彼女の選んだ未来

椿森

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中編-2

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「本当に良いのか」

 威圧するような威厳ある声に怯みそうになるが、最期であるなら、これも恩恵と思えよう。

「後悔など、ございません」
「······そうか」

 そのまま、彼の方は部屋から出ていかれた。
 入れ違いに入ってきたのは、見届け人と執行人。彼らの顔色が変わることはない。

「こちらです」
「ありがとう、存じます」

 差し出された杯を恭しく受け取る。
 これで、すべてが終わる。

 彼の方にはああ言ったが、後悔がないなんてあるわけもない。
 でも、わたくしは、これ以外の方法は知らない。

 揺れる水面に映る自身の顔を見て、微笑まなければと顔を作った。
 こんな時まで、叩き込まれた教育は気を許す姿を晒すことを良しとしなかった。



 意見はしても、会議に参加することは許されない。賢しい女は疎ましいと倦厭され。

 何をしようにも、所詮はパフォーマンスと罵られ。実情を知ろうともしない腰掛貴族に馬鹿にされ。

 淑女たれ、と教育され、泣き言を漏らせば貴族子女ならば当たり前の事だと怒られた。そういうものだと思ったから、同じように苦言を呈すれば嫌味だ虐めだと遠巻きにされ。

 良き発言、行動は誰かの成果に。
 僅かな隙も揚げ足取りをされ、悪し様に喧伝された。

 きっとあの方はお喜びだろう。
 幼い頃に定められた、面白みもない政略の相手がいなくなるのだ。
 わたくし一人が居なくなれば、あるべき姿に全てが収まるのだ。
 嫉妬など、するべきではない。

 これ以上、彼らを煩わせるものではない。
 ただでさえ、我儘を、無理を通した。

 そう、この国の未来のために。


 わたくしは、一思いに杯を煽った。










 誰かに覚えて欲しいなんて、醜い心を持ったのがいけなかったのだろうか


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