男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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「サイヒ、何時までフレイムアーチャに居るつもりだ?」

 押しかけて来てからもう2週間神殿に滞在しているサイヒにルーシュが尋ねた。

「なんだ、私が居るのが邪魔か?家賃代わりに手合わせはしているだろうが」

「いや、手合わせは本当に嬉しーよ?でも神殿の奴らが乙女化するのをこれ以上見たくない…」

「ときめきに男も女も子供も大人も関係ない。胸を躍らせる事は生きる糧になる素晴らしい感情だ」

「うん、良い様に言ってるけど端から見てると80の爺が頬染めてるの見てるほうは拷問だかんね!」

「老い先短い命だ。死ぬ前に楽しい思いをさせておいてやれ」

「オブラートに包んでるつもりだろーけど、お前が言ってるセリフ、結構酷いかんな!」

「それは困った。私は慈悲深い気持ちの持ち主だと自称していたのだが…」

「自称以外の何物でもねーよ…」

「だがまだ帰る気にもなれんしな」

「せめて街で宿取るとか出来ないのか?金には困って無いんだろう?」

 ルーシュはサイヒのあまりにも酷い力技の”人工ダイヤ”の存在を知っている。
 サイヒが金に困らないことは知っているのだ。

「昔、神殿をプチ家出をしてだな、適当な町の宿を取ったことがある」

「んじゃ、システム自体は分かっているんだな」

「システムは分かっているぞ?ただ町外れの宿を取ったはずのなのに3日後には宿の宿泊客は満員になってだな」

「3日で満員…」

「1週間後には宿の料亭に5時間待ちの列が出来る様になってな」

「5時間待ちの列……」

「10日後には”リリー・ザ・ヴァリーゴーフル”が売られるようになったんだ」

「何してんのお前!?」

「普通に食事をして、話しかけて来た者と会話をして、困っている人を手助けしただけなんだが。ちなみに名前はお馴染みリリー・ザ・ヴァリーで通したぞ」

「もうお前怖い!!」

「それ以来町の宿に泊まるのは止めようと決めた訳だ。やはり自分名前が付いた菓子が名産物になるのは些か気まずい」

「些かですむお前の神経が私は嫌だ!」

「泣き寝入りする女よりは良いではないか?」

「心配するな、泣き寝入りする女は名産物にはならない」

「と、言う訳で私はこの神殿を出る気はない。中々居心地も良いし、楽しみもあるしな」

「その楽しみって偶にニヤニヤしてるあれかよ…」

「ふふ、本当に楽しみで仕方がない。私の愛猫も保護犬も可愛らしい事この上ないな」

「話すな、深く聞きたくない!巻き込まれる予感しかしない!!」

「馬鹿だなルーシュ、もう既に巻き込まれているではないか」

「もう本当嫌だお前!」

「では今夜の手合わせは必要ないと?なら今日はもう寝るとするか」

「どうぞゆっくりご宿泊ください!なので手合わせは!手合わせは!!」

「では、移動するか(中型馬鹿犬も可愛いものだ)」

「【空間転移】よろしく!」

 :::

 5分後。
 額から煙を出し大の字で荒野に転げているルーシュの姿があった。

「やはり妾の主殿は頭が足りないのじゃ……」

 ルインは尻尾を股に挟みガタガタ震えた。
 何故にこうまでも実力差のある相手と戦うのか?
 ドラゴンとして生まれたルインにとっては戦うのは命を懸ける時だ。
 手合わせの為に戦うと言う概念は無い。
 ルインが雄だったら”メスを巡る戦い”と言うものが存在する事で多少は理解できたかもしれないが。

「ふふ、ルーシュは頭が少し足りないが良い奴だ。頭の分はルインの様な美しくも賢い使い魔が居るのだから問題ないだろう?これからもルーシュをたのむぞ、ルイン。ところで私は親友のルーシュの使い魔のルインも親友と数えても良いのだろうか?」

「ひゃ、ひゃひゃひゃひゃいぃぃぃっ/////」

 微笑みを浮かべるサイヒの色香は性別どころか種族も飛び越える。
 ドラゴン生の短いルインが魅入られるのも仕方がないのだろう。

(わ、妾はTPOを弁えているドラゴンなのじゃ!そこいらの雌とは違ってはしたなく発情はしないのじゃ!)

 サイヒの待ち人が早く来ないと、神殿外に迄ハーレムが広がりそうである。
 種族の垣根を越えて…。

 シスターハナクッキーが発売される前に、是非とも待ち人には来て欲しいものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日もルーシュが不憫でした。
 リリー・ザ・ヴァリーゴーフルは今でもその町で売られております。
 とくにお話に出てくる予定はありません。
 待ち人の皇子様、早く来ないと大変な事になるぞー( *´艸`)モウナッテル?
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