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007 夏のプール
しおりを挟む夏のとても暑い日。
車に揺られた家族は隣の県にある超大型のプール施設へとやってきていた。
水泳については病院のリハビリでとくに勧められていたこともあり、我が家では小さい頃から家族全員で近くのスイミングセンターに通っているので泳ぐことはお手の物だ。
けれどスイミングセンターとは規模が全く違う、そして僕たちには人生初となる屋外型の超大型プールという場所へ遊びに行くということですでにテンションが高く、パパが運転をする車中ではワイワイキャイキャイと着く前からとても騒がしかった。
施設の着替え室でママに着替えさせてもらってから別れていたパパとあさひに合流して平城家メンバーが集合すると、僕たちは子供用プールに移動してママと4人の子供を横1列に並べてから陽太はこのように言った。
「整列。いつものように準備運動から始めるぞ。さあ全員パパの真似をしてごらん」
陽太はオイッチニー、サンシ、オイッチニー、サンシと両腕をクロスさせて体操を始める。僕たちの前にいる陽太の体型はお腹の辺りがふっくらと見えていた。
日頃からママが飲み過ぎには注意するようにと自重を促していたのにその警告を無視して、相変わらずビールを浴びるようにして飲んでいたせいなのだろう。
陽太は片手片足をブルブルとした後に今度はジャンプに移ったけど、このときの陽太のお腹が弛みを帯びてブルルン、ブルルン、とみっともなく動いていた。
ママも4つ子たちと並んでこの体操をしていたが、そのママのプロポーションは僕たちを生んだ体とは思えないほどに美しい容姿で飛び跳ねていた。
ママの胸がポヨンポヨンと踊るように動くたびに陽太の後ろ側でママを見かけた男たちは、一人残らず前屈みの姿勢で小走りになって去っていった。
「これで準備体操は終わりだ。浮き輪を各自で持ったらプールへ行ってもいいぞ。プールはハシゴがある場所は必ずゆっくりと降りてってひまり、まだ話の途中だ! おいおい、プールサイドを走ったら危ないって、、、あ、そちらは大人用だぞ!」
「わぁ~~い!」
陽太の注意事項はそっちのけにして、“プールに行ってもいいぞ”とのフレーズのみを聞いて勇躍して飛び出していたのは、我が家のトラブルメーカーでお馴染みになる次女の日毬(ひまり)だ。
準備運動中に僕たちから眺めていた流れるプールにはそこで楽しく遊ぶ大人たちの姿が見えていたので、物怖じをすることのないひまりはこれに一直線となって飛び込みに行ったのだ。
ド、ボボーーン!
ひまりが浮き輪を持ってプールに飛び込むのが見えたけど、水柱が上がったのが見えた時点からそこに浮いていたものは、ひまりが持っていた浮き輪がただプカプカとしているだけだった。
ひまりの姿はその場から忽然と消えてしまっていたのである。
「ひっ、ひっまりぃい!」
陽太は一目散で走り出そうとしたのだが、その隣でママがウウーンと言って気絶しそうなのを見て慌てて立ち止まる始末となっていた。
(これは陽太がママを受け止めていたのでセーフ)。
倒れたママを近くのベッドチェアまで大急ぎで運び、再度ひまりを助けようとして振り返ってみたが、
「アハハハハ。びっくりしたー、でも楽しかった!」
とひまりの無邪気な声がそう聞こえて浮き輪の中に浮かんでいたのが見えたではないか。
これは種を明かすと例の如くいつものように僕の神通力の活躍で、ひまりを元の浮き輪へとテレポートしたことが原因となるのだけれど。
それを知って陽太はヘナヘナと脱力してその場で倒れ込んでしまった。その後は気がついたママと一緒にひまりをこってりと叱ったのは言うまでもない。
この後に子供たちは子供用プールの中のみで遊ぶこととなった。ひまりについてはまたやらかさないかと両親の厳重な監視の元に置かれていた。
「パパとママは大きらい! せっかくに大きなプールにきたのに子供用プールにいなくちゃいけないなんて!」
ひまりはプンプンと怒っては水面上をバシャバシャと激しく叩いたが、これが陽太の顔に激しく当たってしまいまたションボリとする結果に終わった。
「ひまりは馬鹿なのね。遊びに来たのに叱られことになるなんて。ねえそうは思わない、ましろ」
長女の花蓮(かれん)は僕と一緒に遊んでいたのだけれど、その実はかなり拗ねていた様子であった。両親の相手がひまりにのみ関心を向けているとそんな気持ちが伝わってくる。
「パパとママはかれんのことも大好きだよ。そうだ、かれんがひまりといっしょにいれば、パパとママはもっとたくさんの時間をかれんにあげられると思うけどな」
「まあましろ、いいことをいうわね。だったらさっそくひまりをうんとかまってこなくちゃ!」
かれんはバシャバシャとひまりのいる場所へと元気になって泳いで行った。
寂しがりやさんのかれん、がんばれ。
僕がかれんの後ろ姿を微笑ましく見送っていると、
「ふええぇぇん。ましろー助けてよー」
今度は朝陽(あさひ)が怯えている声を出して僕に助けを叫んでいた。
その原因というのはひと目でわかった。
多くの子供たち(とくに男の子)が黄色い声をしてあさひの周囲を取り囲んでいたのだ。
「ハア。僕は皆のお悩み相談員になったわけじゃないんだけどなー」
やれやれと、僕はあさひに向かってまた泳ぎ出すのであった。
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