秘境駅の臨時職員

しがついつか

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秘境駅の一日

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朝。
山間にある秘境駅――枯れ葉かれは駅。

首都である光都こうとから農業中心の領土――土都どと――を繋ぐ鉄道を土都線どとせんと呼ぶ。
この土都線の終着駅である土端どばた駅の2つ手前が、枯れ葉駅である。



山間の澄んだ空気
気温は低く、吐く息が白い。


「クッソ寒ぃ…」


駅舎に併設されている駅員用の宿舎――という名の掘っ立て小屋から出ると、マサオは身震いした。
今日は一段と冷え込んでいる。

防寒具を着込み着ぶくれした彼は、スコップを手に駅のホームの除雪作業を始めた。



電車は上り下り併せて一日6本。
朝昼晩に上下線が1本ずつ停車する。

電車は単線のため、駅のホームは1つだ。
車両も3車両のため、そう長くない。

線路は直接加熱式の融雪設備が整っているため、よほどのことが無い限りマサオが自ら除雪するようなことはない。




職業案内所で見つけた仕事――秘境駅の臨時職員としてマサオは採用された。

期間は11月~3月までの5か月。
雪深くなる冬期の間、駅に泊まり込んで雑用を片付ける仕事だ。

主な仕事はホームに積もった雪の除雪作業だ。
他には線路上の障害物の撤去や、豪雪のため列車が運休となり行き場のない利用客を駅舎の2階にある仮眠室に泊めるといった対応などがある。

光都から土都の中心都市である土都駅までは、利用客が多い。
しかし土都駅から終点の土端駅までは9つの駅があるが利用客が少なく、また半数以上が無人駅である。

枯れ葉駅の利用客は、一週間に一人程度でしかない。
駅の利用客は少ないので無人駅としても良いはずなのだが、マサオがいる枯れ葉駅の前後の駅も無人駅となっており人の目が届かない区間が長くなってしまうため、何かあったときに対応出来る人を置いておく必要があるらしい。

本来は土都線の鉄道職員が当番制で対応することになっているのだが、今年は人手が足りないらしく臨時職員を雇用することを決めたらしい。
家族がある者は泊まり込みでの仕事は嫌がるし、独身者にとっても何もない山奥に一人で住み込むのは勘弁して欲しい。
特に冬場は絶対嫌だと、誰が貧乏くじを引くか揉めていた。
そのためマサオが応募したところ大歓迎され、即採用された。



(今日も寒いなー…。でもまあ、暖房効いてる部屋でもクソ上司と顔つきあわせなきゃならないのと比べたら今の方がマシだよな)


貧乏くじを引いたはずのマサオだが、すがすがしい気持ちで日々を過ごしていた。

昨夜は雪が降ったものの積雪量は少ない。駅のホームから手早く雪を取り除いていった。


始発列車が来るのはあと1時間後だ。





スコップを持ったまま、駅舎の引き戸を開けた。
風雪が酷いときや夜間は閉めているのだ。
ホーム側と駅前の山道に通じる側の両側の戸を開け放つ。

戸に鍵はかかってないので、利用客がいれば勝手に戸を開けて駅舎内に入ることが可能だ。
入ったところでここにはベンチしかない。

マサオは鍵を開けて駅の窓口――駅員専用のスペースに入ると、壁際に設置されてる薪ストーブに火を入れた。
水を入れたヤカンをその上に置く。

手袋を外した手をストーブにかざし、しばし暖を取る。



ごそり。

資料が積まれたテーブルの上。
その中央に置かれた毛布の塊が動き出した。



やがてその塊から丸々と太った三毛猫が這い出してきた。




「おはようございます、
「ぬぁーん」


三毛猫はゆったりとストーブの前まで移動し、マサオと並んで暖を取った。



彼女の名は『たらこ』。
枯れ葉駅のである。





マサオが前任者から引き継ぐ際、『彼女はこの駅の駅長。名前はたらこだ』と紹介された。
どういうことかと聞くマサオに、前任者は詳しい説明をしなかった。

『難しいことは考えなくて良い』
『駅長である彼女は君の直属の上司だ』
『彼女の仕事のサポートをするのが、部下となった我々の役目だ』

などと言われた。

急に言われて戸惑うマサオだったが、どこかで犬猫が名誉駅長の任に就いたという話を聞いたことがあったので、そういうことだろうと納得した。

また、この駅を無人駅に出来ないのは、たらこのお世話があるからなのではないかと思った。
たらこの一日のスケジュール表が壁に貼ってあるのだが、食事とおやつはともかく『ブラッシング』『ストーブで暖を取る』『天気の良い日は日中干した毛布で眠る』などがあり、これは明らかに人間側が準備しないとできないことだ。



マサオは棚からキャットフードを取り出し、タラコ専用の可愛らしいピンクの器に盛った。
水も新しいものに取り替える。



「たらこさん、ご飯の用意できましたよ」
「ぬぁーん」



ご苦労、とでも言うように鳴いた。



秘境駅の臨時職員の一日はこうして始まる。
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