男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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本編で語られなかったイチャラブ事情

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「こんなにニンジン買い込んでどうするのルーシュ?」

「差し入れです」

「ニンジンばっかり?」

「それでも喜ぶ人は居るんですよ」

 ルーシュとアンドュアイスが大量の人参を抱えて来たのは貧民街の孤児院だった。
 小さな子供たちがボロを着て、それでも楽しそうに遊んでいる。
 玩具も無いのに走り回るだけで楽しいらしい。
 生まれてから玩具なんて与えられたことが無いから、それが悲しい事だとは子供たちは思ってない。

「おーいそこの少年、ココの責任者に合わせて貰いたいんだけど?」

「上質な服着た兄ちゃんらがこんなところに何の用だよ?」

 年長らしき少年にルーシュが話しかけると、警戒心満々と言った表情で少年はルーシュとアンドュアイスを見比べた。
 【認識阻害・強】がかかってなかったら即正体がばれていただろう。
 身内に甘い全能神に感謝である。

「ちょっと食材が大量に入りすぎたんだよ。ニンジンばっかりで嫌じゃ無ければ貰って欲しいんだけど?」

「ニンジン!?」

「嫌か?」

「食えるモノなら何でも貰う!ちょっと待っててくれよ兄ちゃんたち、すぐ園長先生呼ぶから」

 アンドゥアイスが不思議そうな顔をしていた。
 アンドュアイスの人生でこんなにニンジンごときで喜ばれたのは初めてなのである。

 少しすると腰の曲がった優しそうな御婆さんが少年に連れられて現れた。

「お恵み感謝いたします」

「いや、こっちも押し付けたみたいで御免ね」

「どんな経路であれ、どんな事情であれ、そのニンジンは子供たちの身体を作る糧になります。ただでさえ栄養不足の子たちです。野菜を食べたら体にも良いでしょう」

「では貰って貰えますか?」

「喜んで頂きます。貴族の方には貧相なお礼かも知れませんが、今日はこのニンジンを使って夕食のスープを作ります。良ければ一緒に召しあがってくれませんか?子供たちにとって貴族の方と食事できたことは栄誉となるでしょうから」

「喜んで」

 そう言ってルーシュは大量の人参を抱えた。
 それをアンドュアイスが奪い取る。

「アンドュ様?」

「思いの持つのは男の役目なんだよーサイヒが言ってた。でもサイヒ力持ちだから女の子なのに思いもの持ってるよねルークより力があるからこの場合は良いのかな?」

「いや、アカンと思います………」

(少しは伴侶に漢らしい役目やらしてやれよ全能神………)

「これどこに持っていったら良いのかな?」

「では厨房の方にお願いして良いですか?今日はシスターたちが腕によりをかけて食事を作ります。どうぞ汚い所ですが中で寛いでいて下さい」

 園長はそう言って厨房の方へ消えて行った。
 若い女と話しているようだ。
 シスターの恰好をしている。
 よく見れば、ボロ邸は教会の雰囲気を僅かに残していた。

「お金が無くて教会を維持できなかったんでしょうね」

「僕のお小遣いで寄付しようか!」

「駄目ですよアンドュ様、それでは根本的な解決に放居ません。飢えたものが居た時は釣った魚を与えるより釣りの仕方を教える方が生存率が上がるんです。これを機にガフティラベル帝国でも子供が飢えない環境を作りたいですね。サイヒの居たカカンでは学校の設備が整っていて子供でもお金を稼げるようになってるらしいですよ?」

「じゃぁ今度2人でカカン王国に行ってみようか」

「2人でですか?」

「そうだけど、ルーシュは嫌?」

 お目目ウルウル。
 シュンと垂れさがった耳と尻尾(幻覚)。
 ルーシュはこの顔に弱いのだ。

(アンドュ様の事だからサイヒを呼ぼうと言うと思ったんだけど…私と2人で良いのか、そっか、2人きりで他の国に行くのは良いんだ)

 自分の婚約者と心友の間の絆は固い。
 それに嫉妬する時もある。
 でもこうして心友のサイヒより自分を優先してくれるだけでルーシュは幸せになる。
 何ともチョロい。
 だがこのチョロさがルーシュの良いところでもあるのだ。

「ルーシュ、僕、頑張ってニンジン食べるね」

「えぇ、頑張って下さいアンドゥ様」

 ルーシュは事が自分の思い通りに進んでいるから気付かなかった。
 アンドュアイスの顔色が血の気が引て、紙のように白くなっていたことに。
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