大晴妖狐草紙(タイセイアヤカシキツネソウシ)

なぎのコースケ

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軍狐「グンギツネ」

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与一と穂波は、街道を抜けて東大都の町はずれにやってきた。時刻はまだ夜明け前。
「あー、結構遠くまで来てしまったんやね、うち。今日中に戻るのは難しいか」
「それなら宿を紹介しよう。夜間でも開いている宿は少ないが一応ある」
「いや、現世の金は持っとらんのよ。それにあまり現世で目立つのはあかんし」
「そうか。困ったな。とはいえ俺の家へというわけにはいかないしな。野宿するわけにもいかないだろう。このあたりの近くに泊まれそうな場所は……」
「この辺りには宿はなかったと思うよ。だから野宿するつもりやけど」
「野宿? よくできるな」
「軍狐(ぐんぎつね)なら当たり前よそんなん」
「さすがにそれは……俺の家に空いている部屋はいくつかある。何なら別館があるからそちらで泊まってくれてもいい」
「別館って大げさやなアンタ。どうせ倉かなんかやろー。倉で寝るやつはあまりいないと思うけどな」
「テント道具もいくつかあったはずだ。取りに行くためにも俺の家へ向かおう」
「ま、家の中はわからんが、テント道具を借りれるのはありがたいな。泊まるかどうかは部屋で考えるわ」
「……君は女性だろう。なるべく配慮しているつもりだが、男の家にあがることに抵抗はないのか」
「がはは、そんな心配はとっくの昔よ。でも心配してくれるのは嬉しいわ。うちもか弱いほうやからそういう気づかいはありがたいな」
ふと、与一は先ほどの森での出来事を思い出した。
4メートルもの怪鳥を複数匹平然と倒せる軍狐の女。
(どこがか弱いんだ……?)
「そうか。そうだな。大都で悪漢に襲われる可能性はまずありえないだろう」
「治安がええ町なんかね」
「まぁ……そうだな」
 あんたが一番恐ろしいよ、とまでは言わなかった与一であった。

与一と穂波の二人は与一の自宅までたどり着いた。
「よし、着いたぞ。ここが俺の家だ」
目の前には大きな屋敷が見える。
「え? 嘘やろ、よくあるオッサンの冗談やないの」
「表札に俺の苗字が書いてあるだろう」
「……なんか悪いことしてる?」疑いのまなざしで与一を見る穂波。
「何を言う。金貸しと質屋を主にしているが法律は守っているぞ」
「うわ、でた。金貸し! そっか金貸しならこの屋敷も納得やね」
「この屋敷は跡継ぎのいなくなった名家の屋敷で、競売に掛けられていたから節税のために買ったんだよ。町工場にして貸すことも考えたものの、歴史的な価値もあるので環境に関わることは控えようと……」
「土地も貸してんのかアンタ!? はぁ~周旋屋か。やっぱり悪いことしとんのか」穂波は軽蔑のまなざしを与一に向けている。
*周旋屋はあっせん業や土地の売買を行う業者。

「だから法律は守っているって言ってるだろう。東大都だけでなく、関東平野全域で事業を展開しているからこそ、ようやく屋敷が持てたんだ。そもそも悪行で稼いでいたらこんな屋敷は買えん」
「む……そ、それもそうか。ならテントはええわ。別館があるというのも本当だったのは驚いたわ」
そう話ながら、二人は屋敷の中へと入る。

屋敷内を案内され、穂波は感嘆の声を上げる。
与一邸は木造建築のお屋敷に金属製のスチームパンクのような置物や家具、機材などが部屋中に置かれており、大きな水槽や観葉植物などが置かれている。
「いや~すごいわ~。黄泉でもこんなお屋敷はそうそうないよ。南方の妙族と中央の神族ならありそうやけど、西方、東方ではありえん。北方はまぁ……霊族の国やしな。」
「この屋敷もなかなか値が張るものではあるが……これ以上のものは山ほどあるだろう」
「でもかなり贅沢なのは同じよー」
「そうだ、一応夜食を作ろうと思うがどうだろうか」
「ええの?」
「助けてもらった礼も兼ねてということで」
与一たちは厨房へと向かった。与一は氷式の木製冷蔵箱の中身を調べている。
「今あるのはサンマくらいだな。倉にもいくつか保管しているはずだが……」
「冷蔵箱結構大きめやね」
「ああ、特注品でな。製氷業の発展のためにも氷を多めに買っている。米も今から炊くがどのくらい必要だ?」与一が穂波に料理で食べるコメの量を質問する。
「とりあえず1升」と答えた。
「……1合?」与一は聞き間違えたと思い聞き返す。
「……あ。そうそう1合」穂波はなにか言い間違えたと言わんばかりに訂正した。
「ああ、わかった。一合だな。一応多めに炊いておくか」と与一は炊飯の支度に入った。
(……あかん、そうか。人間は1合で足りるんやね)と穂波は小声で独り言を言う。

しばらくして与一は夜食を作り、居間に料理を運んできた。彼の家では居間を食卓として利用している。
居間は畳が敷かれていて、食事用の台は横長のローテーブルのようなちゃぶ台だった。
与一は料理を漆塗りの木製のお盆に乗せて運んできた。
与一が作った料理は焼いたサンマと、白米のご飯、味噌汁。漬物屋から買ってきた漬物と、山菜のおひたし。
「おおー、かなり上質なサンマや」と穂波は料理に感激している。
「こんなええもん食えるなんてな、お礼の気持ちはよく伝わってるよ」と穂波は上機嫌だ。
「え? ああ、いや……普段から食べているやつだが」と与一は困惑している。
「え? 普段から?」穂波は唖然としたあと、「そうか」と言った。
「普段君は一体なにを食べているんだ」と与一は表情が曇った穂波にたずねる。
「黄泉の飯は基本まずい」と言った。
「そうか。それは災難だったな」と返す与一。
「それでは、いただきます」と言い。穂波たちは夜食を食べ始めたが。
「すまん、1合やなくて本当は1升の米が欲しい」と言った。
「1升って聞き間違いじゃなかったのか」と与一。
「1合ってこんな少ないんか」食べ終わってしまったお椀を見つめる穂波。
「少なくはないと思うぞ。……まぁ多めに5合炊いておいて正解だったな。残りは今から用意するとしよう」
「ありがとうな。ほんまに。……いやー、これで小腹を満たすことができそうや」
「は?」
「あ、いや。お腹一杯食べれてうれしいな~」穂波はごまかした。
「なあ、黄泉の人間って大食いだらけなのか?」と与一は言う。
「……これ大食いなの?」困惑しながら穂波は言う。
「ああ」とだけ与一は返事をした。
「嘘やろ?」と穂波は言葉をこぼした。
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