やり直し令嬢と転生侍女のキャンプ飯

しがついつか

文字の大きさ
4 / 10

巻き戻されたカナリア(3)

しおりを挟む
アナが淹れた紅茶を飲んで、ようやく落ち着きを取り戻すと、カナリアはポツリポツリと語り始めた。

20歳までの記憶があること。
それはとても鮮明で、目覚めた今もはっきり覚えているため、夢だとは思えないこと。
12歳の時に、アナがカナリアを庇って事故死したこと。
14歳で婚約者が出来るまで、ずっとこの離れの屋敷で1人で過ごしていたこと。
子爵家と婚約したことで、離れの屋敷でみすぼらしい生活をしていたのでは外聞が悪いからと、母屋での生活が始まったこと。
母屋にいる使用人たちは最低限のことはしてくれるが、アナのように気安く話せる人はいなかったこと。
急に始まった令嬢としての教育についていけず、苦しかったこと。
婚約者だけが唯一優しく声をかけてくれたため、酷く執着して彼のすべてを知りたくなり、交友関係にまで口を出してしまい、鬱陶しいといわれたこと。

そして――カナリアの20歳の誕生パーティで、子爵令息との結婚を発表するはずだったのが、控え室で彼に刺されたこと。




「――刺されてから倒れて、意識を失ったと思うのだけれど・・・気づいたらベッドにいたの・・・」
「それが昨夜のこと・・・ですね」
「・・・うん・・・」
「私の記憶が確かであれば今のお嬢様は8歳――再来月9歳のお誕生日を迎えられます。今目の前にいらっしゃるカナリア様のそのお姿は、私の目には昨日とお変わりなく、8歳の少女のものです」

どう見ても、20歳の女性ではない。
鏡を見たカナリアも、自分の姿が幼い頃のそれであることは理解している。
だからこそ、カナリアは混乱する。

「わ、私・・・どうしてしまったのかしら・・・。この記憶は一体何なの・・・?アナは今目の前にいるのに、アナが死んだ記憶があるの・・・あの時に感じた絶望感を、はっきりと覚えているの。・・・どうして・・・すべて夢だったの・・・?それとも、アナと話している今が夢なの・・・?」

これは刺されてから死ぬ間際に見ている、カナリアの夢なのだろうか。
アナに会いたいという気持ちが見せている、ただの夢なのだろうか。

記憶を疑い怯えるカナリア。
彼女から話を聞いたアナには、1つだけ思い当たる節があった。

「お嬢様・・・もしかして、お嬢様はのではないでしょうか?」
「・・・ぎゃっこう?」
「はい。お嬢様は、20歳の誕生パーティまでの記憶があるのですよね。それも夢を見たにしては長くてはっきりした記憶を持っているとのこと。これに当てはまるのは、逆行という現象かと思います。逆行とは、ある時点――大体が、本人が亡くなった時になるようですが、その瞬間から、数年前に時が戻るといったことです。場合によっては生まれたばかりの赤ん坊まで遡ることがあります。――別の言い方をすると、過去の自分に今の自分の魂が乗り移る・・・と言うことだったかと思います」
「・・・そんな、ことがあるの?」
「私が実際にそれを体験したことはありませんので、事実かどうかはわかりません・・・。あくまでも書物から得た知識にはなってしまいます。ですが少なくとも私が持つ知識の中では、今お嬢様が体験されている事象を表すのには、これ以外に当てはまる物はないように思います」


カナリアの顔は青ざめたままだが、体の震えは止まった。
アナの説明を完全に理解したわけではないけれど、理解不能な現象に説明が付いたことは、彼女を安心させた。
何より安心できたのは、カナリアの話しを、アナが否定せずに受け入れてくれたことだ。

「・・・私の頭がおかしいわけではない・・・のよね?」
「はい。私には、実際にお嬢様が20歳までの人生を送り、そこで婚約者様に傷つけられたことを切っ掛けにして、時を遡って今に至ったのではないかと思います」
「アナ・・・」

理解されないような事なのに、アナに信じて受け入れてもらえたことが嬉しい。

「でも・・・そんな不思議なことがあるのかしら・・・」
「まあ、お嬢様の頭がおかしいって否定した場合、私の方がよっぽど頭がおかしい人間ということになりますからね」
「――え?」

何やら新しい単語が出てきた。
『異世界転生』とはなんだろうか。

「私は逆行をしたことはありません。アナとして育った後、もう一度アナの幼少期からやり直したことはないのです。ですが、まったく別の人間として30歳くらいまで生きた記憶があります。それも、ここではない別の世界で生きた記憶です。死んだら全く違う世界――異世界で新しく生まれ変わることを、異世界転生と言うんですよ」

あっけらかんと話すアナに、カナリアは唖然とする。
そんな彼女に、アナはにっこりと笑って言った。

「だから安心してください、お嬢様。不思議な体験をしたのは、お嬢様だけじゃないですよ」
「――はぁぁっ!?」

アナの衝撃的な告白に、先ほどまでの恐怖や不安がどこかへ吹き飛んでしまった。
どういうことか詳しい説明を求めるカナリアを宥め、「ゆっくり食事をしながら話しましょう」とアナはワゴンの食事を温め直すために、厨房へと向かった。
程なくして戻ってきたアナは、テーブルにパンとスープを2人分並べる。ちゃっかり自分の分も用意してきたようだ。

「私のことは、食事をしながらお話ししますよ。お嬢様が食べないのなら、私もお話ししません」

食事よりも説明を求めるカナリアに対して、アナは無理矢理スプーンを持たせた。
カナリアは渋々スープを口に運ぶ。


アナは異世界での人生と、そして今――カナリアの専属侍女となるまでを語ってくれた。
アナの過去を聞くのは、初めてだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「愛される価値がない」と言われ続けた伯爵令嬢、無口な騎士団長に拾われて初めて「おかえり」を知る

歩人
ファンタジー
伯爵令嬢フリーダは、婚約者の子爵に「お前は愛される価値がない」と 公の場で婚約を破棄された。家族にも「お前が至らないから」と責められ、 居場所を失った彼女は、雨の中を一人で歩いていた。 声をかけたのは、"鉄面皮"と呼ばれる騎士団長グスタフだった。 「屋根がある。来い」——たった一言で、彼女を騎士団の官舎に迎え入れた。 無口で不器用な男は、毎朝スープを温め、毎晩「おかえり」と言い、 フリーダが泣くと黙って隣に座った。それだけだった。 それだけで、フリーダの凍りついた心が溶けていった。 半年後、落ちぶれた元婚約者が「やり直そう」と現れたとき、 フリーダは初めて自分の言葉で言えた。 「私にはもう、帰る場所がありますので」

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します

如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい 全くもって分からない 転生した私にはその美的感覚が分からないよ

処理中です...