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「うぅぅぅ…痛い、痛いよぉ……」

 豪奢な自室のベッドの上、聖女は布団にくるまりながら泣き声を上げていた。

「何で【治癒】の法術も【鎮痛】の法術も効かないの?私は、聖女なのに、聖女の法術が、何で効かないのよう……うっ、うっ、グスン」

 出来るだけ腹が痛まない様に、と腹に布に包んだ温めた石を押し当てる。
 熱が体の中にじんわり伝わると、少しだけ痛みがマシになる気がするのだ。

「頭も痛い…腰も痛い……気分も悪い、最悪最悪最悪最悪!!!」

 グズグズと鼻を啜りながら聖女は呪いの様に言葉をつづる。
 こんな痛みは経験した事がない。
 まるで腹の中に溶けた熱い鉛を入れられたかのようだ。

「痛い、痛いよぅ、私がこんな思いしてるのに、ヒック、私の従者たちは何をしてるのよぉ!!」

 普段御付のメイドであるルーシュは何故か帝国の皇族に気に入られて、そちらの御付となっている。

「あの平民、生意気なのよ、何で皇族に気に入られるのよ!ウッウッ、本当なら、私が横にいる予定だったのに、ふっ、うぅぅぅぅ――――っ!!痛い!痛いよぉぉぉっ!!!」

 ルーシュが居ないので別の侍女が聖女に付いている。
 今は煎じ薬の用意をしている所だ。

「法術も効かない、ポーションも効かない、何なのコレ…うぅ、いった……いぃ」

 ドロリ

「!?」

 何かが下腿の衣類に染み込む感触が聖女を襲った。
 ツン、と鉄臭い臭いが鼻に付く。

「やだ、私お漏らししたの?そんなそんな、私もう14歳だよ?お漏らしするなんて、ないよぉぉ…」

 布団に包まりながら、聖女は下腿の衣類を全て脱ぐ。
 鉄臭い臭いが強くなった。
 衣服はじっとりと湿っていた。
 そして聖女の証である純白の法衣は赤く汚れていた。

「何で!何で血が出てるの!?わ、私、病気なの!?」

 本来ならもう月の物が始まってる年齢の聖女だったが、月の物が来る前に子宮に神の加護を宿したのでコレ迄こういった経験はなかった。
 自分に関係ないから聖女はそう言う知識を覚える気も無かった。
 だから聖女は自分の身に起きた事が何なのか分からなかった。

 そして月の物が来た事。
 それがどう言う意味があるのか理解出来るほど聖女の頭は賢くなかった。

 子宮に宿した加護を無くしたため月の物が始まった。

 つまり聖女はもう神の加護は無い、ただの子供に過ぎないのだ。
 神の加護の器には相応しかった聖女だが、己の身に法力が宿っているかは別の話しで。
 聖女は法力も魔力も持たない、平凡な子供だった。
 唯一取り柄があると言うなら、実家が伯爵家であったと言う事だけだろう。

「うあぁぁあぁぁぁっぁぁあっぁぁん!!!」

 己の身に起きた事も理解できず、下半身からタラタラ垂れてくる血がシーツを汚すのを目にしながら、恐怖で泣き叫ぶことしか出来なかった。
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