乙女ゲームのモブに転生したので、幸せになろうと思います。

木苺

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仕合わせ

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アミティエの後ろから、黒い無数のうごめく腕がはえてきた。リーベが遠目に見たアミティエの目は燃えるような紅色だった。
「なにあれ…っなんで色が変わって」
「危ないっ!」
腕がリーベをつかもうすると、ルミエールがそれを庇い腕とリーベの間に入った。腕はルミエールの頬にかすり、紅色の鮮血を宙に舞わせた。アミティエの目、髪飾りの彼岸花と同じ、燃えるような紅色の血。そこでリーベは初めて気づいた。アミティエは自分たちを攻撃して、殺すつもりなのだと。
リーベは学年一の学力のエテュードに叫んだ。
「ねぇ!!あれは何!?」
エテュードは叫び返した。
「魔力暴走です!!僕たちもなったでしょう!!彼は魔力が多すぎて、自分でも制御できずに自暴自棄になっているんです!!」
リーベには魔力が暴走した攻略対象四人を看病したことがあった。四人はアミティエより魔力が少なく、寝込んだだけだったが、アミティエは違った。魔力の量が多すぎて自分でも制御できていないのだ。
「ふふふ…!!ねぇ…!!僕と遊びましょうよぉ…!!」
アミティエが笑った。完全にアドレナリン放出でハイになっていた。演技を忘れないところがさすがというべきか。哀れな人間だ。
「綺麗な血ですねぇ王子君。実に見慣れた光景だぁ…!!」
アミティエが手を広げると、あたりを闇が覆った。空は闇に包まれ暗くなっていた。
「その血、もっと見せてくださいねぇ!!」
アミティエが手をふるった。すると、突如リーベ達がいたところに剣が降ってきた。土煙で視界が閉ざされる。リーベはツァールトに抱えられ無事だった。
「みんな無事!?」
煙の中から返事は帰ってこなかった。
「そうだね…この煙の中じゃ、二人とも見えないな…」
ふと、リーベは上空を見た。「くる!!」直感でそう感じたのだ。たちまち空からは無数の剣が降ってきた。
「光魔法Ⅲ 防御シールド!」
リーベが出した光る膜が剣を止めた。剣は弾かれ砕け散る。
「あら…僕の剣が聞かないだなんて…光魔法、でしたね。どちらも天敵、というわけですか…」
アミティエの声はしたが、姿は見えなかった。
「なら…直接仕留めるしかないですね。」
「!!」
閃光が走った。アミティエがリーベの首元に向って空から降ってきたものと同じ剣をふるったのだ。
「風魔法Ⅱ 竜巻トルネード!!」
ツァールトのはなった強風でアミティエが吹き飛んだ。
「グァッ」
アミティエは地面に叩きつけられ、土煙が舞う。さらにあたりが見えなくなった。
すると、突如リーベが何かを思いついた。
「ツァールト!風を空へ放って!!」
「え?どうして…」
「いいから早く!!」
「あ、うん。風魔法Ⅰ ウインド
ツァールトの手から出た突風が土煙を払い、たちまちリーベ達の視界は良くなった。
「リーベ!!ツァールト!!」
「よかった…生きていたんですね」
さっきまでは見えなかったバーンとルミエールとステューディオが近づいてきた。アミティエは転がって動かない。バーンがアミティエを睨みながら歩いてゆく。
「ア゛ァン?何だよご立派な口叩いて殺しに来た割にはずいぶんあっさりとしてんなぁ。ツァールトの弱っちい風魔法ぐらいでくたばんのか。けっ。見損なっちまったぜ。」
その様子を見ていたリーベが叫んだ。
「危ない!!」
「あ?んだよ」
振り返ったバーンの後ろで、アミティエが立ち上がった。
「ふふ…雑魚と侮ったのがいけなかったようですね。では、僕も本気で…相手してやりましょう。」
アミティエの後ろから出た闇が、リーベ達ごとアミティエを包んだ。
「なにっ…!?」
狼狽えるルミエールにエテュードが叫んだ。
「ルミエールさん!!これは高度な魔法、自己解放セルフ・レリーフです!!戸惑っている場合じゃないですよ、彼は本気でこちらを殺そうとしているのですから。ただでさえ実力が劣っているのです、僕たちも殺す気でやらないと…死にますよ!!」
ルミエールは狂ったように笑っているアミティエを睨んだ。
「そんなことは分かってる!!リーベ!!「心への侵入ハート・インヴェイジョン」はできるかい!?」
リーベもアミティエを睨む。どこを見ても黒い暗闇で、気が狂いそうだ。
「できるよ!!でも、心への侵入をするには、体に触れなきゃならないの。今の状況じゃ、それはできないみたいだね!!」
アミティエはこの暗闇を作り出すときに、姿をくらませていた。
心への侵入ハート・インヴェイジョン」は、光属性の魔法が使えるものしか使えない高等呪文だ。触れた相手の心の中に入ることができる。
魔力暴走は生き物が生まれながらに持っている器が欠損し、欠損した部分から魔力があふれ、心や脳に影響して起こる現象である。そんな魔力暴走を止めるにはどうすればいいか―
欠損から魔力があふれているのだから、心の中に入って器を直してしまえばいい。実際、リーベはその方法で魔力暴走を起こした四人を助けてきた。だがしかし、今度は状況が違う。相手が動いている。触るだけなら簡単を思うものもいるかもしれないが、「心への侵入ハート・インヴェイジョン」は高等呪文なだけあって、魔力も尋常じゃないくらいに使う。それほどの魔力を集めるには、時間がいる。しかも、「心への侵入ハート・インヴェイジョン」は相手に触った瞬間に唱えないと効果がないため、動いている相手に使うのは、至難の業だった。リーベは考える。
「(私の残り魔力から考えてうてるのは後三回…私は魔力を一切使えない。杖は要らないな…)」
リーベは杖から剣に持ち替えた。剣を持っていれば手にはさほど注目されないので、安心して魔力をためられる。チャンスは三回、ここぞというときにしか使ってはいけない、そんな緊張感とともに、リーベは剣を構えた。五人は背中を合わせて立つ。アミティエは今何処に居るかわからない。常に周りを警戒する、そんな状況だった。
しかし、いつまでたってもアミティエは現れない。仕方がないので、リーベは一歩前に踏み出してルミエールたちの背中を見た。リーベの背中はがら空きだ。
ガチッ
アミティの黒い剣をリーベは受け止める。とめられたと知ったアミティエは後ろに一歩下がった。リーベはアミティエに切りかかる。
「とあっ」
「…何故魔力は使わないんですか?ずいぶんなめられたものですねっ」
アミティエは剣をはじき返した。そのままアミテェエはリーベに黒い魔法弾を投げる。
「ぐっ」
魔法弾が腹に直撃したリーベは痛みに目を細める。
「ほ~ら。そんなことする暇はあるんです、かッ」
アミティエはリーベの首めがけて水平に剣を振った。
はねられる―リーベがそう覆ったとき、突然アミティエの体勢が崩れた。アミティエの後ろでは、こちらに手のひらを向けたバーンが立っていた。バーンのはなった火魔法で、一瞬アミティエの体がこわばったのだった。
「俺たちもいることを忘れてもらっちゃあ困るなァ?」
「…いえ、今のは少し意表を突かれましたねぇ…」
少しも動揺していない様子でアミティエは立ち上がった。
「でも、ぜーんぜん痛くありません。すぐ皆殺しにしてあげます」
アミティエは剣の先をリーベ達に向けた。
「ハッ!上等だァ」
バーンは不敵に笑う。その後ろで、リーベ達は構えた。
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