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1 手違い召喚

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 目が覚めるとそこはロードオブザリングに出てきそうな城の中だった。

「召喚の儀は成りました。勇者よ、どうかあなたの力をこの国の為に役立ててください」

 玉座に金髪碧眼の美しい少女が腰かけている。まだ17才くらいで、若すぎると思う。
 しかし、彼女の声には女王としての威厳があった。

「「は?」」

 俺ともう一人の少年の声が重なる。
 くたびれたスーツを着た俺とは違い、そいつは真新しい制服に袖を通していた。近所の公立高校の制服だったと記憶してる。年は十代の半ば。スポーツバッグを持っていて、運動神経も悪くなさそうだ。ひがみじゃないけどハンサムだと思う。

 召喚した王女様も、少年には優しい笑顔を向けている。俺のことは見慣れない昆虫でも見つけたような目で見てきたが、気にしたら負けだと思っている。

「おかしいですね。私が召喚した勇者は一人のはずですが……」
「何かの手違いでしょうな」

 俺は瞬間的に理解した。
 ここは恐らく異世界なのだろうが、わざわざ子供一人を別の世界から召喚したりはしないだろう。つまり、彼らの本命は俺だったということになる。この爽やかイケメン君は俺の異世界召喚に巻き込まれてしまったようだ。

「安心してくれ。君のことは私が保護しよう」

 頼れる大人っぽく話しかけてみたが、少年は俺のことを無視した。

「そんな……。手違いって酷くないですか。マジ無責任すぎだろ!」

 少年は不満そうな態度を隠そうともしない。まあ、彼の気持ちは十分に分かる俺だけど、ここで不満を表明するのは早すぎると思う。意に沿わない奴をどう扱うのか、彼らの人となりが全く分かってない段階なんだからな。

 幸い、女王は気にした風もなく説明を始めてくれた。

「申し訳ありません、勇者様。私が召喚したのは、間違いなくあなたです」

 そう言って女王が指したのは、俺ではなく隣にいる少年だった。
 ん? つまりどういうことだ?

「しかし、関係のない一般人まで巻き込んでしまったようです」
「え!? じゃあ、このオッサンが巻き込まれたって認識でオーケー?」
「いや、俺まだ24だし。オッサンじゃねえし……」

 俺の発言なんかなかったみたいに女王は話を続けた。

「はい。ですから、どうか気を悪くしないでください。ここから先は勇者にしか聞かせられない話になりますので、部外者のあなたは退室してください」
「そんな! 手違いって酷くないですか!? いやマジ無責任すぎだろ! 責任者呼んでこいよふざけんなっ!」

 あんまりすぎるだろ! 勝手に召喚しておいて弁明すらする気がないのかよ!
 これは切れても仕方がない! 先のことなんてもう知ったことか!

「貴様、女王に対して無礼だぞ」
「ヒッ……」

 屈強な騎士に咎められる。思わず身がすくむと、鼻で笑われた。

「女王に対する非礼、その身で贖わせてやる。おい、こいつを空いてる牢に繋いでおけ」

 騎士の命令に従って、兵士達が殺到してくる。

「ま、待ってくれ……。まさか暴力に訴える気か!? 女王様! こいつらを止めてください! 俺が死んだら文武両道な妹が復讐にくるぞ!」
「オッサン、情けなさ過ぎだろ」

 女王に助けを求めたが、ニコニコ微笑んでいるだけで全く動こうとしない。
 助けてくれる気はなさそうだった。

(こんな異世界転生ってありかよー!)
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