秘境駅の臨時職員

しがついつか

文字の大きさ
1 / 6

はじまり

しおりを挟む
マサオは絶望していた。
平日の昼にもかかわらず、公園のベンチでぼんやりと空を眺めることしか出来ない。
秋晴れの空に反して、マサオの心は土砂降りであった。

今朝までは晴れ――ではないが、少なくとも曇天程度にとどまっていたのだ。
いつも通り重たい体を引きずりながら向かった職場で、席に着いた直後に上司に呼び出され、解雇通告を受けるまでは。
突然のクビ宣告に呆然とするマサオをよそに、上司は用意してあった書類にサインするよう促した。
驚きのあまり何も考えられないマサオは、理由を尋ねることもできず上司に促されるまま解雇の手続きを進めていった。
職場のデスクにはほとんど私物を置いていなかったので、通勤用のリュックにすべて収まった。
備品の変換と古い書類をシュレッダーにかけて処分すると、追い出されるようにして職場を後にした。

そのまま家に帰る気にはなれず、ふらりと立ち寄った公園のベンチに腰を下ろした。
途中で購入した缶コーヒーを飲みながら、しばらくは無心で空を眺めていた。



(――いや、なんで俺がクビになんなきゃならないんだ!)


缶コーヒーを飲み終えた頃、会社での出来事が思い出され、徐々に怒りがわいてきた。



解雇されるのは百歩譲って仕方が無いとしよう。
仕事できる優秀な社員じゃなかったことは、マサオ自身が良く理解している。
だが当日の朝に突然辞めさせられるなんておかしい。
法律上問題のある行いだったが、知識の無いマサオでは対処できなかった。


(課長のヤロウ、散々残業と休日出勤させやがって!)


上司への怒りをぶつけるように空き缶を潰そうとしたが、スチール缶は硬かった。
心の中で暴言を吐きながら、なかなか潰れない空き缶に力を込めている内に、段々と冷静になってきた。


(――まあ、あの会社で働き続けるのは無理だっただろうしな。辞めたかったけど、辞表出したり手続きとか面倒で自分からは出来なかったから、かえって良かったのかもな…)


ひとしきり腹を立てた後、マサオの頭をよぎるのは今後の生活のことだ。
貯金は多少あるが、2、3年もしたら無くなる程度しかない。
次の仕事を探さなければならないだろう。

今度は、出来ればあまり人と関わることのない仕事に就きたい。
給料は安くても良いから、自分のペースでゆっくり出来る仕事がいい。


深いため息をつく。


(うん…。しばらく休んだ後で、職案にでも行こう…)


マサオはゆっくりと立ち上がるとゴミ箱に空き缶を放り込み、公園から出た。
空き缶を潰すのは諦めた。





一週間後、職業案内所を訪れたマサオは、秘境駅の臨時職員募集の張り紙を目にする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...