妹が連れてきた婚約者は私の男でした。譲った私は美形眼鏡に襲われます(完)

みかん畑

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希望※ティーナ視点

 レン・エドワードの処刑が決まってから一週間後、私は檻の中の彼に会う為に面会へ向かった。元婚約者ということで面会の権利を得た私だが、檻のなかですすり泣く彼の姿を見た瞬間、来るんじゃなかったと後悔した。

「なぜ、私が処刑されねばならないのだ」

 まだそんなことに悩んでいたのかと驚いてしまう。
 何でも何も、虎の尾を思いきり踏んづけたのは自分自身だろうに。

 昔、自分が痛めつけたメイドの後見人がアルトと繋がっていたなど、不幸としか言いようがないが。

 いえ、逆かしら。アルトが自分の痛めつけたメイドの後見人として、爵位持ちの騎士団長を選んでいるとは思わなかったのだろう。

 団長は子宝に恵まれなかったようだが、彼ほどの者なら他の侯爵家から養子を取ることもできたはずだ。

 彼の妻であるカミラ夫人もよく彼女たちを受け入れたなと思う。

 まったく、夫人の理解も重なって、レン・エドワードにとっては運がなかったとしか言いようがない。

 まさに天に見放された状態だ。
 私にとってもとんだトバッチリだったわね。

 もちろん、私も彼を救おうなどとは考えていないけれど。

「あなた、相当レインを怒らせていたのね。あなたの父親から聞いたけど、家では随分とメイドを虐待していたそうじゃない」

 グレイス家へ謝罪に来た彼の父から聞いたが、レンには虐待癖があったらしい。
 当の本人は、当時も今もまるで反省がないようだけど。

「私もジェシカに振り向いてもらえず辛かったのだ。もっと早くに相思相愛になっていれば、こんなことにはならなかった」

 阿呆すぎて言葉も出ないわ……。
 人間性が腐りすぎていて手の施しようがない。

 でも、彼にはお話相手になって欲しいから、希望を持たせてさしあげましょう。

「それは辛かったわね。でも私が頭を下げて、グレイス家からあなたの減刑を願っておいたわ。表舞台には戻れないだろうけど、命だけは拾えるでしょうね」
「おお、ティーナ。お前は女神だ。私はお前の為なら何だってしよう」
「私の為を思うなら田舎にでも引きこもって何もしないでちょうだい。それと、当然婚約は破棄してちょうだいね」
「嫌だ……私はお前と添い遂げたい!」
「想像以上のお馬鹿さんね。それなら勝手に消えて。もちろん、減刑の話は白紙にするわ」
「じゃあ婚約は諦める」

 じゃあって……。
 本当に頭の足りない殿方ね。

「言っておくけど、命を拾っただけで実家からは離縁されるでしょうから、あなたは平民になるのよ。ちゃんと理解できてるかしら」
「無理だ……。平民として生きていくなど」
「皿洗いでも何でもやって生きなさいよ。あなたはもうエドワード家の人間ではないのだから」

『あんまりだ』とか言ってレンが泣き崩れている。

 あんまりなのはお前の頭の方だと言ってやりたかったが、これ以上、関わり合いになるのも嫌だ。

「金輪際、私には関わらないでね」
「ああ、お前は俺には勿体ない女だったよ」

 さて、ここからが本題。

「ねえ、最後に好奇心で聞くのだけど、レンは姉様と私、どちらを愛していたの?」

 レンは言いづらそうに瞳を伏せる。

「それは……やはりジェシカだな。ジェシカは心が綺麗な気がした。共にいると自分の醜い心も綺麗になった気がしたのだ」
「うふふ、私はお姉さまと違って心が穢れてるものね」
「そんなことはないと思うが」
「本当のことを話さないと殺すわよ」
「す、すまないが、その通りかもしれんな」

 少し脅すと本当のことを話してくれた。
 嬉しいわ。本当の気持ちを吐き出してくれて。

 おかげで私は心置きなく貴方を見捨てることができる。

「ふふ、なら、心の汚い私はあなたを見捨てることにするわ」
「……は?」

 馬鹿ね。あなたみたいな屑を助けるメリットなんてどこにもないじゃない。

「私はあなたの気持ちを聞き出す為にやってきただけ。初めから減刑なんて願ってないわ」
「冗談、だろう? 君の質の悪い冗談だ。俺は命だけは救われるんだろ?」
「親って怖いわね。子供の為なら何だってできるんだから。一方で、あなたのように見捨てられる子供もいるのだけど」
「嘘だ……。嘘だ! 俺は生きるんだ……。平民に身を落としてでも……」

 絶望に塗りつぶされたレンが、ガシャガシャと檻を揺らす。

「残りの人生、たっぷりと後悔してね。私も最低な女だけど、あんな子供に……。いたいけなメイド達に手を上げるのはどうかと思うわよ。私はジェシカ姉様が嫌いだけど、鞭で叩きたい、暴力で屈服させたいなんて思ったことは一度もない。その点、あなたとジェシカ姉様がくっつかなくて本当に良かった。ジェシカ姉様とあなたみたいな屑じゃ釣り合わないもの」

 ……言いたいことを言えてスッキリした。

「頼む! 助けてくれティーナ……!」
「そういう言葉はね、人を助けたことのある人間だけが言えるの。姉様はね、子供の頃、私が雷を怖がっていたら抱きしめてくれたわ。ここにいるのが姉様だったら、私は手を差し伸べたでしょうね。でも、あなたはダメよ。だって屑だから。そのまま死んでくれた方が清々する」
「俺の人生とは何だったのだ」
「そんなの知らない。自分で考えなさい。それだけの時間はあるでしょう?」

 耳障りに檻を揺らす音に背を向けて、明かりのある方向へ歩いていく。
 人はいつか自分の過去を清算しなければならない。
 私も近い将来、罰を受けることになるだろう。

 心臓がギシギシと狂ったように痛んだ。
 ここ数年、私を悩ませる病だ。

 私には予感がしている。
 私は近い将来、自分に当たっているスポットライトが外れる気がしている。
 それは、私の命を落とす瞬間だ。

 ジェシカ姉様のことを思う。
 醜く汚れた私が姉の傍にいる為には、悪役に徹して心を汚して生きるしかない。

 その結果が破滅だとしても。

 どうせ病に倒れるなら、最後は姉の心に私を刻みつけて死にたいのだ。

 そうすれば、私に関心のないお姉様も、たまには私を思い出してくれるだろう。

 私は愚かに踊り続けるしかないのだ。
 奈落に堕ちるその瞬間まで。

 破滅へ向かう同胞から離れて、私は自分の死へと思いを馳せた。
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