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19話 不思議な女①
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「あなたが知っている中で1番怖い話は何ですか?」
これまでに何度も尋ねられた質問だ。
しっかり覚えているかどうかは別にして、オカルト掲示板やテレビの心霊番組、怖い話の書籍や人から聞いた話など、私が知る怖い話は数百はある。そのせいで、怖い話を聞いたり読んだりしても「これ聞いたことあるな」「これ読んだことあるな」というものが多いし、テレビの心霊番組の心霊動画についても「これ観たことあるな」というものがほとんどだ。
そんな数百の中から私が選ぶのは、自分が体験した話だ。
人から聞いた話や本で読んだ話、テレビで見た映像などでも怖いものはいくつもあるが、やはりこの身をもって体験した出来事に勝るものはない。
少し長い話になるので、3部に分けて書かせてもらう。
大学合格が決まってすぐ、私はまず原付の免許を取得した。
希望する学部がある大学の中で、家から1番近いという理由だけで大学を選んだのだが、それでも歩くには遠い距離だったからだ。
バス通学という手段もあったが、元来私は人が多いのが苦手であり、通学時や帰宅時のラッシュに耐えれる自信がなかった。
また、高校までの教育課程とは違い、大学生の時間割りというのは、余程ビッチリ講義を取らない限り朝から夕方まで講義で埋まっているということはない。
朝一から講義がある日もあれば、昼からゆっくりと出ていける日もある。
するとちょうどいい時刻に到着するバスがないこともあるので、渋々1本早いバスに乗っていき、時間を潰さないといけないことも出てくる。
早い話、できるだけギリギリで登校したいし、最後の講義が終わったらできるだけ早く帰りたい、そんな怠惰な私に原付での通学はうってつけだったのだ。
無事に原付の免許を取得することができた私は、状態のよい新古車の原付を知り合いから安く譲ってもらう約束をしていた。
しかしいくら新古車といえども、名義変更や多少のメンテナンスが必要ですぐすぐ手元に届かない。
そこで原付が届くまでの少しの間、私はバス通学をすることになった。
バス通学1日目、自宅から1番近い停留所でバスに乗った。
昼前の少しゆっくりした時間の便だったため、車内は人もまばら。贅沢に2人掛けの席に座ることにした。
ぼんやりと車窓の外を見ていると、次の停留所が見えてくる。
数人バスを待っているが、座席が埋まるような人数でもない。
綺麗な人がいるなぁなんて世俗的なことを考えているうちに、バスは停留所で停まった。
バス後方のドアが開き、ガヤガヤと乗客が乗り込んでくる。
そちらの方には目もくれず、ただただ私はぼんやりと外を眺めていた。
すると、私の隣に誰かが座ってきた。
思わず私はそちらに顔を向けてしまう。
なぜなら、まだ席に余裕があるのに、わざわざ私の隣に座ってきたのだ。
2人掛けのイスに1人で座っているから、隣に誰かが座ることもあるだろう。
しかし車内にはまだまだ空席があり、なんなら1人掛け用の席だって空いていた。
それなのに、わざわざ私の隣に座るだろうか?
そちらへ顔を向けると、その人は私が「綺麗な人がいるなぁ」と思った女性だった。
女性ならなおさら男性の隣は極力避けるんじゃないかと疑問に思った。
一瞬「知り合いかな?」と思ったが、確実に知らない人だ。
人の顔や名前を覚えるのは得意なので、十何年も会っていないような人でない限りそうそう忘れることはない。
(まぁいっか……)
先にも述べたが、他の席が空いてるのに席を詰めてはいけない、という決まりがあるわけでもなし。
知り合いでもないし、話しかけてくるわけでもないので放っておくことにした。
もちろん何事もなく大学前の停留所に到着し、「ちょっと前をすみません」と言って女性の前を通り下車する。
私の後に続いて降りてくるようなこともなく、ただただ女性はお行儀よく座っているだけだった。
しかし話はこれだけでは終わらなかった。
(またいるよ……)
バス通学を始めた次の日も、その次の日も、そのまた次の日も次の日も、その女性は私が乗る停留所の次の停留所でバスを待っていた。
そして他の席が空いているにも関わらず当然のように私の隣に座ってきた。
当時の若かった私は、最初のうちは
(もしかしたら俺に気があるのかな?)
