悪役令嬢の里帰り

椿森

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 テアニアは当初の予定通りエルフの郷、サンヨルフに来ていた。
 バードランド殿下とのお茶会前にも滞在していたのが、随分前の事のように思えた。

「テアニア、よく帰ったね」
「お爺様!」

 テアニアの祖父は母の兄と言ってもわからないくらいに若々しい。
 エルフは総じて長生きで、ハッキリとした年齢は知らないがテアニアの祖父も長く生きているという。

「オーレリアに聞いたよ、大変だったね。ここでは何も害するものは無い。ゆっくりしなさい」
「はい、ありがとうございます」

 テアニアはいつも穏やかな祖父のことが大好きだ。
 叱る時は怖いこともあるが、怒鳴ることはない。諭すように、静かに叱られると不思議と深く反省を促される。

「お爺様、長様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

 郷に入る前の大老様への挨拶、次いで長様へ大体の流れだが、その長様が留守だった。
 祖父は長様の弟、長様は母の大伯父にあたる。
 長様への挨拶は義務ではないので、少し顔を出す程度では挨拶をしない人もいるらしいが(そもそも、大体は郷全体が大老様を通じて知っている)やはり血縁者ということもあってテアニアは挨拶を欠かさないよ
うにしていた。

「ああ、恐らくテアニア達とは入れ違いだろうね」

 多くを語らない祖父ではあるが、テアニアはよく考えて理解をするようにしていた。
 長様はタウンハウスへ向かったのだろう。長様が長く郷を離れることはほとんどないが、祖父を始めとする親類に任せて郷から出かけることがないわけではない。
 きっと、テアニアと王子との婚約についても知っているだろうから父と今後について話すのだろう。
 領地には素性を隠したエルフも住んでいるのだ。その対応に父も追われているに違いない。

「テアニアは、何も気にせずゆっくりして行きなさい。旅の疲れもあるだろう」

 もちろん祖父も話は聞いているだろうけど、何かを言ってくることはない。
 テアニアは塞ぎ込んでいないとはいえ、ショックが無いわけではなかった。それに、何かを忘れてしまっているような気がしてモヤモヤを抱えている。
 祖父にその事を話してみれば、今は無理して思い出すこともないだろうと諭された。

「お爺様、ありがとうございます」

 祖父はテアニアの頭を撫でて、微笑む。
 確かに多くは語らないが、いつも孫であるテアニアたちを慈しみ、ゆったりと構えて包み込むように大事にしてくれる祖父のことがテアニアは大好きだった。

「ああ、そういえばユッシが会いたがっていたよ。明日以降で来るように言ってあるから会ってあげなさい」
「ユッシがですか?明日が楽しみです!」

 ユッシとは、このエルフの郷では珍しくかなり歳の近い友人だ。もちろん姉や兄とも仲は良い。
 エルフは人間と違い長生きであるため、子供が産まれにくい。人間では親子ほど離れた歳でも同年代の括りにしてしまうほどだ。
 その中でも、歳近い子供を3人も産んだ母はかなり珍しいと言える。

 ユッシとの出会いは当然この郷であったが、産まれが郷の外であったテアニア達が初めて会った時はかなり警戒されていた。
 エルフの郷、サンヨルフはを入れることはない。
 迷いの森が郷の者や郷そのものに対して害意を持つ者、あるいは認めない者を森の外へと追いやるからである。
 郷に入って来た時点で問題はないのだが、閉鎖的な郷の中で生まれ育ち、人間が行ってきたエルフに対する非道な行いを聞かされる子供にとって見た事のない者は怪しい者として認識されていた。

 それこそ、初めは中々に酷い言葉を投げつけられたこともあったらしい。それに姉や兄は怒りユッシを泣かせる。
 敵わないと悟ったユッシは、一番幼いテアニアを標的にして泣かせることが多々あったらしい。
 テアニア自身は幼すぎてよく覚えていなく、他人事のようにきいているが、その話を持ち出されると朧気に覚えているユッシは気まずげに視線を下げる。

 長様やその弟である祖父の元で魔法を学び、遊んでいれば近しい年頃のユッシは気になって近づいてきて、いつの間にか郷にいる間は一緒にいるようになった。

 テアニアと姉兄は人間の感覚からすれば、少々離れた8歳差。ユッシはその間の4歳上で、自然とテアニアとユッシは一緒にいることが多くなった。
 テアニアは郷にいる、もう一人の兄のようなユッシがもちろん好きで、早く明日にならないかと心を踊らせていた。


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