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テアニアがエルフの郷サンヨルフに来てから、もうすぐ2年になろうとしていた。
たまに訪れる父や学園を卒業した姉兄、数回ではあるが社交に出た母から、誘拐事件のその後を聞くことがあった。
事件の黒幕はまだ捕まえられていない。明確な証言や証拠がないからだ。迂闊に手出し出来ない立場であることも、その一因となっている。
テアニア誘拐の噂はかなりなりを潜めて、今ではほとんど語られることもないらしい。ただ、バーゲン侯爵家をよく思わない貴族やテアニアが傷物になったのをいいことに縁談を申し込んでくる者、エルフの郷との繋がりを持ちたい者などがまだちょっかいをかけて来るらしいが。
テアニアの生家であるハーゲン侯爵家は、古くからエルフの郷サンヨルフとの交流が盛んな唯一の貴族だった。
ハーゲン侯爵領と迷い森は海を挟んで森を囲うように隣接している。
サンヨルフの土壌でしか育たない貴重な果実や薬草、エルフが加工した魔力を帯びた宝飾品はハーゲン侯爵家を通して、細々と流通している。
大量に出回っている訳ではない上に、特殊で貴重な品々を貴族達はこぞって求め、高額で取引される。
その流通拠点として侯爵領にはエルフ達が点在しており、彼らの信用を得られた者のみが交流をゆるされていた。
しかし、エルフ特有の美しい容姿や魔法を欲し、特産物を独占しようと目論んだ人間、特に貴族がエルフの子供を攫うようになった。
1人、2人と減っていき、ただでさえ出生数の少ない子供が減ったことでエルフ達は嘆き、怒りを顕にした。
当時のハーゲン侯爵もエルフとは懇意にしていた為、子供の捜索にあたった。
そこで、当時は国で禁止されたばかりだった奴隷の闇商人がエルフの子供を売り捌いていたことを突き止めた。
既に売られた子供も含めて保護していったが、奴隷の売買による違法行為を突きつけて返還を求めても、渋る者は多くいた。返還されても既に心を壊した子供や死んでしまっていた子供も少なからずいた事は、エルフの永きに渡る怒りと怨みとして郷に根付いてしまった。
誘拐だけでなく奴隷の売買に関わった者は例外なく罰せられ、その中には臣下にくだった王族もいたことで問題は大きくなっていく。
あまりの心無い行いに、エルフはかねてより交流のあったハーゲン侯爵領の一部に留めて流通量を極限まで減らし、迷いの森を拡大させてサンヨルフに籠ったという。
エルフの特産物の流通が減ってから国内の貴族はおろか、国外からも苦情が殺到した。国外には僅かな量しか卸してなかったが、希少価値のあるものを好む裕福層はいるものであわや国際問題にまで発展した。
流通が減ったことでハーゲン侯爵家を詰る声も上がったが、エルフを保護する側として危険に晒すようなことをするはずもなく自業自得だと一蹴したらしい。
これを機に、当時のハーゲン侯爵はとある大国に働きかけて、国際的にも人間だけでなくエルフを含む亜人族と呼ばれるドワーフなどの種族の奴隷的取引を禁止する条約を取り付けることに成功した。
「···この国だけでなく、国際的にも大きな問題として取り上げられましたのね」
母からの国での様子を聞いていたはずが、いつの間にか祖父によって歴史的な背景まで図らずして聞かされることになった。
「子供たちには人の里へ行ってはいけないと諭すけど、過去の忌々しい記憶を話したがる年寄りは少ないからね」
「私が旦那様と結婚すると行った時もだいぶ揉めたわ。騙されているのではないかって」
「まあ、 はハーゲンの小倅だったし、森まで毎日のように来てなあ」
どうやら父は母と結婚するために毎日のように迷いの森に通いつめていたらしい。
祖父は当時を思い出したのか苦笑した。
「三男だったし、こちらに住むとの話だったから許したんだよ」
しかし、世の中はなかなか上手く回るように出来ているようだ。
結局は父の兄達は亡くなり、父が爵位を継ぐことになってしまった。
一度許してしまったことを撤回するのも気が引けて、条件をつけることにした。
「大事な娘や産まれてくる孫を大事にしてくれるならそれでも良かったが···。やはり、人間とは愚かよな」
どこか遠くを見る祖父にテアニアは聞けなかった。
