなのか外されてしまっていた。だがあと一歩というところにきてから、わしはその歩みを急に止めてしまった。なぜならそのとき、さらに凄まじく恐ろしいほどの揺れが襲ってきたんじゃ。辺りは屋根の端材が落ち出した音をしだして、とにもかくにも一層やっきとなって進み、距離がようやく取れたところで後ろの小屋を振り返ると、バリバリズシンという音を出して、小屋はついにぺしゃんこになった」
一歩遅ければこの惨状下にいたと思うとゾッとした猟師は、頭を伏せてしばらくの間は動かずにいたが、だいぶの時間が経過した後に揺れは収まったのかと、猟師は頭の上にある震えていた手を、恐る恐ると降ろしながらも、猟師は警戒をまだ続けて周囲をよく見渡し始めた。
いつもならば緩い傾斜地の丘上に建つ猟師小屋は、森林で覆われた平坦な森を一望できる立地にあった。ところがあれだけの激震の割というのには、今見えているものは森林に小山がひとつ存在しているといった有り様だった。小山は標高およそ300mを超えており、地上動物を寄せつけない急峻で垂直な崖の形をしていた。
「地震ではさぞや風景が一変したのだろうと、小山の他で変わってしまった場所をくまなく探してみたが、どこを何度も見渡そうとも、変化は小山のみがあっただけじゃった。わしはこのことに拍子抜けをしてしまい、緊張がみるみるうちに解けて、ようやくに胸を撫でおろして眺め始めた瞬間、、、おや、はて? 、、、目を少し凝らすと、小山の周辺にある木々が段々と、黒く染められておるではないか、、、いやそれに、さきほどは小山に見えていたのは 、、、??!! な、ななんと魔王城じゃッ!! こりゃ、どえらいもんを見つけちまっただッ!! とわしは再びパニックを引き起こしたのじゃて」
よくよく注意をして見れば、地形を歪めてしまった小山の崖下の土壌からは、遠目からもはっきりとわかるほどの濃い瘴気がシュウシュウと吹き出し続けていた。それらを吸ってしまった周囲の森林は変様をして、見るも無残に禍々しい黒い森へと変わっていった。さらに恐ろしいことにはその頂上に魔王城の影が見つけられた。闇夜の中でこと更に見えにくかったが、その怪異と相まって見るものに恐怖のインパクトを与えていた。
この恐ろしさに猟師はついに耐えられなくなり、その場を急いで去ってこの報告を役人へ届け出たという顛末だった。
なおこの魔王城の発見以後における各地での情報を順当に集めた結果、魔軍の軍勢が各地に現れて、魔王城の近郊における人間側の小さな砦や村々は、魔王の軍団にたちまちに蹂躙されたとのことだった。
しかしながらも、こうした一連の行動が初めから予見できていたかと思えるように、人類圏を中心とする諸国家は古き盟約に従って共に手を取りたずさえて、守勢ではあるが魔軍の攻勢を最小限度に留めることに成功できるようになった。
そして古き盟約による勇者召喚の儀が新たに始まり、およそ約100年ぶりとなる勇者がこの異世界に顕現した。がしかし勇者の活躍には今しばらくの時を待たねばならなかった。
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