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4 猫かぶりイファ
「わたくし、イファ・ミリナスと申します。以後お見知りおきを」
イファ・ミリナスは僕たちと同年代の女の子だった。どう考えても戦闘には向いてなさそうな黒いワンピース姿で登場したイファは、淑やかに淡い笑みを浮かべている。
ジュークを含め、僕たちは彼女の美しさに圧倒され、何も言葉にすることができなかった。
「おい……。こんなの連れてけってのかよ」
「こんなのとは失礼だね。可愛くて礼儀正しい女の子じゃないか」
綺麗すぎるのが問題なんだ。
ジュークもタカも落ち着かない様子だ。
ルーミアだけが比較的冷静だった。
「ジョブは何かしら?」
「ヒーラーですわ。わたくし、とある殿方に憧れていて、癒してあげたいと思って志望したんです」
「へえ。ちゃんとした理由はあるんだな。少し控え目だが目標があるのはいいことだと思うぜ」
自分のことだと思ったらしい。
ジュークは目に見えて機嫌がよくなってる。
「ジュークが気に入ったなら文句はないな」
「私も異論はないわ。金の掛からないヒーラーが欲しいって思ってたのよ」
「じゃあ決定だな。もし使えるって判断したらそのまま残してやってもいいぜ」
「そうなるように頑張りますわ」
凄い子が来たな。
だけど、初めて会ったはずなのに記憶に引っ掛かりを覚えるのはなぜだろう。
……たぶん気のせいだと思うけど。
こんなに綺麗な娘に会ったら、忘れたくても忘れられないはずだ。
「タチバナ・ヒロト様ですね?」
「あ、よろしくね。僕は……」
「錬金術師なんですよね。もちろん存じております」
「あ……うん」
「会えて光栄です。ヒロト様……」
気のせいか、一瞬圧を感じたような……。
「まあ、悪い娘じゃないから仲良くしてやってね」
シンさんがフォローを入れた。
うん。悪い娘じゃないんだろうね。
ちょっと綺麗すぎるだけで。
初顔合わせは無事(?)に終わった。
僕たちはシンさんと別れ、さっそく五人でダンジョンに挑むことになる。
ガルア連邦には2208種類にも及ぶ迷宮があって、263州にまたがって各地にダンジョンが存在していることになる。
ダンジョンの管理者は企業で、依頼書を発行しているのも基本的には同じだ。
企業は迷宮を提供して、攻略の様子を配信することで莫大な富を築いている。
携帯型のビジョンボードと呼ばれる結晶を通じて見せられる非日常に人々は釘付けなんだ。
「今回はハイドカンパニーの依頼を受ける」
ハイドカンパニーは昨年の総視聴回数ナンバーワンに輝いた企業で、非常に難易度の高いダンジョンを提供することで知られている。
ちなみに、配信で有名な企業は四つある。ハイドカンパニー、スターソルジャー、プレミアムシーカー、レッドアーミーだ。依頼書が張り出されればどこの依頼でも受けるのが冒険者だけど、企業によって客層が違うから、基本的には自分たちにあった企業を選ぶことになる。
「いきなり? 大丈夫かしら」
「五人パーティーのデビュー戦だぜ? ショボい依頼受けたって仕方ねえだろ。つまんねえシーンはいつもみたいにカットしてくれるさ」
「ジュークが言うんだから間違いないだろ。こいつの棒立ちシーンだって編集してくれてるんだからよ」
こいつ、とタカが指すのはもちろん僕だ。
そして、僕は自分のスタイルが栄えないことを理解してる。
「ごめんね。いつも見栄えが悪くて」
「見栄えも悪いし大して役にも立たない。飯は美味くて荷物もたくさん持つ。それがお前だよ」
ジュークが皮肉をくれた。
「スコアのダンジョン評価は69点だ。お前らの実力なら10層まで突破できるはずだ。ボスの手前で落ちるなんて情けない真似だけはしてくれるなよ」
「久しぶりのBクラスダンジョンってことね」
「ハイドカンパニーの依頼だ。5点は上乗せで考えといた方がよさそうだな」
「ヒーラーを入れるのは初めてだから期待してるぜ」
ギルドには魔法の掛かった転移扉が無数に存在し、ギルドと契約したパーティは専用のパーティルームを使用できる。Sランクパーティであるジュークパーティは一軒家程のスペースがある部屋を借りており、その部屋の一つが迷宮への入口へ通じるゲートルームとなっていた。
ゲートルームには棺桶と揶揄されることもあるコンソールが並んでおり、これに寝そべることで意識を切り離してエーテル体を生み出すことができる。
「やるか……」
ジュークたちがコンソールに入る。僕も棺桶に入って目を瞑った。
すぐに意識が落ちて、気がつくとエーテル体に換装していた。
痛覚がカットされてる以外は元の身体と変わらない。今日も悪くない感じだと思う。
「16時49分か。17時になったら飛ぶぜ」
「ああ、ライブスタートだな」
僕たちの探索の様子は全て配信される。
ダンジョン内のカメラであらゆる角度から見られているんだ。
「ダンジョンは10層からなっている。これはどんな迷宮でも同じだ。10層に魔人がいて、そいつを倒せば俺たちの勝利になる。ハッキリ言うが、俺たちは不利だ。迷宮のクリア率は決して高くない。だが、視聴者はそれを『分かってる』。今回は攻略されるのか? それともまた脱落するのか? そのスリルを楽しんでやがるのさ」
「中には簡単に攻略できるダンジョンに挑んで粋がってるのもいるがな。そういうやり方をジュークは好まない。再生回数もあんまし伸びないしな」
「攻略できるか攻略できないかギリギリのダンジョンに挑む。そこに視聴者は惹かれるのよ」
