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魅了の対価
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事の顛末はこうだ。
アッシュの3歳下の妹であり、ブラウンロード伯爵家の長女ビビアナは、生まれながらに『魅了術』を使用することができた。
魅了術を使用できる者は今ではほとんど存在しないと言われているが、千年前にはありふれた術であったという。
学んで身につけることはできず、使用できる者は皆、生まれながらにその力を宿しているそうだ。
厄介なことにこの能力を自らコントロール出来る者は少なく、多くが無意識に使用し、トラブルを招いた。
過去の研究結果によると、どうやら魅了術には対価が必要らしいのだ。
書物に記されている一例では『金品を失う』『食事の質が下がる』『病弱となる』といった己の生活が不便になる者の他、『身内の美貌を奪う』『身内が病弱になる』という身近な者の不幸を対価にするといった非道なものまであった。
ビビアナの魅了術の対価はおそらく『アッシュが受けとるはずだった愛』だったのだろう。
魅了術が強ければ強いほど、その対価は重くなる。
魅了術を持つ者の存在は周囲の者への影響だけではなく、国家存亡の危機が危ぶまれるため、国による対策が取られるようになった。
そのため記録が残されており、また対策の魔道具も存在した。
魅了術のことを知らないビビアナは、自分が誰よりも愛されていることを信じて疑わなかった。
家族はもちろん、使用人達のすべてがビビアナを愛している。
我が儘はすべて叶えてもらえたし、皆がビビアナを見ると笑顔になる。
ビビアナはこの邸で一番偉いのだと認識した。
誤った知識は、10歳になり学園に入学しても続いた。
10歳から15歳までの国内の貴族の子女が通う学園には、ビビアナにとって不運なことに1つ上の学年に王族が在籍していた。
王族である彼らは、常に厳重に警備されている。
夢見がちな少女であるビビアナは、『私が結婚するのは王子さまよ』と本気で思っていた。
そのため、王子がいると知るやいなや、会いに行ったのだ。
手近なところの男女はあっという間にビビアナに魅了されてしまったが、王族はそうはいかなかった。
無作法に近づくビビアナを護衛が止め続けること数日。
一度は引き下がったビビアナだったが、彼女は同学年と教員の一部を次々に魅了していった。
直接話しかけることが難しいのなら、周りの人間に『王子に相応しいのはビビアナだ』と理解させれば良いのだ。
学園の者達を次々に魅了した彼女は、ついに王子と対面することが叶った。
魅了した者達にお願いして、王子を誘導して貰ったのだ。
王子に会えて嬉しくなった彼女はいつものように王子を見つめた。
すると王子の胸元のペンダントが光った。
次の瞬間には、ビビアナは武装した王子の護衛により地面に押しつけられ、手枷を填められた。
手枷は魅了を封じる魔道具だった。
その瞬間から、ビビアナを慕っていた同級生達は魅了が解け正気を取り戻した。
またブラウンロード伯爵邸の者達も魅了が解けたのだった。
王子が身につけていたペンダントは、王子に悪影響を与える術を感知するためのものだ。
魅了術は跳ね返すことが難しいため、防ぐための道具を用意するよりも、術者を封じてしまう方法をとる。
捉えられたビビアナは、狭く汚い留置場に押し込まれた。
ビビアナはかつて無い酷い扱いに泣きわめいたが、誰も助けに来なかった。
両親も兄も、誰も来ない。
留置場で幾日か過ごしたところで、ビビアナはさらに狭い部屋に移動させられた。
石造りの部屋は湿っていて嫌な臭いが漂っている。
一面には頑丈な鉄格子が填められている。
牢獄だ。
ビビアナを連れてきた男の1人が何か言っているが、彼女には難しいことがわからない。
わかったのは『もう一生この部屋から出られない』ということだけ。
ビビアナは泣き喚いた。
やがて声も涙も涸れると、ビビアナは膝を抱えて待つことにした。
