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6.家
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エレナの紹介で向かった不動産屋は、石造りの立派な建物だった。
店主の男は品の良さそうな壮年の男で、すぐに商談に入ってくれた。
「私は店主を任されているダニエルと申します」
「俺はミトだ。この街に来たばかりだが、家を借りたい」
「この街では魔法契約に同意いただければどなたでも家を借りることができます」
「魔法契約とはどういったものになるんだ?」
「破れば命を落とすという縛りになります」
リスクの大きさに驚いてしまう。
内容によってはサインすることなどできない。
「そう構えられずともよいのです。意図して犯罪行為を行わない。この一点だけ守っていただけるなら、我々は家をお貸しすることができます」
「この契約は、同居人にも及ぶものなのか?」
「いいえ。及びません。ただし、同居人の犯罪行為を見逃すことは罪となりますので、もしご家族が犯罪に手を染めた時は、通報いただければと」
「分かった。ちなみに、こういった魔法契約は一般的なのか?」
「……と申しますと?」
質問の意図が分からなかったらしく、淀みなく説明をしていた男の困惑が見て取れた。
「すまないが、村から出てきたばかりで世間の常識に疎いんだ。家を借りる時のルールが、他の街にもあるか気になったんだ」
「私に聞けばいいのに」
エレナが拗ねるが、今は無視させてもらう。
「さようですか。この魔法契約を考案されたのは、領主のユリアン・アベール様です。ユリアン様は罪を許さない高潔な御方。ですが、他の領地では悪徳の栄えも見られるようです」
俺は相当に潔癖な人物の領地に転生したらしい。
「家を借りるのは初めてなのだが、希望を伝えてもいいか?」
「もちろんでございます」
ダニエルの説明によると、誰がどこに住むかは全て領主から委託された不動産屋が管理しているらしい。予算を伝えたところ、一戸建ての購入も視野に入ると言われた。
「エレナも一緒に選んでくれるか?」
「え? 私も選んでいいの?」
「家族になるんだから当然だ」
「あなたって本当に変わってるわね」
やわらかくエレナが笑ってる。
「そうね。ミトが気に入りそうな家は……」
彼女は真剣に選び始めた。
「もし迷宮に入るなら、市場からも近いこの家がいいんじゃない?」
「なるほど。こちらの立地ですと、契約金は金貨300枚になります」
「今の俺では手が出せないな」
「一括で購入が難しければ、分割での購入も検討されてはいかがでしょう。さほど距離はありませんし、一度内見に行かれては?」
ダニエルの勧めもあって、俺とエレナは共に家を見に行くことにした。
移動中、彼女はぴったりと寄り添ってくる。
身体を重ねた関係だが、腕を組むだけで顔を赤くするエレナだ。
本当に初心というか何というか、年頃の娘って感じだ。
こんなに経験が浅いと、探索者パーティに買われるという話はさぞ恐ろしかっただろうな。実際、かなり怖がってたし。
「こちらになります」
案内されたのは明らかに2人で住むには広すぎる屋敷だった。
「ご家族で住むことを想定した造りになります。1階がキッチンとリビングと応接間、それからトイレになります。二階には寝室と書斎、空き部屋が3つあります」
申し分のない一軒家に見える。持て余しそうだとも思うが。
「エレナは気に入ったか?」
「ええ。日当たりもいいし悪くない物件だと思う。子供ができたら庭で遊んだりできそう」
「結婚して一緒に子育てするか?」
「もう、適当なこと言わないで」
怒られてしまった。残念。
「少し考えたい。今日のところは宿を借りる」
「承知しました。1ヶ月程でしたら待てますので、色好い返事をお待ちしております」
「いや、そこまでの対応を期待したわけじゃないんだが」
「お客様は尊ばれるべき方。英雄でいらっしゃいます」
「何の話だ?」
尋ねると、「その鎧です」と返された。
「この街で最も高い懸賞金を掛けられた盗賊、リードの鎧ですね。それを身につけることができるのは、討ち取った英雄だからでしょう」
ああ、それなりに目立つ鎧だったのか。性能のいい鎧だから宿に置いていくのも嫌で着てきたが、思わぬ効果があったらしい。
