あんたは俺のだから。

そらいろ

文字の大きさ
上 下
99 / 244

花明り-hanaakari-2

しおりを挟む
遠くて機械の音が響いている。
ボヤッとした意識の中、暗闇が広がる世界で音の在り処を探す。

どこ…。どこだ…。

手を伸ばしても見つからない。
何が鳴っているかもわからな…い…。


……ちがう。これは携帯の音だ。


ガバッと勢い良く頭を上げて辺りを見渡す。
今度こそ目を開けているのに、視界は暗い。

その中に1つ、光っている物を見つけて手に取る。


「はい…。」

「あ、しゆちゃん?今仕事終わったんだー!」

「あ、れ…。みぃくん…。」

「もしかして、仕事しながら寝ちゃってた感じ?」

樹矢の言う通り、俺は知らない間に寝てしまっていたらしく部屋の電気も付けないまま気づけば夜を迎えていた。


「あー…。うん…そうみたい…。」

「寝惚けてるしゆちゃんも可愛いね。いつもの駅で待ってるね。」

「分かった。すぐ向かう。」


通話を切って、上着を羽織るとすぐに家を出た。

夜は少し空気がヒンヤリしていて、春なのにまだ肌寒い。
咲いている花は、もう春の色になっていて冬とは違い青々と緑が生き生きしている気がする。



駅に向かうと樹矢をすぐに見つける。眼鏡にマスク姿で変装しているものの、丸わかり。

「おまたせ、樹矢。」

声を掛けて俺を確認するとすぐに歩き出す。

人通りが少ない駅とはいえ、バレるのはマズイからいつも外では会話が少ない。

スタスタと歩く後ろを追っていくと、ある河川敷に辿り着いた。


「ここ。一度しゆちゃんと来たかったの。」


目の前には川沿いに広がる桜…桜…桜…。
満開に咲き揺れる、無数の桜の木だった。

「き、れい…。」
しおりを挟む

処理中です...