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アッシュの家
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アッシュは、予定よりも早くブラウンロード伯爵邸を出ることになった。
伯爵領内にある町の中で、伯爵邸から最も遠い町に手頃な物件があった事と、使用人の手配が済んだため、15歳の誕生日を待たずに移り住むことになったのだ。
領内であるため、距離はあってもチャーリー・ブラウンロードの目が届く範囲だ。
比較的治安の良い町であるし、伯爵が息子のために購入した2階建ての一軒家は、平民の中でもとりわけ裕福な者が居住するエリアにある。
住み込みで使用人を雇っている家もいくつかあるため、貴族令息が使用人と共に移り住んでもあまり違和感がない。
「私だけでなく両親まで雇ってくださり、ありがとうございます。――ですが、本当によろしかったのですか? アッシュ様のお世話をする人間が、私達平民の親子だけで…」
「だからいいんだよ。リンリーの家族だからね。セキュリティ面でどうしてもこの家には大人の存在が必要だ。けれど、リンリー以外にあの家から連れてきたい人はいなかったし、伯爵が手配した人間を身近に置きたくはなかったんだ」
現在アッシュの家には、侍女としてついてきたリンリーの他に、彼女の両親と弟妹の6人で生活している。
引っ越しから3か月間は、執事長のマイクもこの家に滞在していた。
リンリーの父と弟にアッシュを守る手段とブラウンロード伯爵家との連絡を取る手段など、必要なノウハウを教えるために。
リンリーの父はこの家の執事と庭師を兼務している。
商売をしていた経験から帳簿を付けることはできるし、書類仕事も性に合っているようで月に一度のマイクへの報告書の提出も苦では無かった。
空いている時間は庭の手入れを行っている。
母は厨房担当だ。
一般的な平民の主婦が作る質素な料理しか出来ないが、アッシュの口には合っているようで大層喜ばれた。
彼女にしてみれば、普段通りに家族+@の食事を作るだけで給金が貰えるのだから、文句などあるはずがなかった。
最近では料理のレパートリーを増やそうと、買い物先の店主や町に住む主婦達からレシピを聞いて勉強している。
14歳になる弟のカイトは、アッシュの護衛という役回りにあたる。
年が近いアッシュとの関係は悪くない。
共に町にいる博識な老人に勉強を教わり、定年となり騎士を引退して故郷に戻ってきた男に護身術の稽古を付けて貰うなどしている。
――老人達はあらかじめマイクが手配しておいてくれた、身元が保証されている人物だ。
妹のマナは昼間は町の定食屋に勤めている。
アッシュの家における明確な役職はない。
彼女に関して言えば、単に同居している家族、といったところだ。
結婚相手を見つけるためにも家の外で働きたいと言う彼女の希望が通ったのだ。
「リンリーが一緒に来てくれて本当によかった。あの家で絶望していた僕にとって、君は初めて信じられる人だったから」
「アッシュ様…」
「どうか、これからも側にいて欲しい…」
「はい。私でよろしければ」
アッシュから『侍女としてついてきて欲しい』と請われた時、リンリーは快諾した。
雇用主はブラウンロード伯爵ではなくアッシュに変わるが、給金が減ることはないと約束された。
さらに伯爵からは5年間の献身を感謝されて謝礼金をたっぷり貰っているし、『これからもアッシュを頼む』と伯爵夫妻から直々にお願いされてしまったのだ。断れるわけがない。
リンリーのいないところで、妹のマナは母親にこう言った。
『お姉ちゃんったら、とんでもなく金持ちのお婿さんを捕まえてきたわね』と。
姉の態度は雇用主に対する敬意があるのみだが、アッシュがリンリーを見る眼差しにはやや熱があると早々に見抜いていた。
アッシュがまだ成人していないので、今のことろ進展はない。
だが近い将来、アッシュと姉の関係が変わる日が来ることを期待している。
