勇者への褒美は王女以外でよろしく

しがついつか

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国王からの褒美

「勇者リチャードよ。よくやった。褒美として、我が娘レイチェルとの婚姻を許す」

その言葉に大臣達がざわめく。
爵位を持たない者が、王家の一因である姫君を娶るのだ。
レイチェルは第二王女であり、王位を継ぐ予定はない。だが、王女に釣り合う年齢の息子をもち、王族との縁続きになることを望む者にとっては面白くない話である。


国王の言葉に、勇者の顔が曇った。

それに気づいたのは、国王の傍らに控えていた王女だ。
国王陛下の決定に意見することができるのは、この場では王族のみ。静かに、しかしはっきりとした口調で王女は異を唱えた。

「陛下。それは褒美とは言いませんわ。勇者殿が私との婚姻を心から望むのならば、それは褒美となるでしょう。
 ――ですが、他に想う相手がいるのに私との婚姻を勧めるのは、命を賭して国を守った勇者殿を蔑ろにすることになります。
 私と勇者殿が顔を合わせたのはこれで三度目ですが、直接言葉を交わしたことはまだありません。
 よほど私の容姿が好ましいものであるか、もしくは王族との縁を望むのでなければ、この時点で私との婚姻を望むことは無いかと思います。
 王命であり、国を救った勇者殿との婚姻とならば私に否やはありませんが…」
「――ふむ…。それもそうだな」

国王は娘の言葉に納得すると、あごひげを撫でながら思案する。


「それならば勇者よ。そなた、何か望むものはないか?」

すべてが叶えられるわけではないが、国王とて国を守った英雄のために、できる限りのことはしてやりたい。
報奨金や領地を与えることはもちろん出来るが、その金額や領地の場所によっては望みを叶えてやることは難しい。

一同は勇者の返答を待った。

「もし…いえ、その…」

勇者は望みを言葉にするのをためらっているようだった。
望みはあるが、口にするのが憚られるものなのか。

5年もの間、すべてを犠牲にして国を救ってくれたのだ。
彼が我が儘を言っても、この場にいる者達に彼を非難する資格はない。
王女は助け船を出すことにした。

「勇者殿。どうぞ、遠慮せずにおっしゃってください。『王位を譲れ』というような、すんなりと叶えられないものもありますが、あなたには欲しいものを欲しいと口にする権利があります。
 もしもあなたを批判する者がいれば、それは国を救った英雄を侮辱する恥知らずな者です。
 自分では決して出来ないことを他人にやらせて、安全なところで過ごしてきた者に、あなたを批判する資格などありません。
 あなたは十代からの5年間を国のために戦うという偉業を成し遂げたのです。
 この場にいる誰にも、そのようなことは出来ないでしょう。私はもちろんのこと、この場にいる誰1人もです」
「王女殿下…」

勇者は迷っている。
己の望みを口にしても良いのだろうか。

「レイチェルの言うとおりだ。――勇者リチャード、そなたが何を望んでも、罰することは無いと誓おう」

腹黒い大臣や護衛の騎士達はともかく、最高権力者の国王とその娘が勇者を守ると言っている。
勇者は国王と王女の目を見るが、どちらも嘘をついているようには見えない。
人を陥れようとしているものは、もっと濁った目をしている。
この場において、少なくともこの2人は彼の味方であった。


やがて勇者は、ゆっくりと口を開いた。


「俺…いえ、私は――もう戦いたくないのです…」

その言葉に、大臣たちがどよめいたが、国王が一睨みして黙らせる。
勇者はぽつりぽつりと語った。


「この5年間、俺は常に戦いの中にいました。血の臭いと悲鳴…剣から伝わる肉を切る感触…。戦わなければ、殺される。そんな毎日でした。
 味方だと思っていた人にも騙され、酷い裏切りにあったこともあります…。
 何度もやめたいと思った…。勇者なんてなりたくなかったのにって…。
 それでも、殺そうとして立ち向かってくる敵から逃げることなんて出来なかった…。戦いたくなんてないのに、戦わなくちゃ生きられなかったんだ。
 途中で、ずっと一緒にいた仲間も失いました。…大切な、仲間でした…。
 道中で救えた村では人々に感謝をされましたが、間に合わなかった村では生き残った人に言われたんです…何でもっと早く来てくれなかったのか…勇者のくせにって…。
 勇者だからって、最初から強い力を持ってるわけじゃないんだ…今まで戦ったことなんてなかったんだ、勝てない相手だっているさ!
 それなのに…勝ったら勇者だから勝てて当然で、負けたら無能扱い…。
 戦えもしない、作戦があるわけじゃないのに見栄のために無理矢理敵に突っ込んでいった貴族の尻拭いをさせられたこともある…。それなのに、被害が出ればその貴族じゃなくて俺たちが責められたんだ!
 出来もしないくせに手を出して、民も俺の仲間も危険にさらしておいて!あいつは今もヘラヘラ笑ってるんだ!
 俺は、あんな貴族を守るためになんか戦いたくない!
 勝手に期待して失望する国民の命を守ることもしたくない!
 ――俺はもう、誰かを失うことも、命を奪うこともしたくないんだっ!」


最後は悲鳴のようだった。

感情が高ぶった勇者の目には涙が浮かんでいた。


次に国が危険にさらされたときは勇者がまた活躍してくれるのだろうと、この場にいる者に限らず国民の多くが期待していたことだろう。
しかし、その認識は改めなければならない。

生まれながらの戦闘狂ならいざ知らず、勇者は穏やかな村で生まれ育った素直な青年だった。
そんな彼は勇者と啓示を受けてから初めて剣を手にしたのだ。
戦いを厭うのも、理解できる。


王女は、ふと気づく。
今までに勇者を支援してくれた者はいたのだろうか。
それと同時に、王城からは勇者への支援金などが出ていないことに思い至る。
支出の資料には王女も目を通しているので、間違いない。
王女は何も知らずにいた己を恥じた。
国の一大事を、十代の若者にすべて託したのだ。

王女と同じ事に、国王も気づいたのだろう。
国王はそっと目を伏せた。


しばらくして、落ち着きを取り戻した勇者が口を開いた。

「――国王陛下、お願いがあります…」

皆が勇者に注目した。




「勇者を――殺してください…」

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