12 / 21
11
しおりを挟む
テアニアは当初の予定通りエルフの郷、サンヨルフに来ていた。
バードランド殿下とのお茶会前にも滞在していたのが、随分前の事のように思えた。
「テアニア、よく帰ったね」
「お爺様!」
テアニアの祖父は母の兄と言ってもわからないくらいに若々しい。
エルフは総じて長生きで、ハッキリとした年齢は知らないがテアニアの祖父も長く生きているという。
「オーレリアに聞いたよ、大変だったね。ここでは何も害するものは無い。ゆっくりしなさい」
「はい、ありがとうございます」
テアニアはいつも穏やかな祖父のことが大好きだ。
叱る時は怖いこともあるが、怒鳴ることはない。諭すように、静かに叱られると不思議と深く反省を促される。
「お爺様、長様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
郷に入る前の大老様への挨拶、次いで長様へ大体の流れだが、その長様が留守だった。
祖父は長様の弟、長様は母の大伯父にあたる。
長様への挨拶は義務ではないので、少し顔を出す程度では挨拶をしない人もいるらしいが(そもそも、大体は郷全体が大老様を通じて知っている)やはり血縁者ということもあってテアニアは挨拶を欠かさないよ
うにしていた。
「ああ、恐らくテアニア達とは入れ違いだろうね」
多くを語らない祖父ではあるが、テアニアはよく考えて理解をするようにしていた。
長様はタウンハウスへ向かったのだろう。長様が長く郷を離れることはほとんどないが、祖父を始めとする親類に任せて郷から出かけることがないわけではない。
きっと、テアニアと王子との婚約についても知っているだろうから父と今後について話すのだろう。
領地には素性を隠したエルフも住んでいるのだ。その対応に父も追われているに違いない。
「テアニアは、何も気にせずゆっくりして行きなさい。旅の疲れもあるだろう」
もちろん祖父も話は聞いているだろうけど、何かを言ってくることはない。
テアニアは塞ぎ込んでいないとはいえ、ショックが無いわけではなかった。それに、何かを忘れてしまっているような気がしてモヤモヤを抱えている。
祖父にその事を話してみれば、今は無理して思い出すこともないだろうと諭された。
「お爺様、ありがとうございます」
祖父はテアニアの頭を撫でて、微笑む。
確かに多くは語らないが、いつも孫であるテアニアたちを慈しみ、ゆったりと構えて包み込むように大事にしてくれる祖父のことがテアニアは大好きだった。
「ああ、そういえばユッシが会いたがっていたよ。明日以降で来るように言ってあるから会ってあげなさい」
「ユッシがですか?明日が楽しみです!」
ユッシとは、このエルフの郷では珍しくかなり歳の近い友人だ。もちろん姉や兄とも仲は良い。
エルフは人間と違い長生きであるため、子供が産まれにくい。人間では親子ほど離れた歳でも同年代の括りにしてしまうほどだ。
その中でも、歳近い子供を3人も産んだ母はかなり珍しいと言える。
ユッシとの出会いは当然この郷であったが、産まれが郷の外であったテアニア達が初めて会った時はかなり警戒されていた。
エルフの郷、サンヨルフは外敵を入れることはない。
迷いの森が郷の者や郷そのものに対して害意を持つ者、あるいは認めない者を森の外へと追いやるからである。
郷に入って来た時点で問題はないのだが、閉鎖的な郷の中で生まれ育ち、人間が行ってきたエルフに対する非道な行いを聞かされる子供にとって見た事のない者は怪しい者として認識されていた。
それこそ、初めは中々に酷い言葉を投げつけられたこともあったらしい。それに姉や兄は怒りユッシを泣かせる。
敵わないと悟ったユッシは、一番幼いテアニアを標的にして泣かせることが多々あったらしい。
テアニア自身は幼すぎてよく覚えていなく、他人事のようにきいているが、その話を持ち出されると朧気に覚えているユッシは気まずげに視線を下げる。
長様やその弟である祖父の元で魔法を学び、遊んでいれば近しい年頃のユッシは気になって近づいてきて、いつの間にか郷にいる間は一緒にいるようになった。
テアニアと姉兄は人間の感覚からすれば、少々離れた8歳差。ユッシはその間の4歳上で、自然とテアニアとユッシは一緒にいることが多くなった。
テアニアは郷にいる、もう一人の兄のようなユッシがもちろん好きで、早く明日にならないかと心を踊らせていた。
バードランド殿下とのお茶会前にも滞在していたのが、随分前の事のように思えた。
「テアニア、よく帰ったね」
「お爺様!」
テアニアの祖父は母の兄と言ってもわからないくらいに若々しい。
エルフは総じて長生きで、ハッキリとした年齢は知らないがテアニアの祖父も長く生きているという。
「オーレリアに聞いたよ、大変だったね。ここでは何も害するものは無い。ゆっくりしなさい」
「はい、ありがとうございます」
テアニアはいつも穏やかな祖父のことが大好きだ。