「この街では、英雄には相応しい待遇が約束されます。もし領主様がこの場にいらっしゃれば、私の判断を支持して下さったでしょう」
まだ会ったこともないのに、正義感に厚い領主のイメージが形成されていく。
「分かった。早めに決断はしたいと思う」
「ユリアン様の方針で、賞金稼ぎとして実績のある方は、家を購入する際に優遇される制度がございます。税金も一部免除されますので、是非この街に住まわれてください」
「情報に感謝する。ところで、この街では嘘をつけないそうだな。何か仕掛けがあるのか?」
俺の問いかけにダニエルは笑みを深めた。
「この街には真実の鐘があります。真実の鐘が有効な範囲……つまり街中では嘘をつけません」
「その真実の鐘というのは値の張るアイテムなのか?」
手が届く額のものなら、便利そうだから俺も欲しい。
「決して安いとは言えない代物です。ユリアン様からの格別の配慮で、あのように街に配備されるようになりましたが」
ダニエルが街の中心にある教会を指してくれたお陰で、現物を見ることができた。街の中心にそびえる教会と、吊るされた透明の鐘が見える。除夜の鐘の透明版みたいなものだ。あの大きさじゃ持ち歩くのは論外だな。個人で所有するものではない。
「なるほど。俺でも真実の鐘を使用することはできるのか?」
「毎朝教会の者が鐘を鳴らしますので、この街にいれば加護が適用されます。正直、アレを設置するとなった時は、住民から多くの反対の声が上がりました。些細な嘘もつけなくなるのは不便だという意見です」
「今は違うのか?」
「ええ、もちろんです。我々は嘘を吐く必要がなくなり、他者を騙すこと、そして他者に騙されることから解放されたのです。詐欺に関する事件もなくなり、この街は王国で最も誠実な街として知られるようになりました」
領主はよほど悪を根絶したいんだな。
熱心に語るダニエルから視線を外すと、エレナと目があった。
「あなたがリードを倒したって本当なの?」
「ああ。たまたま返り討ちにしたんだ」
「こういうのを巡り合わせって言うのかしら。お父様の商会が傾いたのは、リード達に商隊の積み荷を奪われたからなのよ。だから、仇を取ってくれたこと礼を言うわ」
討ち取った内のどれがリードか知らないが、感謝は受け取っておこう。
店主の男は品の良さそうな壮年の男で、すぐに商談に入ってくれた。
「私は店主を任されているダニエルと申します」
「俺はミトだ。この街に来たばかりだが、家を借りたい」
「この街では魔法契約に同意いただければどなたでも家を借りることができます」
「魔法契約とはどういったものになるんだ?」
「破れば命を落とすという縛りになります」
リスクの大きさに驚いてしまう。
内容によってはサインすることなどできない。
「そう構えられずともよいのです。意図して犯罪行為を行わない。この一点だけ守っていただけるなら、我々は家をお貸しすることができます」
「この契約は、同居人にも及ぶものなのか?」
「いいえ。及びません。ただし、同居人の犯罪行為を見逃すことは罪となりますので、もしご家族が犯罪に手を染めた時は、通報いただければと」
「分かった。ちなみに、こういった魔法契約は一般的なのか?」
「……と申しますと?」
質問の意図が分からなかったらしく、淀みなく説明をしていた男の困惑が見て取れた。
「すまないが、村から出てきたばかりで世間の常識に疎いんだ。家を借りる時のルールが、他の街にもあるか気になったんだ」
「私に聞けばいいのに」
エレナが拗ねるが、今は無視させてもらう。
「さようですか。この魔法契約を考案されたのは、領主のユリアン・アベール様です。ユリアン様は罪を許さない高潔な御方。ですが、他の領地では悪徳の栄えも見られるようです」
俺は相当に潔癖な人物の領地に転生したらしい。
「家を借りるのは初めてなのだが、希望を伝えてもいいか?」
「もちろんでございます」
ダニエルの説明によると、誰がどこに住むかは全て領主から委託された不動産屋が管理しているらしい。予算を伝えたところ、一戸建ての購入も視野に入ると言われた。
「エレナも一緒に選んでくれるか?」
「え? 私も選んでいいの?」
「家族になるんだから当然だ」
「あなたって本当に変わってるわね」
やわらかくエレナが笑ってる。
「そうね。ミトが気に入りそうな家は……」
