背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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45話 体温。1

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side I

「遅くなったな……」
 すっかり薄暗くなりかけた夕方過ぎ。
 強くなる一方の雨足に辟易しながら、大学での用事を済ませて帰路に着く。まだ降り止みそうにない雨に足元を濡らされて、うんざりした気持ちで水浸しのアスファルトを歩いていると、涼平のアパートの前を通り掛かったところで、見覚えのある人物が道路に立っているのが目に入った。
「裕太くん」
 少し遠い距離から声をかけても、雨の音で聞こえないのか、彼は微動だにしなかった。固まったように涼平のアパートを眺めている。
「裕太くん?」
 近付いてぽん、と肩を叩くと、彼はまるで我に返ったかのようにビクッとその肩を竦ませて、驚いたように丸い目でこちらを見た。
 触れた肩は酷く冷えていた。
「樹さん……」
「どうした、こんなところで。涼平と約束?」
「あ……いえ、その……」
 目を伏せて口篭る裕太くんに、自然と首を傾げてしまう。
「上がらないのか? 風邪ひくぞ」
 伏せられた目を覗き込むようにしながら裕太くんを見ると、その目にはうっすらと涙が滲んできていた。
「……どうした」
 それを見たこちらも驚いて、慌ててもう一度目を合わせようとしても、彼の目は長い前髪で隠れてしまった。
「いま……」
「ん?」
「師匠、人が来てるみたいで……」
「そうなのか。友達かな。どんな人だった?」
「髪の長い、綺麗な女の人で……」
「髪の長い……」
「師匠とキスしてたから……今、多分……」
 裕太くんはそこまで話して言葉に詰まった。その顔は下を向いていて表情は見えない。それでもそれは、今のその状況を理解するには充分だった。
 リナの髪はそんなに長くない。そもそも涼平とキスなんてしないだろう。
 理由なんて見当もつかないが、きっとまなかが来ているのだ。そしてそれを、彼は見てしまったのだ。一緒に居るだけじゃない、ところも。
「俺、どうすれば良いんですかね、こういう時……」
「裕太くん……」
 顔を上げた彼の、無理をした口元だけの苦笑いを見て胸が痛くなった。
 不意に、冷た過ぎる彼の肩が気になって腕の時計を見る。思えば最後の講義が終わってから既に一時間近く経っている。涼平がいつ帰ったかは知らないが、裕太くんの身体は服越しにでも分かる程冷え切っていた。
「なあ、君いつからここに居るの」
「え、えっと……わかんないです。何か、動けなくて」
「おいで」
「え、いや、でも」
「風邪ひくぞ、君は受験生だろ」
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