叱る時は怖いこともあるが、怒鳴ることはない。諭すように、静かに叱られると不思議と深く反省を促される。
「お爺様、長様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
郷に入る前の大老様への挨拶、次いで長様へ大体の流れだが、その長様が留守だった。
祖父は長様の弟、長様は母の大伯父にあたる。
長様への挨拶は義務ではないので、少し顔を出す程度では挨拶をしない人もいるらしいが(そもそも、大体は郷全体が大老様を通じて知っている)やはり血縁者ということもあってテアニアは挨拶を欠かさないよ
うにしていた。
「ああ、恐らくテアニア達とは入れ違いだろうね」
多くを語らない祖父ではあるが、テアニアはよく考えて理解をするようにしていた。
長様はタウンハウスへ向かったのだろう。長様が長く郷を離れることはほとんどないが、祖父を始めとする親類に任せて郷から出かけることがないわけではない。
きっと、テアニアと王子との婚約についても知っているだろうから父と今後について話すのだろう。
領地には素性を隠したエルフも住んでいるのだ。その対応に父も追われているに違いない。
「テアニアは、何も気にせずゆっくりして行きなさい。旅の疲れもあるだろう」
もちろん祖父も話は聞いているだろうけど、何かを言ってくることはない。
テアニアは塞ぎ込んでいないとはいえ、ショックが無いわけではなかった。それに、何かを忘れてしまっているような気がしてモヤモヤを抱えている。
祖父にその事を話してみれば、今は無理して思い出すこともないだろうと諭された。
「お爺様、ありがとうございます」
祖父はテアニアの頭を撫でて、微笑む。
確かに多くは語らないが、いつも孫であるテアニアたちを慈しみ、ゆったりと構えて包み込むように大事にしてくれる祖父のことがテアニアは大好きだった。
「ああ、そういえばユッシが会いたがっていたよ。明日以降で来るように言ってあるから会ってあげなさい」
「ユッシがですか?明日が楽しみです!」
ユッシとは、このエルフの郷では珍しくかなり歳の近い友人だ。もちろん姉や兄とも仲は良い。
エルフは人間と違い長生きであるため、子供が産まれにくい。人間では親子ほど離れた歳でも同年代の括りにしてしまうほどだ。
その中でも、歳近い子供を3人も産んだ母はかなり珍しいと言える。
ユッシとの出会いは当然この郷であったが、産まれが郷の外であったテアニア達が初めて会った時はかなり警戒されていた。
エルフの郷、サンヨルフは外敵を入れることはない。
迷いの森が郷の者や郷そのものに対して害意を持つ者、あるいは認めない者を森の外へと追いやるからである。
郷に入って来た時点で問題はないのだが、閉鎖的な郷の中で生まれ育ち、人間が行ってきたエルフに対する非道な行いを聞かされる子供にとって見た事のない者は怪しい者として認識されていた。
それこそ、初めは中々に酷い言葉を投げつけられたこともあったらしい。それに姉や兄は怒りユッシを泣かせる。
敵わないと悟ったユッシは、一番幼いテアニアを標的にして泣かせることが多々あったらしい。
テアニア自身は幼すぎてよく覚えていなく、他人事のようにきいているが、その話を持ち出されると朧気に覚えているユッシは気まずげに視線を下げる。
長様やその弟である祖父の元で魔法を学び、遊んでいれば近しい年頃のユッシは気になって近づいてきて、いつの間にか郷にいる間は一緒にいるようになった。
テアニアと姉兄は人間の感覚からすれば、少々離れた8歳差。ユッシはその間の4歳上で、自然とテアニアとユッシは一緒にいることが多くなった。
テアニアは郷にいる、もう一人の兄のようなユッシがもちろん好きで、早く明日にならないかと心を踊らせていた。
21
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
良くある事でしょう。
r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。
若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。
けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。
わたくしが悪役令嬢だった理由
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。
どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。
だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。
シリアスです。コメディーではありません。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる