とてもチンケな恋のはなし

夏緒

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6話 ストーカー、覚醒する。6

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 最初のカメラは、考えあぐねた末にテレビの奥の配線に紛れ込ませた。
 これは吉崎 拓哉が、女性は一般的に配線のたぐいに弱そうだという先入観を持っていたためである。
 これは功を奏した。
 ジュリアは吉崎 拓哉の設置したカメラには一切気づくことなく、設置したその日のうちにカメラの前であられもない下着姿を披露したのだ。
 吉崎 拓哉は隣の自室で喜び勇んで舞い上がった。
 大声で叫ぶわけにもいかず、声を圧し殺しながら何度もガッツポーズを繰り返した。
 彼女は家にいる間はいつも下着姿だ。
 出かけるために洋服を着ても、帰ってくるとすぐに脱いでしまう。
 彼女の髪の毛は以前見かけたときよりも長くなっており、ふわふわの毛は前髪以外、顔にはかかっていなかった。
 それからというもの、吉崎 拓哉は時間が許す限りパソコン画面に齧りつくようになった。
 そうして何日かして、とうとう現れたのだ、あのコンドームの使用主が。

 そいつは名前を“しょうちゃん”という。
 いや本名は知らない。
 ジュリアがそう呼んでいた。
 パソコン画面の中でジュリアが何度も呼ぶのだ、
『しょうちゃん、気持ちいいよぅ、しょうちゃん、しょうちゃん』。
 しかもあろうことかカメラの位置が悪く、ベッドが見えない。
 しょうちゃんとやらの顔も見えない。
 聞こえてくるのはまるでゲームで盛り上がってでもいるかのような、楽しそうな声のみ。
 吉崎 拓哉は気が狂うかと思った。
 もうヘッドホンを投げつけて壊してしまおうかとも思ったが、壊してしまえば今後ほかの音も聞こえなくなるわけで、致し方なく吉崎 拓哉は歯ぎしりをしながらジュリアの甘ったるいよがり声を聞き続けた。
 その相手が自分ではないことが悔しくて奥歯を砕きそうなほど噛みしめ、そしてマスターベーションをした。

 だが盗撮という悪行に手を染めた吉崎 拓哉にとっての不幸はこれで済まなかった。
 なんとあれから数日のうちに、また別の「使用主」が現れたのだ。
 次の男は“だいちくん”。
 そしてまさかの、その次の男は“ゆたかくん”。
 信じられないことに、トドメにもうひとりいた、“ゆうたん”。
 嘘だろ、嘘だといってくれ。
 一体……何股してんだよ、ジュリア……。
 あの春の日に笑いかけてくれた笑顔がガラガラと音と立てて崩れていくような気がした。
 天使のイメージがまたたく間に女豹へと変化していく。
 吉崎 拓哉は、流石に“ゆうたん”が出てきた時点でパソコンのキーボードに突っ伏して泣いた。
 耳にはヘッドホンがついたまま。
「ジュぅリ゛ぃア゛ァァァァァァ!!」
 咽び泣きが止まらなかった。



 それでも吉崎 拓哉はジュリアの盗撮をやめなかった。
 これはもはやライフワークなのだ。
 やめてしまえばメンタルを保てない。
 このパソコンや電子機器にかかる電気代や諸経費のためだけに毎日バイトに通っているのだといっても過言ではない。
 分かりそうで分からないから悶々とするのだ。
 それならば分かるように隠しカメラを増やせば良い。
 吉崎 拓哉はそれから、気合を入れて隣室への侵入を繰り返し、最終的には6箇所もの隠しカメラの設置に成功した。
 この時点で最初の郵便受け覗きからおよそ半年が経過していた。
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