あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか

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魅了解除 2

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「結局、魅了ってなんなわけ?」


あらかた食事を終えたところで、エリーがレオナルドに尋ねた。

食事をしながらだと話に夢中になって食べられないだろうから、先に食事を済ませようとレオナルドが言ったため、大人しく待っていたのだ。

席取りをしてくれたアンネとビビ、クラスメイト達も話を聞くために同じテーブルに座っている。
周囲の席に座っている生徒も、レオナルドの話を聞こうと、食事を終えた後もその場に座っていた。
皆がレオナルドに注目している。


ナンシーがかぼちゃサラダの最後の一口を頬張るのを見届けると、レオナルドはエリーの問いに答える。



「『自分を強制的に好きにさせる洗脳』かな。ああ、それから『防衛本能』という見方もされてるらしい」
「洗脳…」
「防衛本能ってどういうことなの?」


ナンシーが疑問を口にすると、レオナルドはにこりと微笑んで答える。


「うん、どうやら『生物として弱い個体が生き残るための手段』として、魅了という能力を発現させたんじゃないかと考えられているんだ。相手が自分に好意を持っていれば、決して自分を攻撃してくることはないだろうっていう。――まあもちろん、どうしてそういう能力が存在するのかっていう点については解明はされていないから、詳しいことはわからないけどね」
「あー…。敵に会ったら毒を吐いたり、針をとがらせたりっていう野生動物みたいなもんか」
「まあ、そういう感じだね」


エリーなりに考えて出した例えに、レオナルドは適当に返事をした。
次いでキャロルが尋ねる。


「魅了を使える人っていうのは、何か共通点があるの? 見た目に特徴があったり、性別は女性だけとか」
「いいや、特に無いらしい。記録されているのは女性が多いらしいけれど、男性もゼロではないらしいよ」
「ふぅん。――そういえば、さっきナンシーに会ってレオナルドの魅了が解けたじゃない? その後、ミクシーに名前を呼ばれて目が合ったと思うんだけど、その時、彼女の目が光ったように見えたのよ。目を合わせることが魅了の合図なの?」


目が光ったことにエリーやアンネ達は気づいていなかったため、キャロルの話を聞いて少し驚いた。


「ミクシー・ラヴィに関しては、そうなのかもね。けど、魅了する方法は人によって違うらしい。相手に触れたり、言葉を交わしたり、中には作った料理を食べた人が魅了にかかるっていうパターンもあったらしいから」
「料理って…。なかなかハードル高いわね…」


『私じゃ無理だわ』とエリーは遠い目をする。


「『防衛本能』だったとしても、ミクシーさんはなぜ男の子ばかり魅了したのかしら?」


味方にするなら同性の方が何かと都合がいいはずなのにと、ナンシーは思う。


「あー…」
「そりゃぁ…」


ナンシーの疑問に、キャロルたちは何となく答えがわかる気がした。
傍で聞いていたアンネが、思わず口を挟んだ。


「味方っていうか、単純にいい男にちやほやされたかっただけじゃないの?」
「でしょうね」
「だろうね」


アンネの言葉にエリーとレオナルドが同意する。
キャロルやビビ達も頷く。



「ちやほや…」
「まあ、あれよ。いい男を侍らせてお姫様扱いされたかったんじゃない? んでもって、女子は味方に取り込むより敵に回ってくれるほうが都合がよかったんでしょ。やっかまれて、『あんた何様のつもり?』『いい気になってんじゃないわよ』って絡まれたところを、『やめろ!』っていい男たちが守ってくれるっていう。そういうシチュエーションがお好みだったんじゃない?」
「恐らくそうだと思う。まあ動機とかその辺りのことは今、学園長たちが聞き取りしてるだろうからね。詳しいことは後で先生たちから聞けばいいよ」
「そうよね、なぜ魅了したのかはミクシーさんにしかわからないものね。でもこれで、この3か月間の変な空気がなくなると思うとホッとしたわ」


今ここで話しても、憶測の域を出ない。
ナンシーは学園全体を巻き込んだ問題がこれで終息することを祈った。



「――あ…。でも別の問題がしばらく続きそう」
「え?」


何気なく食堂を見渡したキャロルが何かに気付いた。
彼女の視線の先を追うと、謝罪しているのか女子生徒の前で深く腰を折っている男子生徒の姿があった。


何をしているんだ、と思っている間に、ナンシー達の近くでも男女の言い争う声が聞こえた。



「本当にごめん! 許してくれ!」
「無理、無理、無理!」
「何でだよ! 俺は魅了ってのにかかってたんだから、自分の意志で浮気したわけじゃないんだぞ!」
「あー、無理。謝ってるくせにそういうこと言っちゃう時点でもう無理! 自分は決して悪くないっていう態度が無理!」
「だから何で!」
「私が無理って言ってるのがわからないところが無理なのよ!」


男子生徒は本日の『お昼担当』だった一人だ。
話の内容から察するに、女子生徒は彼の恋人のようである。


食堂内を見渡してみると、他にも頭を下げる男子生徒や、言い争う男女の姿がちらほら見える。



「あー、なるほど。ミクシー関係で破局したカップルか。しばらくは男からの復縁要請で騒がしくなりそうね」
「そうね。――それにしても…」


エリーに同意すると、キャロルは目の前に座るカップルに目をやった。



「あなた達が破局しなくて良かったわ。もしナンシーを泣かせるようなことがあれば、例えナンシーが許していたとしても、私とエリーは許さなかったでしょうね」
「うん。キャロルがビンタして、私が腹にグーパン入れてたと思う」
「ははっ、それは怖いな。だけどナンシーに君たちみたいな友人がいるのは、とても頼もしいね」
「もう…二人とも…」


友人たちの言葉を聞き、ナンシーは困ったように笑う。
エリーは気になっていたことを尋ねた。


「レオナルドがミクシーと一緒にいたのって、魅了にかかってたからだよね? 無表情で目が虚ろだったから、どう見ても異常だなってわかったけど。本人的にはあれってどういう状態だったの?」
「正気を取り戻したときに、食堂にいることに驚いてたみたいだけど、意識はあったの?」
「そうだな…意識はないかな。今日の場合は昼休みになって、講堂を出てからナンシーの教室に向かう途中から記憶はないね。それで気づくと目の前にナンシーがいて、いつの間にか食堂にいた。ミクシーに接触されている間は、こう…頭に靄がかかったような感じでぼんやりするんだ。でも、しばらくすると意識が戻って――ああ、最近はそれで『あれ、いつの間にこんなところに来たんだ?』って思うことが増えたな」

「よくパニックにならなかったわね」
「うん、まあ記憶があいまいなのはミクシーと会った後だけだったし、魅了を疑っていたからそのせいかなって思えたからね」

「それにしても、魅了をかけられた男子がみんな下僕化してる中、よく正気に戻れたわね」
「ははっ。それは愛の力だよ」


たいしたもんだと言うエリーに、レオナルドは笑って言った。


「他の男子には魅了を跳ね除けるほどの愛がなかったってことかしらね…」
「いや、レオナルドが特別すごいだけなんじゃない?」



食堂内のいたるところで頭を下げる男子生徒達を見ながらキャロルが言うと、エリーが突っ込んだ。
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