なんて素敵な勘違いをしていたのだが、それにしては話しかけてくるわけでもないし、何ならこちらを見ようともしない。
ただただお行儀よく座り、真っすぐ前を見ているだけ。
(怖い……)
いくら美人が相手でも、そんなことが続けば恐怖だった。
こちらから「なんでいつも隣に座ってくるんですか?」と聞くのも違うし、かといって無関心でいるのも限界だった。
彼女はいつも私より後に降りる。
そのせいかどうかはわからないが、帰りのバスでは絶対に一緒にならないのだが、それはそれで怖かった。
同じ路線のバスならば、帰りだろうが1度ぐらいは乗り合わせることもあるはずなのに。
しかしそんな恐怖の日々もついに終わりを迎える。
「原付! 来てる!!」
停留所からトボトボと歩いて帰ると、自宅の駐車場に原付が停まっていたのだ。
本来ならば「やっと原付がきた!」という喜びのはずなのだが、私は「これ以上恐怖のバス通学を過ごさなくてよくなる!」ということに安堵していた。
以下は後日談となる。
(今日もいないな……。一体なんだったんだろう?)
バイク通学を始めてしばらくして気がついたのだが、原付で停留所前を通ってもあの女性はいないのだ。
1回も見たことがない。
そもそもが不思議な話であったのだ。
冒頭で述べたように、大学生の時間割りは曜日によって違うことが多い。
それなのに彼女は、必ず私が乗るバスを待っていた。
怠惰な学生よろしく午前中は自習休講にしてゆっくり家を出たこともあったが、それでも彼女は私が乗るバスを待っていた。
それなのに、バイク通学を始めてからはパッタリとその姿を見せなくなった。
元々「可能性は低いけど」と考えていたことがある。
それは、始発の便からずっと私が乗っている便を待っているという可能性。
それならば私の乗車の有無を確認してから乗るかどうかを決めればよいだけだ。
しかし、その可能性も完全になくなった。
もはや停留所いないのだから……。
<不思議な女②へ続く>
これまでに何度も尋ねられた質問だ。
しっかり覚えているかどうかは別にして、オカルト掲示板やテレビの心霊番組、怖い話の書籍や人から聞いた話など、私が知る怖い話は数百はある。そのせいで、怖い話を聞いたり読んだりしても「これ聞いたことあるな」「これ読んだことあるな」というものが多いし、テレビの心霊番組の心霊動画についても「これ観たことあるな」というものがほとんどだ。
そんな数百の中から私が選ぶのは、自分が体験した話だ。
人から聞いた話や本で読んだ話、テレビで見た映像などでも怖いものはいくつもあるが、やはりこの身をもって体験した出来事に勝るものはない。
少し長い話になるので、3部に分けて書かせてもらう。
大学合格が決まってすぐ、私はまず原付の免許を取得した。
希望する学部がある大学の中で、家から1番近いという理由だけで大学を選んだのだが、それでも歩くには遠い距離だったからだ。
バス通学という手段もあったが、元来私は人が多いのが苦手であり、通学時や帰宅時のラッシュに耐えれる自信がなかった。
また、高校までの教育課程とは違い、大学生の時間割りというのは、余程ビッチリ講義を取らない限り朝から夕方まで講義で埋まっているということはない。
朝一から講義がある日もあれば、昼からゆっくりと出ていける日もある。
するとちょうどいい時刻に到着するバスがないこともあるので、渋々1本早いバスに乗っていき、時間を潰さないといけないことも出てくる。
早い話、できるだけギリギリで登校したいし、最後の講義が終わったらできるだけ早く帰りたい、そんな怠惰な私に原付での通学はうってつけだったのだ。
無事に原付の免許を取得することができた私は、状態のよい新古車の原付を知り合いから安く譲ってもらう約束をしていた。
しかしいくら新古車といえども、名義変更や多少のメンテナンスが必要ですぐすぐ手元に届かない。
そこで原付が届くまでの少しの間、私はバス通学をすることになった。
バス通学1日目、自宅から1番近い停留所でバスに乗った。
昼前の少しゆっくりした時間の便だったため、車内は人もまばら。贅沢に2人掛けの席に座ることにした。
ぼんやりと車窓の外を見ていると、次の停留所が見えてくる。
数人バスを待っているが、座席が埋まるような人数でもない。
綺麗な人がいるなぁなんて世俗的なことを考えているうちに、バスは停留所で停まった。
バス後方のドアが開き、ガヤガヤと乗客が乗り込んでくる。
そちらの方には目もくれず、ただただ私はぼんやりと外を眺めていた。
すると、私の隣に誰かが座ってきた。
思わず私はそちらに顔を向けてしまう。
なぜなら、まだ席に余裕があるのに、わざわざ私の隣に座ってきたのだ。
2人掛けのイスに1人で座っているから、隣に誰かが座ることもあるだろう。
しかし車内にはまだまだ空席があり、なんなら1人掛け用の席だって空いていた。
それなのに、わざわざ私の隣に座るだろうか?
