あんたは俺のだから。

そらいろ

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「コハダ美味しいよねぇ」
「ほんと。こんな美味しいお寿司初めて食べる……」
「シャリも絶妙だよね。大将さすが!」
「ありがとよーぅ!」

 経験したことのないお店に始めは緊張していたなんて、まるで嘘だったかのように朱斗はリラックスしていた。肩の力がふわりと抜ける。会いたい恋人を思い、センチメンタルになる時間を結埜と過ごすことで埋められた。

「んー!これこれ!赤だしも安定に美味しい……!」
「お寿司だけじゃないなんて、さすがです!」

 いつの間にか大将とも打ち解けていて、お酒は飲んでいないはずなのに気分がとても良かった。
 変わらず結埜からの視線は、朱斗はずっと感じていた。見られている。というより、「俺はずっと君を見ているよ」とそう彼は言い出しそうな様子なのがとてもしっくりくる。

「須藤さん、美味しい?」

 近づく結埜の顔に戸惑いを感じつつも、「美味しいです!」と素直な感想を伝える。

「須藤さん、敬語じゃなくていいんだよ?というより、敬語やめてくれない?」
「え、えーっと……いいんですか?」
「もうタメで全然ウェルカム!俺、実は前から須藤さんのこと知っててさ、今回仕事一緒になるって知って嬉しくて嬉しくて……。もっと、もっと……朱斗くんと仲良くなりたい」

 真っ直ぐな視線が突き刺さる。心にまで侵入してきそうなその目から逸らさないと、と危機感すら覚える。下の名前で呼ばれたのに、あまりの自然さに驚きもしなかった。

(どうして?どうして俺なんかにこんな視線を送れるんだ……)

 以前から存在を知っていたと言えど、そのあまりの真剣さに疑問を抱く。

「わ、分かった。なるべく敬語は止める」
「やった!なら朱斗くん、改めてよろしくね」

 笑顔が笑っていた。
 沢山の写真を撮ってきた朱斗には分かる。笑わない笑顔と笑う笑顔。心から出ているものなのか、失くしてしまっているのか。

「良い……笑顔だね」
「ほんと?嬉しいなぁ」

 笑う姿に樹矢を重ねる。

(似てないのにな……みぃくんに……)

 手を伸ばして、頬に触れた。結埜の肌に触れたのはもちろん初めてだ。温かい体温が指先に伝わると、ポタリと水滴がその指を濡らした。

「え……?」

 訳もわからず結埜に触れてしまった自身の行動に驚いたが、それよりも驚いたのは結埜の止まらない涙だった。

「あっ、え。ゆ、結埜さん!?どうしました?えっと、ごめんなさい!勝手に触ってしまって……」

 声は無く、静かに流れる涙を結埜は必死に拭う。何も言わず朱斗を見ることもなく俯いて流れ落ちた涙は、お店の床を濡らしては滲みを作って消えていった。
 上書きされる滲みは、泣きやまないと無くならない。結埜は失くしたくなかった。もう、置いていかないでと出会ったばかりの朱斗に強く切実に思いを込めて願った。
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