男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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本編で語られなかったイチャラブ事情

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「部屋、1部屋しか取れなかったね」

「そ、そそそそそそそそうですね!」

 思いっきりドもるルーシュである。
 声だけで腰が抜けそうなのに、このフェロモンを巻き散らした男と同じ部屋で寝ろと!?
 はっきり言ってルーシュには拷問に近い。
 心臓が大運動会である。
 一応ベッドはツインなのだが、この狭い部屋の中、男と女が1対1で泊まる。
 普通は何も起きない訳がない。

 まぁアンドュアイスが何かをすることも無いのだが。
 アンドュアイスは性に対しての衝動が薄い。
 ソレは幼い頃からのトラウマのせいである。 
 ルーシュは勿論その事も知っている。
 なのでアンドュアイスがルーシュに手を出す確率なんて有り得ないと確信している。

 確信してる、がシチュエーション的に思春期のルーシュにはそれだけでいっぱいいっぱいなのだ。

「ルーシュ、もしかして同じ部屋嫌だった?」

 しょんぼりとアンドュアイスが訪ねる。
 そんな良い声で可愛い事を言わないで欲しい。
 イマジナリーな犬耳尻尾が垂れて見える。

「嫌なら僕が野営するから部屋は1人で使って貰ってかまわないよ?」

「そそそそんな事ないです!むしろ私が野営します!」

「女の子のルーシュに野営はさせられないでしょ、危険がいっぱいだよ?」

「私に何かしようなんてとち狂った奴なんていませんよ、今だって男にしか見えないでしょう?」

 自分を指さしてルーシュは言う。
 確かに少年に見える。
 ルーシュは女にしてはかなり身長が高い。 
 175cmある。
 アンドュアイスがさらに10cm以上高いので、アンドュアイスの隣に居て女物の服を着れば十分女の子に見えるのだが、ユニセックスの服を着たルーシュ単品で女と見破るのは難しい。
 体に凹凸と曲線が殆どないのが最大の影響であろう。
 顔の造り自体は悪く無いのだから。

「それに私そこそこ強いですから、大抵の危険は防げますよ?」

 グイ

「へ?」

 ルーシュの腕をアンドュアイスが掴んだ。

「この手、外してみて?」

「え、ええ、ん~~~~~!!!」

「外れないよね?コレが男と女の力のだよ?ルーシュが幾ら男の子に間違われやすくても、ルーシュはちゃんと可愛い女の子なんだよ?野営何て許せるわけないでしょ?」

 本来ルーシュは並みの男より力がある。
 だからルーシュもアンドュアイスの手を外せると思った。 
 だが相手がある過ぎる。
 アンドュアイスは力も並大抵ではない。
 ルーシュが幾ら女の割に力が強かろうが、大陸で1,2を争うような男の力に適う筈が無いのだ。

「それに私の事なんて、て言わないで。僕はルーシュが好きだから、ルーシュ自身にもルーシュを貶めて欲しくないよ?」

「アンドュ様………」

「ルーシュは魅力的だよ?僕が初めて好きになった女の子なんだから」

「それは、女嫌いのアンドュ様がたまたま初めて男みたいな女にあったのが私だっただけですよ………」

 己で言っておいて、ルーシュは悲しくなった。
 アンドュアイスはルーシュの姉たちにも普通に接していた。
 女らしく無ければ、恋愛は可能なのだろう。
 たまたま。
 たまたま初めて会ったのだルーシュだっただけだ。

「だったらコレは余計に運命だと思わない?」

「え?」

「ルーシュ以外にも女の子に見えない女の子は存在するよ。大陸中探したら結構いるかも知れない。でも、その幾らいるか分からない数の中から、僕はルーシュに1番に会ったんだ。だから、コレは運命だと僕は思ってるよ?」

 青空のような綺麗な目がルーシュの瞳を覗き込む。
 その穢れない目に、ルーシュは視線を奪われる。

「それに、女の子に見えないんだったら誰でも良い訳じゃないよ?それを言っちゃったら僕はルーシュより先に会ったサイヒを好きにならなくちゃおかしいでしょ?
でも僕が好きになったのはルーシュだった。
初めて平気だった女の子はサイヒだったけど、初めて好きになった女の子はルーシュだったんだよ。僕のこの気持ちを否定しないで?」

 お願い、と続きそうな程に真摯なその瞳が揺れる。
 涙が溜まっているのだ。
 それを零しはしない程度にアンドュアイスは大人であったが。
 でも16年しか生きていないルーシュにとって、アンドュアイスのような限りなく完全に近い存在が涙を浮かべるなんて初めて見たのだ。
 心臓が高鳴る。

 期待して良いんだろうか?
 本当に自分で良いんだろうか?

「正直言うと、僕にとっても1部屋で過ごすのはきついものがあるんだよ?」

「そ、そうですよね、王族の片がこんな狭い部屋に2人で泊まるなんて………」

「違うよ、ルーシュと泊まるのがキツイんだよ?僕に性欲がないと思っているでしょ?でも、僕だって好きな女の子と一緒の部屋で過ごして何も思わない程枯れては無いんだよ?
今だって、手首を掴む手をルーシュの頬に触れさせたいと思ってる。瑞々しい唇に、触れたらどうなるかなんて、期待している。
ルーシュが早く大人になれば良いのに、なんて毎日思っているよ?早くルーシュを自分のモノにしたくって、自分色に染めたくって………」

 はぁ、とアンドュアイスから熱い吐息が漏れた。
 それが酷く扇情的で、ルーシュはこの人が求めてくれるなら、今すぐにでも自分のモノにして欲しいなんて思ってしまった。
 それが表情に出る。
 アンドュアイスを見つめ返すルーシュの稲穂色の瞳は確かに情欲に中てられた熱を孕んでいた。

「でも、今日は我慢するね。僕、ルーシュのこと大切にしたいから、ルーシュが大人になるのをちゃんと待つよ。そしてルーシュが大人になったら、誰よりも先にルーシュを攫いに行くから、覚悟しててね?」

 そいう言って、アンドュアイスはルーシュの頬に唇を落とした。

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 プシューと頭から煙を出すのが見えそうなくらい、ルーシュは顔を真っ赤にして気を失った。
 ポテン、と座っていたベッドに倒れ込む。
 飢えた男の前で気を失うなど女の子にあるまじき行為である。
 美味しく頂かれても文句は言えない。

 だが相手はアンドュアイス。
 26年生きて来て初めて見つけた宝物のような女の子を、意図しない形で己のモノにしようなどと言う不届きな感情は持ち合わせていなかった。

「ふふ、倒れちゃった。寝てるルーシュも可愛いね。今日は寝顔だけで満足かな?だから野営するなんて無茶苦茶な事言わないでよね、ルーシュの寝顔を堪能できるのは僕だけの特権なんだから♬」

 イマジナリーな犬耳尻尾が今はピン、と天をむいて立っている。
 尻尾なんて嬉しさで千切れるんじゃ以下と言う位の勢いで振っている。

 そんなアンドュアイスを見て、何処ぞの神様が「私の心友と保護犬が今日も可愛い」とご機嫌で酒を嗜みながら様子を見て居たとか居ないとか?
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