そちらへ顔を向けると、その人は私が「綺麗な人がいるなぁ」と思った女性だった。
女性ならなおさら男性の隣は極力避けるんじゃないかと疑問に思った。
一瞬「知り合いかな?」と思ったが、確実に知らない人だ。
人の顔や名前を覚えるのは得意なので、十何年も会っていないような人でない限りそうそう忘れることはない。
(まぁいっか……)
先にも述べたが、他の席が空いてるのに席を詰めてはいけない、という決まりがあるわけでもなし。
知り合いでもないし、話しかけてくるわけでもないので放っておくことにした。
もちろん何事もなく大学前の停留所に到着し、「ちょっと前をすみません」と言って女性の前を通り下車する。
私の後に続いて降りてくるようなこともなく、ただただ女性はお行儀よく座っているだけだった。
しかし話はこれだけでは終わらなかった。
(またいるよ……)
バス通学を始めた次の日も、その次の日も、そのまた次の日も次の日も、その女性は私が乗る停留所の次の停留所でバスを待っていた。
そして他の席が空いているにも関わらず当然のように私の隣に座ってきた。
当時の若かった私は、最初のうちは
(もしかしたら俺に気があるのかな?)
なんて素敵な勘違いをしていたのだが、それにしては話しかけてくるわけでもないし、何ならこちらを見ようともしない。
ただただお行儀よく座り、真っすぐ前を見ているだけ。
(怖い……)
いくら美人が相手でも、そんなことが続けば恐怖だった。
こちらから「なんでいつも隣に座ってくるんですか?」と聞くのも違うし、かといって無関心でいるのも限界だった。
彼女はいつも私より後に降りる。
そのせいかどうかはわからないが、帰りのバスでは絶対に一緒にならないのだが、それはそれで怖かった。
同じ路線のバスならば、帰りだろうが1度ぐらいは乗り合わせることもあるはずなのに。
しかしそんな恐怖の日々もついに終わりを迎える。
「原付! 来てる!!」
停留所からトボトボと歩いて帰ると、自宅の駐車場に原付が停まっていたのだ。
本来ならば「やっと原付がきた!」という喜びのはずなのだが、私は「これ以上恐怖のバス通学を過ごさなくてよくなる!」ということに安堵していた。
以下は後日談となる。
(今日もいないな……。一体なんだったんだろう?)
バイク通学を始めてしばらくして気がついたのだが、原付で停留所前を通ってもあの女性はいないのだ。
1回も見たことがない。
そもそもが不思議な話であったのだ。
冒頭で述べたように、大学生の時間割りは曜日によって違うことが多い。
それなのに彼女は、必ず私が乗るバスを待っていた。
怠惰な学生よろしく午前中は自習休講にしてゆっくり家を出たこともあったが、それでも彼女は私が乗るバスを待っていた。
それなのに、バイク通学を始めてからはパッタリとその姿を見せなくなった。
元々「可能性は低いけど」と考えていたことがある。
それは、始発の便からずっと私が乗っている便を待っているという可能性。
それならば私の乗車の有無を確認してから乗るかどうかを決めればよいだけだ。
しかし、その可能性も完全になくなった。
もはや停留所いないのだから……。
<不思議な女②へ続く>
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