熱心にジュークたちが教育している。
「分かりました。ありがとうございます」
「よし、そろそろ時間だな。行こうぜ」
イファ・ミリナスは僕たちと同年代の女の子だった。どう考えても戦闘には向いてなさそうな黒いワンピース姿で登場したイファは、淑やかに淡い笑みを浮かべている。
ジュークを含め、僕たちは彼女の美しさに圧倒され、何も言葉にすることができなかった。
「おい……。こんなの連れてけってのかよ」
「こんなのとは失礼だね。可愛くて礼儀正しい女の子じゃないか」
綺麗すぎるのが問題なんだ。
ジュークもタカも落ち着かない様子だ。
ルーミアだけが比較的冷静だった。
「ジョブは何かしら?」
「ヒーラーですわ。わたくし、とある殿方に憧れていて、癒してあげたいと思って志望したんです」
「へえ。ちゃんとした理由はあるんだな。少し控え目だが目標があるのはいいことだと思うぜ」
自分のことだと思ったらしい。
ジュークは目に見えて機嫌がよくなってる。
「ジュークが気に入ったなら文句はないな」
「私も異論はないわ。金の掛からないヒーラーが欲しいって思ってたのよ」
「じゃあ決定だな。もし使えるって判断したらそのまま残してやってもいいぜ」
「そうなるように頑張りますわ」
凄い子が来たな。
だけど、初めて会ったはずなのに記憶に引っ掛かりを覚えるのはなぜだろう。
……たぶん気のせいだと思うけど。
こんなに綺麗な娘に会ったら、忘れたくても忘れられないはずだ。
「タチバナ・ヒロト様ですね?」
「あ、よろしくね。僕は……」
「錬金術師なんですよね。もちろん存じております」
「あ……うん」
「会えて光栄です。ヒロト様……」
気のせいか、一瞬圧を感じたような……。
「まあ、悪い娘じゃないから仲良くしてやってね」
シンさんがフォローを入れた。
うん。悪い娘じゃないんだろうね。
ちょっと綺麗すぎるだけで。
初顔合わせは無事(?)に終わった。
僕たちはシンさんと別れ、さっそく五人でダンジョンに挑むことになる。
ガルア連邦には2208種類にも及ぶ迷宮があって、263州にまたがって各地にダンジョンが存在していることになる。
ダンジョンの管理者は企業で、依頼書を発行しているのも基本的には同じだ。
企業は迷宮を提供して、攻略の様子を配信することで莫大な富を築いている。
携帯型のビジョンボードと呼ばれる結晶を通じて見せられる非日常に人々は釘付けなんだ。
「今回はハイドカンパニーの依頼を受ける」
ハイドカンパニーは昨年の総視聴回数ナンバーワンに輝いた企業で、非常に難易度の高いダンジョンを提供することで知られている。
ちなみに、配信で有名な企業は四つある。ハイドカンパニー、スターソルジャー、プレミアムシーカー、レッドアーミーだ。依頼書が張り出されればどこの依頼でも受けるのが冒険者だけど、企業によって客層が違うから、基本的には自分たちにあった企業を選ぶことになる。
「いきなり? 大丈夫かしら」
「五人パーティーのデビュー戦だぜ? ショボい依頼受けたって仕方ねえだろ。つまんねえシーンはいつもみたいにカットしてくれるさ」
「ジュークが言うんだから間違いないだろ。こいつの棒立ちシーンだって編集してくれてるんだからよ」
こいつ、とタカが指すのはもちろん僕だ。
そして、僕は自分のスタイルが栄えないことを理解してる。
「ごめんね。いつも見栄えが悪くて」
「見栄えも悪いし大して役にも立たない。飯は美味くて荷物もたくさん持つ。それがお前だよ」
ジュークが皮肉をくれた。
「スコアのダンジョン評価は69点だ。お前らの実力なら10層まで突破できるはずだ。ボスの手前で落ちるなんて情けない真似だけはしてくれるなよ」
「久しぶりのBクラスダンジョンってことね」
「ハイドカンパニーの依頼だ。5点は上乗せで考えといた方がよさそうだな」
「ヒーラーを入れるのは初めてだから期待してるぜ」
ギルドには魔法の掛かった転移扉が無数に存在し、ギルドと契約したパーティは専用のパーティルームを使用できる。Sランクパーティであるジュークパーティは一軒家程のスペースがある部屋を借りており、その部屋の一つが迷宮への入口へ通じるゲートルームとなっていた。
ゲートルームには棺桶と揶揄されることもあるコンソールが並んでおり、これに寝そべることで意識を切り離してエーテル体を生み出すことができる。
「やるか……」
ジュークたちがコンソールに入る。僕も棺桶に入って目を瞑った。
すぐに意識が落ちて、気がつくとエーテル体に換装していた。
痛覚がカットされてる以外は元の身体と変わらない。今日も悪くない感じだと思う。
「16時49分か。17時になったら飛ぶぜ」
「ああ、ライブスタートだな」
僕たちの探索の様子は全て配信される。
ダンジョン内のカメラであらゆる角度から見られているんだ。
「ダンジョンは10層からなっている。これはどんな迷宮でも同じだ。10層に魔人がいて、そいつを倒せば俺たちの勝利になる。ハッキリ言うが、俺たちは不利だ。迷宮のクリア率は決して高くない。だが、視聴者はそれを『分かってる』。今回は攻略されるのか? それともまた脱落するのか? そのスリルを楽しんでやがるのさ」
「中には簡単に攻略できるダンジョンに挑んで粋がってるのもいるがな。そういうやり方をジュークは好まない。再生回数もあんまし伸びないしな」
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