彼女は真剣に選び始めた。
「もし迷宮に入るなら、市場からも近いこの家がいいんじゃない?」
「なるほど。こちらの立地ですと、契約金は金貨300枚になります」
「今の俺では手が出せないな」
「一括で購入が難しければ、分割での購入も検討されてはいかがでしょう。さほど距離はありませんし、一度内見に行かれては?」
ダニエルの勧めもあって、俺とエレナは共に家を見に行くことにした。
移動中、彼女はぴったりと寄り添ってくる。
身体を重ねた関係だが、腕を組むだけで顔を赤くするエレナだ。
本当に初心というか何というか、年頃の娘って感じだ。
こんなに経験が浅いと、探索者パーティに買われるという話はさぞ恐ろしかっただろうな。実際、かなり怖がってたし。
「こちらになります」
案内されたのは明らかに2人で住むには広すぎる屋敷だった。
「ご家族で住むことを想定した造りになります。1階がキッチンとリビングと応接間、それからトイレになります。二階には寝室と書斎、空き部屋が3つあります」
申し分のない一軒家に見える。持て余しそうだとも思うが。
「エレナは気に入ったか?」
「ええ。日当たりもいいし悪くない物件だと思う。子供ができたら庭で遊んだりできそう」
「結婚して一緒に子育てするか?」
「もう、適当なこと言わないで」
怒られてしまった。残念。
「少し考えたい。今日のところは宿を借りる」
「承知しました。1ヶ月程でしたら待てますので、色好い返事をお待ちしております」
「いや、そこまでの対応を期待したわけじゃないんだが」
「お客様は尊ばれるべき方。英雄でいらっしゃいます」
「何の話だ?」
尋ねると、「その鎧です」と返された。
「この街で最も高い懸賞金を掛けられた盗賊、リードの鎧ですね。それを身につけることができるのは、討ち取った英雄だからでしょう」
ああ、それなりに目立つ鎧だったのか。性能のいい鎧だから宿に置いていくのも嫌で着てきたが、思わぬ効果があったらしい。
「この街では、英雄には相応しい待遇が約束されます。もし領主様がこの場にいらっしゃれば、私の判断を支持して下さったでしょう」
まだ会ったこともないのに、正義感に厚い領主のイメージが形成されていく。
「分かった。早めに決断はしたいと思う」
「ユリアン様の方針で、賞金稼ぎとして実績のある方は、家を購入する際に優遇される制度がございます。税金も一部免除されますので、是非この街に住まわれてください」
「情報に感謝する。ところで、この街では嘘をつけないそうだな。何か仕掛けがあるのか?」
俺の問いかけにダニエルは笑みを深めた。
「この街には真実の鐘があります。真実の鐘が有効な範囲……つまり街中では嘘をつけません」
「その真実の鐘というのは値の張るアイテムなのか?」
手が届く額のものなら、便利そうだから俺も欲しい。
「決して安いとは言えない代物です。ユリアン様からの格別の配慮で、あのように街に配備されるようになりましたが」
ダニエルが街の中心にある教会を指してくれたお陰で、現物を見ることができた。街の中心にそびえる教会と、吊るされた透明の鐘が見える。除夜の鐘の透明版みたいなものだ。あの大きさじゃ持ち歩くのは論外だな。個人で所有するものではない。
「なるほど。俺でも真実の鐘を使用することはできるのか?」
「毎朝教会の者が鐘を鳴らしますので、この街にいれば加護が適用されます。正直、アレを設置するとなった時は、住民から多くの反対の声が上がりました。些細な嘘もつけなくなるのは不便だという意見です」
「今は違うのか?」
「ええ、もちろんです。我々は嘘を吐く必要がなくなり、他者を騙すこと、そして他者に騙されることから解放されたのです。詐欺に関する事件もなくなり、この街は王国で最も誠実な街として知られるようになりました」
領主はよほど悪を根絶したいんだな。
熱心に語るダニエルから視線を外すと、エレナと目があった。
「あなたがリードを倒したって本当なの?」
「ああ。たまたま返り討ちにしたんだ」
「こういうのを巡り合わせって言うのかしら。お父様の商会が傾いたのは、リード達に商隊の積み荷を奪われたからなのよ。だから、仇を取ってくれたこと礼を言うわ」
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