捕らわれのお姫様を王子さまが助けに来てくれることを信じて。
いつまでも。
アッシュの3歳下の妹であり、ブラウンロード伯爵家の長女ビビアナは、生まれながらに『魅了術』を使用することができた。
魅了術を使用できる者は今ではほとんど存在しないと言われているが、千年前にはありふれた術であったという。
学んで身につけることはできず、使用できる者は皆、生まれながらにその力を宿しているそうだ。
厄介なことにこの能力を自らコントロール出来る者は少なく、多くが無意識に使用し、トラブルを招いた。
過去の研究結果によると、どうやら魅了術には対価が必要らしいのだ。
書物に記されている一例では『金品を失う』『食事の質が下がる』『病弱となる』といった己の生活が不便になる者の他、『身内の美貌を奪う』『身内が病弱になる』という身近な者の不幸を対価にするといった非道なものまであった。
ビビアナの魅了術の対価はおそらく『アッシュが受けとるはずだった愛』だったのだろう。
魅了術が強ければ強いほど、その対価は重くなる。
魅了術を持つ者の存在は周囲の者への影響だけではなく、国家存亡の危機が危ぶまれるため、国による対策が取られるようになった。
そのため記録が残されており、また対策の魔道具も存在した。
魅了術のことを知らないビビアナは、自分が誰よりも愛されていることを信じて疑わなかった。
家族はもちろん、使用人達のすべてがビビアナを愛している。
我が儘はすべて叶えてもらえたし、皆がビビアナを見ると笑顔になる。
ビビアナはこの邸で一番偉いのだと認識した。
誤った知識は、10歳になり学園に入学しても続いた。
10歳から15歳までの国内の貴族の子女が通う学園には、ビビアナにとって不運なことに1つ上の学年に王族が在籍していた。
王族である彼らは、常に厳重に警備されている。
夢見がちな少女であるビビアナは、『私が結婚するのは王子さまよ』と本気で思っていた。
そのため、王子がいると知るやいなや、会いに行ったのだ。
手近なところの男女はあっという間にビビアナに魅了されてしまったが、王族はそうはいかなかった。
無作法に近づくビビアナを護衛が止め続けること数日。
一度は引き下がったビビアナだったが、彼女は同学年と教員の一部を次々に魅了していった。
直接話しかけることが難しいのなら、周りの人間に『王子に相応しいのはビビアナだ』と理解させれば良いのだ。
学園の者達を次々に魅了した彼女は、ついに王子と対面することが叶った。
魅了した者達にお願いして、王子を誘導して貰ったのだ。
王子に会えて嬉しくなった彼女はいつものように王子を見つめた。
すると王子の胸元のペンダントが光った。
次の瞬間には、ビビアナは武装した王子の護衛により地面に押しつけられ、手枷を填められた。
手枷は魅了を封じる魔道具だった。
その瞬間から、ビビアナを慕っていた同級生達は魅了が解け正気を取り戻した。
またブラウンロード伯爵邸の者達も魅了が解けたのだった。
王子が身につけていたペンダントは、王子に悪影響を与える術を感知するためのものだ。
魅了術は跳ね返すことが難しいため、防ぐための道具を用意するよりも、術者を封じてしまう方法をとる。
捉えられたビビアナは、狭く汚い留置場に押し込まれた。
ビビアナはかつて無い酷い扱いに泣きわめいたが、誰も助けに来なかった。
両親も兄も、誰も来ない。
留置場で幾日か過ごしたところで、ビビアナはさらに狭い部屋に移動させられた。
石造りの部屋は湿っていて嫌な臭いが漂っている。
一面には頑丈な鉄格子が填められている。
牢獄だ。
ビビアナを連れてきた男の1人が何か言っているが、彼女には難しいことがわからない。
わかったのは『もう一生この部屋から出られない』ということだけ。
ビビアナは泣き喚いた。
やがて声も涙も涸れると、ビビアナは膝を抱えて待つことにした。
捕らわれのお姫様を王子さまが助けに来てくれることを信じて。
いつまでも。
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