悪い意味では無く、良い意味で、彼らの関係が変わると良いなと、マナは願う。
伯爵領内にある町の中で、伯爵邸から最も遠い町に手頃な物件があった事と、使用人の手配が済んだため、15歳の誕生日を待たずに移り住むことになったのだ。
領内であるため、距離はあってもチャーリー・ブラウンロードの目が届く範囲だ。
比較的治安の良い町であるし、伯爵が息子のために購入した2階建ての一軒家は、平民の中でもとりわけ裕福な者が居住するエリアにある。
住み込みで使用人を雇っている家もいくつかあるため、貴族令息が使用人と共に移り住んでもあまり違和感がない。
「私だけでなく両親まで雇ってくださり、ありがとうございます。――ですが、本当によろしかったのですか? アッシュ様のお世話をする人間が、私達平民の親子だけで…」
「だからいいんだよ。リンリーの家族だからね。セキュリティ面でどうしてもこの家には大人の存在が必要だ。けれど、リンリー以外にあの家から連れてきたい人はいなかったし、伯爵が手配した人間を身近に置きたくはなかったんだ」
現在アッシュの家には、侍女としてついてきたリンリーの他に、彼女の両親と弟妹の6人で生活している。
引っ越しから3か月間は、執事長のマイクもこの家に滞在していた。
リンリーの父と弟にアッシュを守る手段とブラウンロード伯爵家との連絡を取る手段など、必要なノウハウを教えるために。
リンリーの父はこの家の執事と庭師を兼務している。
商売をしていた経験から帳簿を付けることはできるし、書類仕事も性に合っているようで月に一度のマイクへの報告書の提出も苦では無かった。
空いている時間は庭の手入れを行っている。
母は厨房担当だ。
一般的な平民の主婦が作る質素な料理しか出来ないが、アッシュの口には合っているようで大層喜ばれた。
彼女にしてみれば、普段通りに家族+@の食事を作るだけで給金が貰えるのだから、文句などあるはずがなかった。
最近では料理のレパートリーを増やそうと、買い物先の店主や町に住む主婦達からレシピを聞いて勉強している。
14歳になる弟のカイトは、アッシュの護衛という役回りにあたる。
年が近いアッシュとの関係は悪くない。
共に町にいる博識な老人に勉強を教わり、定年となり騎士を引退して故郷に戻ってきた男に護身術の稽古を付けて貰うなどしている。
――老人達はあらかじめマイクが手配しておいてくれた、身元が保証されている人物だ。
妹のマナは昼間は町の定食屋に勤めている。
アッシュの家における明確な役職はない。
彼女に関して言えば、単に同居している家族、といったところだ。
結婚相手を見つけるためにも家の外で働きたいと言う彼女の希望が通ったのだ。
「リンリーが一緒に来てくれて本当によかった。あの家で絶望していた僕にとって、君は初めて信じられる人だったから」
「アッシュ様…」
「どうか、これからも側にいて欲しい…」
「はい。私でよろしければ」
アッシュから『侍女としてついてきて欲しい』と請われた時、リンリーは快諾した。
雇用主はブラウンロード伯爵ではなくアッシュに変わるが、給金が減ることはないと約束された。
さらに伯爵からは5年間の献身を感謝されて謝礼金をたっぷり貰っているし、『これからもアッシュを頼む』と伯爵夫妻から直々にお願いされてしまったのだ。断れるわけがない。
リンリーのいないところで、妹のマナは母親にこう言った。
『お姉ちゃんったら、とんでもなく金持ちのお婿さんを捕まえてきたわね』と。
姉の態度は雇用主に対する敬意があるのみだが、アッシュがリンリーを見る眼差しにはやや熱があると早々に見抜いていた。
アッシュがまだ成人していないので、今のことろ進展はない。
だが近い将来、アッシュと姉の関係が変わる日が来ることを期待している。
悪い意味では無く、良い意味で、彼らの関係が変わると良いなと、マナは願う。
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