先読みの巫女を妄信した王子の末路

しがついつか

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王子の末路(最終話)

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秋の収穫祭から一月ほど経った頃、第一王子リュウの王位継承権が剥奪された旨が公表された。
巫女の予知を騙り無実の婚約者を糾弾するという王族としてあるまじき振る舞いにより、生涯離宮に幽閉されることが決まった。

それに伴いアイシャ・イーグルとの婚約は白紙撤回されることとなった。

白紙撤回となったため、慰謝料は発生しない。
その代わりとして、アイシャは想う相手との婚姻が許可された。
堅物で融通が利かず女性から敬遠される男――ルーイ・スワンと新たに婚約を結ぶこととなった。
ルーイには婚約者はおらず、お互い憎からず思っていたため婚約の手続きは滞りなく進んだ。


またバルト・フォックスが第一王子に暗示をかけた件については秘匿されることとなった。
彼はフォックス家から除籍され、平民となり隣国へ渡った――ということになっている。
リュウの処分が正式に決定される前に、彼は土に還っていった。









事情聴取以降、自室にておとなしく謹慎していた王子は、離宮に移る前に巫女と面会することを希望した。
巫女が承諾したため、国王は許可を出した。
ただし、面会の場には宰相補佐と騎士団長が同席する事が条件である。





「やあ…」
「…お久しぶりでございます、リュウ王子」


面会室に現れたミミーを、リュウはまぶしそうな顔で見つめた。


「来てくれてありがとう」
「いえ…」


礼を言う王子に、ミミーはなんと返答したものか困ってしまう。

あの時、録音機を渡すように言ったのは王子自身だが、ミミーが管理人に報告さえしていれば、目の前の王子が暴走することは防げたかもしれないのだ。
それを思うと、罪悪感がぬぐえない。

ミミーは、バルト・フォックスの犯行を知らない。

彼女にとって今回の騒動は、第一王子1人の愚行によるものという認識だった。
ミミーの予知を国王に提出すると言ったのに隠したこと。予知を使って婚約者を人前で断罪したこと。
それだけだ。


面会時間は短い。
リュウは本題に入る。




「ミミー…私は、図書室で言葉を交わす内にいつしか君のことを想うようになっていた。
 君のことを考えぬ日はなかった。ずっと…君が私の隣にいてくれることを願っていたよ…。
 私は…君と結ばれたかったんだ。
 君と共にいられるのなら、私は王子の立場を捨てたっていい。そう思っていた。
 ――アイシャとの婚約がなくなれば、君と結ばれるんじゃないかって本気で思っていたんだ…。
 他に何もいらない。私はただ君だけが欲しかったんだ…」


リュウは最後に、秘めた想いを告げることにした。
もちろん告げてどうにかなるものではない。
ただ、伝えたかったのだ。


王子の言葉に、ミミーの顔が曇る。
リュウの目には偽りの色がない。心の底から、ミミーを求めていたのだろう。

一つ深呼吸すると、彼女は口を開いた。


「リュウ王子…。私は、密かにあなた様に憧れを抱いておりました…」
「!」
「ですが…」

ミミーはそっと目を伏せる。


「リュウ王子の想いを受け止めることは、私には出来ません。
 このようなことになる前であっても、あなた様の想いに応えることは出来なかったでしょう。
 私は巫女で、あなた様は第一王子殿下――次期国王となるお立場…。
 国王陛下の隣に並び立つ未来は、私には想像できませんでした」
「…そう、か」


振られてしまった。
リュウは苦笑するも、どこか満足そうな顔をしていた。

だがリュウの自己満足だけで終わらすことは出来ない。
彼の告白を受けて、ミミーには言いたいことがあった。


「王子…。私は、巫女となったことを…巫女であることを誇りを持っています。
 巫女として視た未来が良いものであれ悪いものであれ、この国のために役立てることを、私は誇らしく思います。
 私が視たことで被害を最小限にできたことを称賛していただけるのは嬉しいですが、感謝されたくてやっているわけではありません。
 視たものを記録し提出することは、巫女の義務です。
 ――義務なのです…。
 今の私は、平民であった頃よりもはるかに豊かな生活をしております。
 この生活は、巫女としての義務を果たすことで得られたもの…。対価なのです。
 もし巫女としての義務を放棄するのであれば、私はすぐにでも今の仕事も住居も何もかもすべて捨てなければなりません」


ミミーはリュウの目を見て言う。


「――リュウ王子…。王子の義務とはどのようなものなのですか?」
「…え?」
「私は、尊い身分の方の職務や義務を詳しく知りません。
 ですが巫女の予知をあのような形で…婚約者を断罪するために利用するなんて、本当に王子のやることなのですか?」
「――っ」
「今回の事は、決められた報告方法をとらなかった私の責任でもあります。
 ですが…自分のことを棚に上げて言うのもなんですが、私はガッカリしました。――とても、残念に思います…」




王族は、国を想って行動せねばならない。
国のために役立てるはずの巫女の予知を、己の欲のために利用するなどもってのほかだ。


敬うべき相手の愚行に、ミミーは失望していた。



リュウには返す言葉がない。

義務。責任。判断力。
それらは、彼が今まで逃げ続けてきた事だ。
楽な方へ、楽な方へと流されるがままだった彼は、何も成し遂げたこともなく、また何をするべきだったのかもわかっていなかった。



「――失礼します。面会終了のお時間となりました」
「はい」


壁際に控えていた宰相補佐が声をかけると、ミミーは静かに立ち上がった。
リュウは俯いたまま、彼女の顔を見ることが出来なかった。


「――」


ミミーは何か声をかけようとして口を開いたが、結局何も言わずに口を閉じた。
宰相補佐に促されて、面会室を後にした。



ドアが閉まると同時に、リュウの瞳から涙がこぼれた。


彼は悪い人間ではなかった。
ただ、成長しきっていなかったのだ。

王族として必要なことを身につけられなかった彼は、このまま王族として生きることが許されなかった。





巫女との面会を終えてすぐ、リュウは離宮に入った。
離宮には食事と掃除のために出入りする使用人の他は、誰も近づくことがない。
手紙のやりとりも禁じられているため、第一王子がどうなったのか知ることは出来ない。


――数ヶ月もすると、離宮を出入りする使用人の姿もなくなった。









初代先読みの巫女が残した予知――『愚かなる竜王』は、王族と教会の最高責任者のみが閲覧可能となっている。
王族としての義務を怠った第一王子リュウの愚行も併せて、戒めとして後世に受け継がれていった。


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