背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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46話 体温。2

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 おれは裕太くんの腕を掴んだ。そのまま、半ば無理矢理その場から引きはがすように連れて歩く。傘と傘の間で腕が濡れていくが気にしなかった。
 今の彼に何があったのかは、何と無く察した。けれどこんなところにいつまでも居たって何の解決にもならない。本当に只風邪をひくだけだ。
 向かったのは自分のアパートだった。尻ポケットから鍵を出して玄関を開ける。
 足が濡れているからと躊躇う裕太くんを、自分もどうせ濡れているからと強制的に靴を脱がせて部屋に上がらせ、そのまま彼を風呂場に押し込んだ。給湯の温度をわざと少し高めに設定してやる。今すべき最優先は、彼の身体をまず暖める事だった。
 風呂場の戸を閉めて、裕太くんが素直にシャワーを使い始めた音が聞こえた。すっかり濡れた二人分の服を洗濯機に放り込んで電源を入れる。回してしまえばどうせすぐには乾かないから、代わりに自分のシャツとジャージの下、たまたま置いていた未開封の下着を、着替えとして洗面所に用意してやった。
 自分も部屋着に着替えたところで台所へ向かい、電気ポットでお湯を沸かす。戸棚からマグカップとインスタントコーヒーの粉を取り出し、お湯が沸く前にカップに粉を入れてしまう。
 涼平に連絡しようか迷ってスマホを手に取り、やはり今するべきではないと判断してスマホをテーブルに置いた。
 涼平を責める気にはならなかった。
 彼の気持ちは自分も知っている。いつか必ずこんな時が来る事は、始めから想像がついていた。裕太くんには言うべきでない事も、分かってはいるけれど。
 それに、自分だってきっと涼平と同じ事をした。好きな人が傍に居れば、触らないという選択肢は、きっとない。
 でも裕太くんの気持ちも痛い程分かる。もしかしたら自分がしてきた思いよりも痛いに違いない。だって話に聞いた訳ではないのだ。自分の目で、事実として見てしまったとしたら。
 丸い目でこちらを見た時の顔を思い出す。まるで裏切られた時の自分を見ているようで、無意識に過去の経験と照らし合わせた。信じたくなくて、でも腹の底からゆっくりと押し上がってくる不信感と絶望感。なのにそれでも嫌いになれない自分。彼はきっと今、苦しくて押し潰されそうに違いない。
 そこまで考えて、カチッ、と電気ポットのスイッチが下りる音がして、考えるのを一度中断した。カップの半分までお湯を注ぎ、スプーンで軽く混ぜる。冷蔵庫から使うか使わないか分からない牛乳を取り出したところで、洗面所の戸が開く音がした。
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