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25 会議

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「今度の会議に私と一緒に参加していただけませんか?」
「会議?」

 クアラの寝室で朝食を摂っていたら、そんなことを言われた。

「大臣や騎士団長、国の有力な貴族達に顔を売ってほしいのです」

 じっと観察してると、クアラが照れくさそうに目をつむった。

「キスですか? どうぞ、好きなだけ唇を奪ってください」
「ああ……」

 クアラの細い肩を掴んでキスをする。たっぷりと舌を絡めあってから離れた。

「実は、私には婚約者がいたのです」
「そうなのか?」
「でも、こんなに情熱的に求められたら、今さら他の殿方に嫁いだりできません。私の夫となる為に協力していただけませんか?」

 俺の強引さが情熱的な態度に見えていたらしい。
 まあ、身もふたもないことを言えば、女神の加護の好感度ボーナスの効果は大きいのだろうけど。

「心配しなくても協力するさ。クアラは俺の女だ。誰にも渡す気はない」
「ハジメ様みたいな強くて優しい殿方に愛していただけて幸せです……」

 どこが優しいのかさっぱり分からないんだが……。 
 盛りのついた猫の方がまだ紳士的だと思う。

「そういえば、王族になった時の側室のことなんだが……」
「認めませんよ? 私一人いればいいじゃないですか」

 ニッコリと微笑まれる。

 俺の方が強いはずなんだけど、ちょっと気圧されたな。
 恋人達のことはあとで相談するとしよう。

 俺はクアラに頼まれて会議に参加することになった。有力貴族達と意見を交換するという名目だが、中身は俺のお披露目みたいなものだ。女王であるクアラと、その後見人である宰相は味方だと思っているが、他の連中はどうか知らない。

「皆さん、よく集まってくださいました。今、この国は大変な時を迎えています。英雄だったはずの元帥の裏切り。そして、前例のない勇者の代替わり……。是非、皆さんの知恵を拝借したいと思います」

 クアラが開始の挨拶をする。
 宰相のギドが捕捉をした。

「今日は勇者様にも参加いただいてます。彼は単独で魔人討伐を成し遂げた稀代の英雄です。是非、忌憚のない意見を聞かせていただきたい」
「なぁ、俺から一ついいか?」

 貫禄のある騎士の口火を切った。
 鑑定で名前を調べると、ガランという名前が表示された。
 職業は騎士で、騎士としての適性はA+だ。まあ、有能な人材なのだろうなと思う。

 俺からしてみれば塵芥も同然だが。

「まどろっこしい話はなしにしようぜ。今朝、陛下とそこの勇者が同じ寝室から出てくるのを俺の部下が見てるんだよ。つまり、そういう認識でいいんだよな? あんたがこの国の王になるって思っていいんだよな?」
「俺じゃ不服か?」

 煽るような返事になってしまった。
 ガランから殺気が伝わってくる。

「あんたはこの国のことなんかどうでもいいと考えてる。違うか?」
「俺だってこの国のことを考えてるさ」
「見え透いた嘘はよせよ。転移者が欲するのは金か地位か女だ。女王陛下にはもっと相応しい奴がいるはずだろ」
「ふむ。ガラン団長、では誰が相応しいというのかね?」

 宰相が尋ねる。

「それは分かりませんよ。ただ、この男でないことだけは確かです」
「彼が魔人に対する唯一の対抗手段だとしても、断定できるのかね?」
「あなたがこの結婚を決めたんですか。どうしてこんな男と……」
「今、トリテアに必要なのは圧倒的な軍事力ではないか? 小国と蔑まれ、近隣諸国に頭を下げて兵力を依存している今を打開する為には、能力を持った王が必要だ。そう考えたからこそ、私は彼らの後見人となることを決めたのです」
「……中途半端に力を持ったところで、勇者を複数所有する国には敵いませんよ。敵わない理想の為に今ここにいる民を蔑ろにするってなら、俺は断固としてこの結婚には反対します」
「なあ、お前はその勇者とやらを見たことがあるのか?」

