近くて遠い10センチメートル

視世陽木

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白黒の社会

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「有給取って旅行にでも行ってゆっくりしたらどうですか?」

 ある日の昼休み、社員食堂でうどんをすすっていると後輩が急な提案をしてきた。

「何だよ藪から棒に?」

「だって先輩、ここ最近ずっと顔が死んでますもん。食欲もないみたいだし」

 顔が死んでるとは失礼な話だが、食欲がないのは否めなかった。
1番安く1番あっさり食べれそうだと思って注文したうどんだが、ほとんど減っていない。

「先輩ばっかり新人教育とか難しい案件を押し付けられて、ほとんど毎日残業でしょ?」

「なんでかわからないけど、俺は課長に嫌われてるからなぁ」

「俺達も手伝えることは手伝ってますけど、課長は『木原の仕事だから手伝わなくていい!』とか言ってますし」

「課長の目を盗んで手伝ってくれてる皆にはホント感謝してるよ」

「今抱えてる案件はもうそろそろ終わりですよね? 今のうちに有給申請しとけば課長も無理に仕事詰めれないですって」

「有給ねぇ。個人的に使ったことないなぁ……」

 入社3年目だが俺は有給休暇を使ったことがない。
個人的にと言ったのは、有給消化しないことに法的に問題があるのか総務が正規の休みを有給として処理したりしているからだ。

「旅行か、いいかもな」

「旅行するかどうかは別として、しばらくゆっくりした方がいいですって!」

「ありがとな、心配してくれて」

 俺の言葉を聞いた後輩は、照れたように頬を掻いた。

「もし旅行するなら先輩はどこに行きたいですか?」

 うちは両親も出不精だったので、学校行事以外でまともに旅行した経験がない。
それでも俺が行きたい場所は決まっていた。

「俺は……」
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