お爺様も、誰かを亡くしたことがあるのか。と。
たまに訪れる父や学園を卒業した姉兄、数回ではあるが社交に出た母から、誘拐事件のその後を聞くことがあった。
事件の黒幕はまだ捕まえられていない。明確な証言や証拠がないからだ。迂闊に手出し出来ない立場であることも、その一因となっている。
テアニア誘拐の噂はかなりなりを潜めて、今ではほとんど語られることもないらしい。ただ、バーゲン侯爵家をよく思わない貴族やテアニアが傷物になったのをいいことに縁談を申し込んでくる者、エルフの郷との繋がりを持ちたい者などがまだちょっかいをかけて来るらしいが。
テアニアの生家であるハーゲン侯爵家は、古くからエルフの郷サンヨルフとの交流が盛んな唯一の貴族だった。
ハーゲン侯爵領と迷い森は海を挟んで森を囲うように隣接している。
サンヨルフの土壌でしか育たない貴重な果実や薬草、エルフが加工した魔力を帯びた宝飾品はハーゲン侯爵家を通して、細々と流通している。
大量に出回っている訳ではない上に、特殊で貴重な品々を貴族達はこぞって求め、高額で取引される。
その流通拠点として侯爵領にはエルフ達が点在しており、彼らの信用を得られた者のみが交流をゆるされていた。
しかし、エルフ特有の美しい容姿や魔法を欲し、特産物を独占しようと目論んだ人間、特に貴族がエルフの子供を攫うようになった。
1人、2人と減っていき、ただでさえ出生数の少ない子供が減ったことでエルフ達は嘆き、怒りを顕にした。
当時のハーゲン侯爵もエルフとは懇意にしていた為、子供の捜索にあたった。
そこで、当時は国で禁止されたばかりだった奴隷の闇商人がエルフの子供を売り捌いていたことを突き止めた。
既に売られた子供も含めて保護していったが、奴隷の売買による違法行為を突きつけて返還を求めても、渋る者は多くいた。返還されても既に心を壊した子供や死んでしまっていた子供も少なからずいた事は、エルフの永きに渡る怒りと怨みとして郷に根付いてしまった。
誘拐だけでなく奴隷の売買に関わった者は例外なく罰せられ、その中には臣下にくだった王族もいたことで問題は大きくなっていく。
あまりの心無い行いに、エルフはかねてより交流のあったハーゲン侯爵領の一部に留めて流通量を極限まで減らし、迷いの森を拡大させてサンヨルフに籠ったという。
エルフの特産物の流通が減ってから国内の貴族はおろか、国外からも苦情が殺到した。国外には僅かな量しか卸してなかったが、希少価値のあるものを好む裕福層はいるものであわや国際問題にまで発展した。
流通が減ったことでハーゲン侯爵家を詰る声も上がったが、エルフを保護する側として危険に晒すようなことをするはずもなく自業自得だと一蹴したらしい。
これを機に、当時のハーゲン侯爵はとある大国に働きかけて、国際的にも人間だけでなくエルフを含む亜人族と呼ばれるドワーフなどの種族の奴隷的取引を禁止する条約を取り付けることに成功した。
「···この国だけでなく、国際的にも大きな問題として取り上げられましたのね」
母からの国での様子を聞いていたはずが、いつの間にか祖父によって歴史的な背景まで図らずして聞かされることになった。
「子供たちには人の里へ行ってはいけないと諭すけど、過去の忌々しい記憶を話したがる年寄りは少ないからね」
「私が旦那様と結婚すると行った時もだいぶ揉めたわ。騙されているのではないかって」
「まあ、 はハーゲンの小倅だったし、森まで毎日のように来てなあ」
どうやら父は母と結婚するために毎日のように迷いの森に通いつめていたらしい。
祖父は当時を思い出したのか苦笑した。
「三男だったし、こちらに住むとの話だったから許したんだよ」
しかし、世の中はなかなか上手く回るように出来ているようだ。
結局は父の兄達は亡くなり、父が爵位を継ぐことになってしまった。
一度許してしまったことを撤回するのも気が引けて、条件をつけることにした。
「大事な娘や産まれてくる孫を大事にしてくれるならそれでも良かったが···。やはり、人間とは愚かよな」
どこか遠くを見る祖父にテアニアは聞けなかった。
お爺様も、誰かを亡くしたことがあるのか。と。
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