 ガランの話は興味深い。
 ユウスケみたいなのが他所の国にもいるなら、会ってみたいものだ。

「俺はミナガルデの勇者達を見たことがある。あの国には30人以上も勇者がいるんだ。たった一人で今の情勢を覆せるわけがない」
「俺からは戦力差を覆せる程の力を感じない。そう言いたいのか?」
「ああ、その通りさ」
「だったら体験させてやろう」

 俺は『転移門』の魔法を使った。会議室に漆黒の渦が現れ、参加者たちが慄く。

「これは目的地に一瞬で移動できる魔法だ。演習場で少し手合わせしないか?」
「俺に力を見せるつもりなんだな。言っとくが、生半可な実力しか見せられないなら逆効果だぞ。あんた達と比べりゃ俺の実力なんか大したことないだろうけどな。力を見極めることくらいはできるんだぜ」
「口で説明する気はない。さっさとついてこい」

 俺達は転移魔法で演習場に飛んだ。
 会議室にいた面々がそのままついてきている。

「ハジメ様、団長を殺さないでくださいね。先ほどは謙遜してましたけど、魔人とも渡り合える貴重な戦力ですので」
「分かってるさ。実力を見てもらうだけだ」

 ガランが剣を構える。
 俺は何の機能もない空っぽの聖剣を構えた。

「さっそく始めるか。いつでも打って来い」

 俺は剣を下ろしたまま棒立ちする

「無防備でいれば斬られるはずがないってわけか?」
「いや、構えずとも勝てるというだけだ。好きに斬りかかってこい」
「大した自信だな……!」

 戦士としての誇りを穢されたと思ったのだろう。
 ガランが気迫のこもった瞳で突っ込んでくる。
 中段に構えた剣を突き入れてくる瞬間、俺は縮地の技を使い剣を左にかわした。

「なっ」

 剣聖シロナの絶技が俺には身についている。肉体を取り戻し、今も進化を続ける本人には敵わずとも、並みの魔人であれば剣だけで圧倒できるほどだ。

 必殺の一撃を外し、体勢を崩しながらもガランは連撃に繋げようとする。しかし、俺が首筋に剣を当てて圧する方が早かった。この体勢で無理に動けば、ガランは首を落とされるだけだろう。

「あんたは強いな。だが、それでもミナガルデの勇者全員を相手にはできないはずだ。個人の武力でできることなんて高が知れてるんだよ」
「何をそんなに腐ってるんだ。お前、もしかしてミナガルデで何かあったのか?」
「何もねえよ!」
「彼はミナガルデの勇者に妻を寝取られているのです。確か、名はアリーシャと言いましたか」
「言うんじゃねえ! ……あの日以来、俺は勇者を信じることをやめたんだ。だからテメエのことだって信じねえ!」

 なんだその理由。つまり、八つ当たりってことじゃないか。

「おい、その勇者の名前を言え」
「なんでそんなこと聞くんだ……!」

 全てを灰燼と化す炎を纏う。空気が熱され、喉が渇く程の魔力が周囲を圧する。 俺の足元が溶岩に変わり、少しずつ地表を焼き始める。放っておけば王都が未来永劫誰も住めない死の大地となるくらいの力だ。

「ま、待ってくれ! なんだこのヤバそうな技は……!」
「これが破壊の権能だ。俺が壊したいと願ったものは必ず破壊できる。勇者であろうと魔人であろうとそれは同じだ。それで、ミナガルデの勇者の名前はなんだ。俺が代わりに復讐してやるよ」
「ヒカリって呼ばれてるガキだった。あの野郎が俺のアリーシャを……」
「それ以上は言うな。お前が抱える痛みも、この国の民が味わってきた屈辱も、全部まとめて俺が返してやる。信じろ。俺は誰にも負けない」
「ああ……。その力信じるぜ」

 ミナガルデの勇者、ヒカリか。
 もしミナガルデに行くことがあったらアリーシャを返してもらおう。
 もちろん、利子もたんまりとつけてな。
 その日が楽しみだ……。
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