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はじまり
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マサオは絶望していた。
平日の昼にもかかわらず、公園のベンチでぼんやりと空を眺めることしか出来ない。
秋晴れの空に反して、マサオの心は土砂降りであった。
今朝までは晴れ――ではないが、少なくとも曇天程度にとどまっていたのだ。
いつも通り重たい体を引きずりながら向かった職場で、席に着いた直後に上司に呼び出され、解雇通告を受けるまでは。
突然のクビ宣告に呆然とするマサオをよそに、上司は用意してあった書類にサインするよう促した。
驚きのあまり何も考えられないマサオは、理由を尋ねることもできず上司に促されるまま解雇の手続きを進めていった。
職場のデスクにはほとんど私物を置いていなかったので、通勤用のリュックにすべて収まった。
備品の変換と古い書類をシュレッダーにかけて処分すると、追い出されるようにして職場を後にした。
そのまま家に帰る気にはなれず、ふらりと立ち寄った公園のベンチに腰を下ろした。
途中で購入した缶コーヒーを飲みながら、しばらくは無心で空を眺めていた。
(――いや、なんで俺がクビになんなきゃならないんだ!)
缶コーヒーを飲み終えた頃、会社での出来事が思い出され、徐々に怒りがわいてきた。
解雇されるのは百歩譲って仕方が無いとしよう。
仕事できる優秀な社員じゃなかったことは、マサオ自身が良く理解している。
だが当日の朝に突然辞めさせられるなんておかしい。
法律上問題のある行いだったが、知識の無いマサオでは対処できなかった。
(課長のヤロウ、散々残業と休日出勤させやがって!)
上司への怒りをぶつけるように空き缶を潰そうとしたが、スチール缶は硬かった。
心の中で暴言を吐きながら、なかなか潰れない空き缶に力を込めている内に、段々と冷静になってきた。
(――まあ、あの会社で働き続けるのは無理だっただろうしな。辞めたかったけど、辞表出したり手続きとか面倒で自分からは出来なかったから、かえって良かったのかもな…)
ひとしきり腹を立てた後、マサオの頭をよぎるのは今後の生活のことだ。
貯金は多少あるが、2、3年もしたら無くなる程度しかない。
次の仕事を探さなければならないだろう。
今度は、出来ればあまり人と関わることのない仕事に就きたい。
給料は安くても良いから、自分のペースでゆっくり出来る仕事がいい。
深いため息をつく。
(うん…。しばらく休んだ後で、職案にでも行こう…)
マサオはゆっくりと立ち上がるとゴミ箱に空き缶を放り込み、公園から出た。
空き缶を潰すのは諦めた。
一週間後、職業案内所を訪れたマサオは、秘境駅の臨時職員募集の張り紙を目にする。
平日の昼にもかかわらず、公園のベンチでぼんやりと空を眺めることしか出来ない。
秋晴れの空に反して、マサオの心は土砂降りであった。
今朝までは晴れ――ではないが、少なくとも曇天程度にとどまっていたのだ。
いつも通り重たい体を引きずりながら向かった職場で、席に着いた直後に上司に呼び出され、解雇通告を受けるまでは。
突然のクビ宣告に呆然とするマサオをよそに、上司は用意してあった書類にサインするよう促した。
驚きのあまり何も考えられないマサオは、理由を尋ねることもできず上司に促されるまま解雇の手続きを進めていった。
職場のデスクにはほとんど私物を置いていなかったので、通勤用のリュックにすべて収まった。
備品の変換と古い書類をシュレッダーにかけて処分すると、追い出されるようにして職場を後にした。
そのまま家に帰る気にはなれず、ふらりと立ち寄った公園のベンチに腰を下ろした。
途中で購入した缶コーヒーを飲みながら、しばらくは無心で空を眺めていた。
(――いや、なんで俺がクビになんなきゃならないんだ!)
缶コーヒーを飲み終えた頃、会社での出来事が思い出され、徐々に怒りがわいてきた。
解雇されるのは百歩譲って仕方が無いとしよう。
仕事できる優秀な社員じゃなかったことは、マサオ自身が良く理解している。
だが当日の朝に突然辞めさせられるなんておかしい。
法律上問題のある行いだったが、知識の無いマサオでは対処できなかった。
(課長のヤロウ、散々残業と休日出勤させやがって!)
上司への怒りをぶつけるように空き缶を潰そうとしたが、スチール缶は硬かった。
心の中で暴言を吐きながら、なかなか潰れない空き缶に力を込めている内に、段々と冷静になってきた。
(――まあ、あの会社で働き続けるのは無理だっただろうしな。辞めたかったけど、辞表出したり手続きとか面倒で自分からは出来なかったから、かえって良かったのかもな…)
ひとしきり腹を立てた後、マサオの頭をよぎるのは今後の生活のことだ。
貯金は多少あるが、2、3年もしたら無くなる程度しかない。
次の仕事を探さなければならないだろう。
今度は、出来ればあまり人と関わることのない仕事に就きたい。
給料は安くても良いから、自分のペースでゆっくり出来る仕事がいい。
深いため息をつく。
(うん…。しばらく休んだ後で、職案にでも行こう…)
マサオはゆっくりと立ち上がるとゴミ箱に空き缶を放り込み、公園から出た。
空き缶を潰すのは諦めた。
一週間後、職業案内所を訪れたマサオは、秘境駅の臨時職員募集の張り紙を目にする。
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